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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
九章 最後の戦いと魔女の末路

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87話 神殿

 少し先に進むと、ガセルが言っていたとおり馬車が待っていた。

 質素な外装ではあるがとても頑丈そうな馬車に全員で乗り込む。かなりの大人数なのに、馬車の中がゆったり感じるものだから不思議だ。

「このまま神殿に向かう。俺とセインたちは馬車は降りず、王都のギルドに行く」

「一緒には行かないんですか?」

 尋ねれば、ガセルは少しだけ顔をしかめた。

「この人、ベックさん……王都のギルド長に会いたくないんですよ。仲が悪いから」

 苦笑いを浮かべたセインの言葉にガセルはふんと鼻を鳴らす。

「向こうが俺に会いたくないだけだ」

「またそんな子どもみたいな……気にしないでくださいね聖女様。僕たちもちょっと仕事があるので。ノースは付きますから」

「そうそう。俺が傍にいるからさ」

 にこにこ顔のノースがひらひらと手を振った。

「神殿にあんまり大人数で押しかけてもってだけだしさ。お、そろそろ王都だよ」

 窓にかけられたカーテンを少しずらしてみれば、王都の街並みが目に入る。

 建物は立派で歩いている人たちの身なりはいいのに、皆顔色が悪く、どこかどんよりとした空気が立ちこめていた。

(ここが王都なんて)

 外で見てきた町の方がずっと活気に満ちていた。

 なのにどうしたことだろうと気持ちが重くなる。

 目を背けたくなったが、プラティナは自分には見届ける義務があるような気がして、その光景を目に焼き付けようとした。

 そして。

(あ……)

 馬車が止まったのは神殿の裏門だった。

 かつてプラティナはこの門をくぐり神殿に入った。そして出る時もこの門を使った記憶がある。

(もしまた閉じ込められたら)

