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野盗の引き渡し

あれからマレフの乗る乗合馬車は無事に目的地である街に到着した。

マレフは街の入り口で野盗共を衛兵に引き渡すと、いくらかの報奨金を貰う。


「へぇ、野盗退治って案外お金になるのね」


マレフの手元を覗き込みながらアリアがそんな感想を漏らす。


「そうだな、でも野盗退治でこれだけ貰えるんじゃなくて、八割くらいは野盗達の本人の値段だぞ」

「ん?どういう事?」

「そのままの意味だ。捕まえられた野盗は犯罪奴隷として売られる事になるからな」

「あぁ」


野盗達本人の値段とはそういう意味か、では残った二割が野盗の討伐報酬という事になるのかと、アリアは納得した様子で頷いた。


「ん-、だとすると捕縛しない限りはそんなに美味しくないのねぇ」

「なんだ、金を稼ぐ算段でも考えてたのか?」

「まぁね、貯金はまだあるけど、旅をするってなると色々と要り様になるでしょ?稼いでおくに越した事はないもの」

「それは違いない」


マレフ自身、金自体は勇者一行として魔王討伐に参加した功績で、それこそ腐るほど持っていたのだが、マレフはそれに手を付ける気が一切なかった。

というのも、マレフが魔王討伐に関して自分に功績など一切ないと考えているからだ。


(あれは功績なんかじゃなく、ただのズルだ。それで得た金なんて、とてもじゃないが使う気になれないんだよな)


とはいえ、額が額なので一切使わないというのも経済的にはよろしくないので、孤児院などに寄付したり、困ってる人間の為に使ったりと、飽く迄も自分のために使わないだけであって、全く手を付けていない訳でもない。

そういう訳で、マレフが個人的に消費する金に関しては別途稼ぐ必要があるのだ。


(取り合えず、野盗のお陰で当面の資金は手に入ったな)


ある程度纏まった金が手に入ったのは良いが、毎回野盗を当てにする訳にもいかない。

それに東に近づくにつれて、野盗の数も減って来るのでそんな稼ぎ方はいずれ限界が来る。

そうなると、他の金策を考える必要が出て来るのだが、マレフには既に考えがあった。


「イリヤ、貴女はこれからどうするの?」

「私は次の街を目指す」

「は?それって今すぐって事か?」

「そうだけど」

「おいおい、先を急いでるのか知らんけど、初めての旅でそれは無茶だぞ。乗合馬車での移動とは言っても、結構疲れた筈だろう?一晩この街で休んでから行けよ」

「でも、私あんまりお金に余裕ないから、宿に泊まったりしてると馬車にも乗れなくなっちゃう」

「ん、あーそれは」


確かにそれは問題だ。

反対意見を出していたマレフも、金が足りないと言われては流石に自分の意見を無理矢理押し通す訳にもいかない。

とはいえ、じゃあそれなら仕方が無いと見過ごすには、イリヤのやろうとしている事は些か無謀に見える。


「でも、いくら乗合馬車での移動とはいえ、いざという時の為に体力は残しとくに限るんだよなぁ」


もし疲れ切った状態でまた何かに襲われでもしたら、逃げる事さえ出来なくなってしまうだろう。

それに今から次の街までの乗合馬車となると、恐らく到着が夕暮れが、場合によっては夜になる可能性だってある。

野盗にしてみれば、闇夜に乗じる方が何かと好都合だろうし、襲われる可能性は先程よりも高い。


(そして何より、俺がこんな事考えてる時点で、襲われる可能性が非常に高いんだよなぁ)


相も変わらず扱い辛い上に理解の出来ない能力だと、マレフは内心溜息を吐きつつ、ここは金を出してでもイリヤを止めようと考える。


「仕方ない、俺が――」

「私が宿代を出すわ」


マレフが言おうとした事を、アリアが先んじて口に出す。


「えぇ?でもそれは流石に悪いよ」

「さっき泣かせちゃったお詫びよ。それにマレフィストも言ってたように、初めての旅で強行軍なんて無茶が過ぎるわ。いざという時のために体力を残しておくのもそうだけど、もし病気にでもなったらどうするつもり?」