 そんな恐怖に身体が震えた。

 だが、隣にいたアイゼンが手をぎゅっと握ってくれた。

「大丈夫だ。俺がいる」

 伝わってくる体温のおかげか、震えが止まった。

 今のプラティナには味方がいるのだ。何も怖がる必要はない。

「行けるか」

「はい」

 勇気を振り絞るようにして開いた馬車の扉をくぐる。

 懐かしくも恐ろしい裏門を見上げていると、神殿の方から誰かが転がるように駆けてくるのが見えた。

 背が高い神官と小柄な神官の二人だ。

 顔に見覚えはあるが、言葉を交わしたことはなかった気がする。

「あの」

「たぶんあの二人だね。大丈夫、味方だよ」

 先に降りていたノースが慣れた手つきで門を開け、プラティナを中へと促した。

 それと同時に神官二人がプラティナの前に駆けつけ、地面に思いきり頭を伏せたのだ。

「ひえっ!」

「「おかえりなさいませ、聖女様」」

 綺麗に声を揃えた二人は、まったく同時に顔を上げた。

 その顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。

「ご無事でよかったですぅうう」

「本当に……本当によかったです」

 どうやらノースが言ったとおり味方らしい。

 トムとエドとなのった神官は、プラティナを神殿の中に招き入れてくれた。

 神殿の中は不思議なほどに静まりかえっており、人気がない。

「他の人たちは……?」

「みんな、神殿前の広場です。ほとんどの人手はそっちにかり出されているので、静かなもんですよ」

「何かあったのですか?」

 神殿前の広場と言えば、炊き出しであったり神殿長の演説で使っていたことしかしらないが、そこまで人手がいる事案とは何だろうか。

「ちょっとした制圧ですよ。聖女様はお気になさらず」

「せいあつ?」

 言葉が飲み込めずプラティナがその意味を考えようとしていると、先を歩いていた神官のエドが目の前の扉に手をかけた。

 そこは神殿の最奥にある、神殿長の部屋だった。

「えっ、ここって」

「どうぞ。中でお待ちですよ」

 ゆっくりと開いた扉の中には、神殿とは思えないほどの豪華な光景が広がっていた。

 調度品は何から何まで高級品で、広さだってこれまでプラティナが目にしてきた部屋のどれよりも広い。

「聖女様、ですか」

 呼ばれる声に驚いて顔を向ければ、部屋の奥まった箇所に備え付けてある長椅子に座っていたであろう人物がこちらを見てきた。

 大柄な体格をした男性。燃えるような赤毛に浅黒い肌。年齢はゼットくらいだろうか。真っ直ぐにこちらを見てくる瞳は怖いくらいに真剣だ。

「やっほー! プラティナちゃん、あれがうちのギルド長のベックさんだよ~」

「ノース、貴様……緊張感というものをだな」

「へへ」

 ベックと紹介された男性はノースを思いきり睨むと、すぐに居住まいを正しプラティナに向かって深く頭を下げた。

「お初にお目にかかります。私は王都のギルド長、ベックです」

「はじめまして。プラティナです。今回は私のために手を尽くしてくれて……ノースには本当に助けられました。ありがとうございます」

 ベックがノースを寄越してくれたおかげでこうやって王都に帰って来られたのだ。

 感謝していると伝えれば、ベックは何度も首を横に振る。

「いいえ。本当ならば我々がもっと早く気がついて聖女様をここから助け出すべきでした」

「気にしないでください。私も、あの頃は自分がどんな立場なのかを知らなかったんですから」

優しく声をかければ、ベックが潤んだ瞳でプラティナを見た。

「ありがとう、ございます……」

「えっ、ベックさん泣いてるんですか!? マジで!」

「黙れノース!」

 ベックの拳がノースの頭を思いきり殴りつけ、小気味よい音が響く。

「まったく……すみません、こいつ迷惑をかけませんでしたか」

「ひでぇよぉ」

 息の合った二人のやりとりを見つめていると、アイゼンが呆れきった声を上げた。

「まったく。王都のギルドはずいぶんと仲よしこよしなんだな」

「アイゼン!」

 思いきり喧嘩を売るような口調を咎めれば、アイゼンは両手を挙げてみせる。

 ベックは特に意に介した様子はない。

「そうだな。じゃれている場合じゃなかった」

 ごほんと咳払いをしたベックが再び背筋を伸ばす。

「聖女様……いえ、プラティナ王女。ノースからだいたいの事情は聞いています。宰相のヴェルディ殿に会いたい、というお気持ちは変わりませんか」

「はい。私はそのためにここに来ましたから」

 ヴェルディから話を聞き、もし彼が本当に味方ならばレーガを倒すために力を貸してもらいたい。

 もしちがったとしても、彼がプラティナを巡礼の旅に送り出したのかどうかだけでも確かめたかった。

「……わかりました」

「会えるんですか?」

 まさかここにくるのかとそわそわしてみるが、ベックは察したのか緩く首を振る。

「いえ。実を言えばまだ宰相には連絡が取れていません。ですが、彼の居場所はわかっています。そして、行き方も」

 ベックは部屋の奥へと行くと、壁に備え付けられている本棚に手を伸ばした。

 並べられた本のひとつに手を伸ばし、それをおもむろに奥へと押し込む。

 すると、重々しい音が響き本棚が左右に開いた。

「す、すごい……!」

 あらわれたのはぽっかりと開いた穴だった。先は暗く、何があるのかさっぱり見えない。

 困り果てていると、アイゼンがつかつかと穴へと近寄り中を覗き込んだ。

「隠し通路か」

「ああ。神殿長はこの通路を使って頻繁に城に行っていたらしい。女王の術に掛かっていない神官たちが証言した」

 ベックはプラティナたちが戻ってくるまでの間、レーガに自分から味方している神官たちを見つけ出し、情報を聞き出したのだという。

 彼らによれば、女王と神殿長、そしてヴェルディは城の奥にこもっており、政治は必要最低限の指示だけが飛んでくるだけ。

 その上、魔法が解けたのか正気に返る者も多く、城の中は混乱しきっているらしい。

「女王の支配は確実に弱っています。問題は、ヴェルディが女王の傍にいるということです」

「彼に会うには女王との接触は避けられないってことですね」

「ええ。この通路は、城の地下牢に通じています。地下牢から城の奥まではノースが隠し通路を知っていますので、行くのは容易ですが……」

 そのあとについてはできることは限られているのだろう。

 ヴェルディに会う前にレーガに遭遇したとして、果たして勝ち目はあるのか。

「プラティナ」

「……アイゼン」

「ここで迷っていても仕方がない。とにかく城に行って君が直接、自分の目で確かめるべきだ。それに君は聖女だろう? 君は君のやり方で戦えるはずだ」

「私の、やり方……」

 自分に何ができるのだろうと考えていると、いつの間にか手に小型のランプを持ったノースが穴に頭を突っ込み様子を確かめている。

「ベックさ~ん、この穴って安全なんですよね」

「ああ。何度か確かめたが、罠の類いはない。地下牢まで安全だ」

「了解! じゃ行こうかプラティナちゃん」

 振り返ったノースがにっこりと笑って手を差し出してくる。

 少し考えてからアイゼンを見上げ、彼が頷くのを確かめてからプラティナは前へと進んだ。

「ベックさん、トムさん、エドさん、ありがとうございます。私、ちょっと行って、国を取り戻してきますね」

 ここまで助けてくれた三人に頭を下げてから、ノースの手を取り、アイゼンともに穴をくぐる。


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