「そ、それは」

「自立しろだとか言っておいてなんだけど、ここは年上の好意に甘えておきなさい」

「……うん、分かった」


イリヤが折れる形で話に決着が着いたところで、三人の間で無言の時間が流れる。


「……さて、じゃあこれでお別れだな。短い間だったが楽しかったわ」

「うん、あと改めて、野盗から助けてくれてありがとうね」

「そうね、私も御礼を言うわ。一応戦えはしたけど、あの人数にあの距離まで近づかれたら正直危なかったし、ありがとう」

「別に、御礼を言われるような事はしてねぇよ」


あれはただ、自分の責任を取っただけだと、言葉には出さなかったが、マレフは内心でそう独り言ちる。


「じゃあな――ッ」


そう言って別れようと足を一歩踏み出したマレフ、しかし次の瞬間足に引き攣るような痛みが走り、ビクリと動きが止まる。


「何よアンタ、まだ足が痛いの?」

「みたいだな、馬車の中で休めたし、もう大丈夫かなと思ったんだが」

「筋肉痛がそう簡単に治る訳ないでしょ。仕方ないわねぇ」


アリアはそう言うと、マレフの傍でしゃがみこみ、マレフの足にそっと手を添えると、アリアの掌から暖かな光が発せられ、程なくしてマレフの足の痛みがすっと引いていく。


「これでもう大丈夫でしょう」

「おぉ、治癒魔法が使えたのか、助か――って、治癒魔法使えたんなら最初っから使ってくれたら良かったじゃねぇか!」


そうすればイリヤの拷問、もといマッサージを受けなくても済んだのにとマレフが詰め寄ると、アリアはバツの悪そうな顔をしながらその訳を話す。


「そ、それは、ついさっきまでアンタの事、野盗の仲間なんじゃないかって疑ってたんだもの」

「はぁ?なんだそれ。なんで俺が野盗の仲間だなんて疑うんだよ」


野盗に襲われたところを助けたのに、それでどうして野盗の仲間だと疑われきゃならないのだと、マレフが当然の疑問を口にする。


「だって考えてもみなさいよ。アンタにぶん殴られて派手に吹っ飛んだ野盗も、怪我は地面に身体を叩きつけた時の打ち身だけで、顔には一切傷もない。普通なら顔面がグチャグチャになっていても可笑しくはないのに、まるで意図的に怪我をさせる事を避けたみたいだわ。それに野盗達が素直に従ったのも解せないわ。あの状況で大人しく捕まるなんて普通有り得る?」

「そ、それは」

「それとアンタ、一度馬車を見送った後、後ろから追いかけて来てたわよね?野党が現れたのを見て慌てて追いかけて来たっていうなら兎も角、野盗が姿を現す前から追いかけて来てたし、あれはなんなのよ?」

「…………」


ボロボロと出て来る不自然な点に、今度はマレフがバツの悪そうな顔をする。


「まぁ、野盗の仲間なのだとしたら、どうして普通に加勢するのではなく、一度野盗を縛り上げて善人面するなんてまどろっこしい事するのだろうって疑問はあったけどね。ただそれ以上に他の不自然な点が多すぎて、野盗の仲間でもない限りアンタの行動に説明がつけられなかったのよね。まぁでも、こうして衛兵に突き出したし、その可能性は無いだろうって、治癒をしてあげたって訳」

「ははは、ありがとうございます」


もうこれは反論の余地がないと、マレフの口からは乾いた笑いしか出てこなかった。

しかしそこにイリヤからの助け舟が出る。


「アリア、もうやめてあげて、マレフィストは助けてくれたんだよ?それでいいじゃない」

「……そうね、アンタに助けられたのは事実だし、追及はしないであげるわ」

「助かるわ。正直、俺も言い難くてさ」


自分でもイマイチ理解出来ていないのに、その上で他人に説明を求められても上手くできる気がしないし、それ以前に能力がイカれ過ぎていて、正直他人に教えたくないというのがマレフの本音であった。

それに今回、乗合馬車が野盗に襲われたのが自分の所為かも知れないともなれば、猶更である。


「それじゃあ、今度こそ」

「あぁ、じゃあな」

「マレフィスト、本当にありがとう」

「おう、二人共、達者でな」


こうして、マレフはアリアとイリヤと別れ、再び一人になった。


「さてと、俺も行くか」


取り合えずは収入源の確保が最優先だと、マレフはとある場所を目指し、歩き出すのだった。

ここまで執筆してて気づいたけど、アリアとイリヤって何か名前が似てて姉妹っぽくなってしまった。

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