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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
八章 最後の聖地と恋心

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83話 襲撃


 ぱちりと目を開ければ、部屋の中はまだ薄暗かった。

 小さなドラゴンの姿に戻っているアンバーが枕元でお腹を出して眠っている。

(朝?)

 いつ眠ったかの記憶もないため頭の中がぼんやりしていた。

 どうしてこんなに早くに起きてしまったのかと考えていると、誰かが話している声が聞こえてくる。

(誰かが言い合ってる? 何かあったのかしら)

 起こさないように気をつけながら寝床から出たプラティナは、外の様子をそっと窺った。

「だーかーら、俺は密偵とかじゃないって!」

 聞こえてきた声に意識が一気に覚醒した。

 慌てて外に出れば、草の民たちに囲まれ弱り果てた表情を浮かべるノースが立っていた。

「ノース!」

「あ、プラティナちゃん~~!!」

 ひらひらと手を振るノースに慌てて駆け寄れば、草の民たちが戸惑いの声を上げた。

「聖女様、この者は先ほど聖地をうろついてた不審者ですぞ」

「名も名乗らず……お知り合いなのですか?」

「酷くない? アイゼンかプラティナちゃんに会いたいっていったら取り囲んできてさぁ。よってたかって酷くない?」

 ぶうっと頬を膨らませるノースだったが、彼が本気になればこの場にいる全員を倒すことだってできたはずだ。

 それをせずに静かにしていてくれた優しさに頬が緩む。

「彼はノース。私の大切な仲間です」

「プラティナちゃん!!」

 感極まったような声を上げるノースに微笑みかけ、プラティナは草の民たちに向き直る。

「アイゼンを呼んできてもらえますか?」

「もう来ている。まったく、お前は騒ぎを起こすのが趣味なのか」

「うわ、ひっでぇ。一人で砂漠を抜けてきた俺に酷くない!?」

 いつの間にかあらわれたアイゼンがしらけきった視線をノースに向けていた。

 対するノースは先ほどよりもずっと子どもっぽく怒っている。

 確かに装備はあちこち砂だらけで、普段よりもずっとくたびれているのがわかった。

「おつかれさまです。怪我はしてませんか?」

 髪に積もった砂を優しく払ってあげれば、嬉しそうに頭を預けてくる。

 別れたところからここまで人の足で二日ほどとクルトたちは言っていたのに、アイゼンが言っていたように実質一日もかからなかったノースのすごさに感心していると、アイゼンが水袋を手渡してやっていた。

「で、どうだった」

「先に少しは労れよぉ……ま、だいたい予想通りってところかな」

 水を一気に飲んだノースは大きく深呼吸して身体を伸ばす。

 そうこうしていると、ゴルドもかけつけてきた。

 こんなに早く辿り着いたノースにゴルドも酷く驚いているようだった。

「あの砂漠を、こんな短い時間で?」

「まあ俺、これでもそこそこ実力のある冒険者なんで。本音を言えばちょっと休みたいところだけど、報告したいことがいっぱいあるんだよね」

 口調も表情も柔らかだが、その瞳は冷たく冴えていた。

 アイゼンもそれに答えて静かに頷く。

「話を聞こうか。こっちもいろいろと報告がある」

 この集落に来た時に最初に案内された建物に再び集まる。

 ノースは少し疲れているようではあったが、プラティナたちが経験した話を聞くと盛大に驚いて、それから嬉しそうに笑ってくれた。

「そっか。アンバーは家族に会えたんだな」

「うん!」

 人の姿になったアンバーの頭を撫でてあげるノースの姿はまるで年の離れた兄弟のようだ。

 一緒に旅をしてきたことで、二人の間にはしっかりと絆が芽生えていたのだろう。

 草の民は信仰の象徴である龍に対し、あまりにも気安いノースの態度に困惑していたが、アンバーが嬉しそうなのですぐに認めたようだった。

「じゃあ次は俺の話ね。教えてもらった順路にそって進んでたけど、こっから少し離れたオアシスにおそらく傭兵が隠れてる」

 部屋の中に緊張が走る。

「ここの監視をしてるのかと思ったけど、それ以上にここを目指してる人間がいないか気を張ってるみたいだったよ。そのわりに俺には気付かなかったから、雑魚だろうけど」

「人数は」

「十はいないってところかな。隠れてる奴がいたかもだけど、多くても十四、五ってとこかも」

「そんなに……」

 この集落に住む草の民は多いが、その大半は女性であったり子どもだ。

 もしその人数が一気にここを襲撃し、戦いとなれば彼らに被害が及ぶかもしれない。

「いったい何の目的で」

「まあ間違いなく聖女様だろうね」

 はっきりと言い切ったノースにアイゼンが目を細めた。

「根拠は。砂漠を通る旅人を狙う盗賊の可能性は何故ないと言い切る」

 確かにその可能性だってゼロではないのに、ノースの口調は断定的だ。

 周りからの視線を一身に集めたノースは、ふっと口の端を吊り上げる。

「立っていたんだよ、あの苦労知らずが」

「苦労知らず?」

「神殿長の息子さ」

「…………ツィンが!?」

 まさかと叫べば今度は部屋中の人たちがプラティナに視線を向けた。

 アイゼンは腕を組み、怖いくらいに視線を尖らせる。

「お前、あいつらを追い出したんじゃなかったのか」

「そんな睨むなよ。金と身分証を奪って港町の外に追い出したのはほんとだって。装備を見る限り、後援が来たから砂漠で待ち伏せる計画に切り替えたってとこじゃない?」

 ノースが確認したところ、ツィンたちは砂漠を越すに相応しい装備と食料を持っていたらしい。

 プラティナと宿屋の前で別れてすぐに移動して待っていたのだとしたら、相当の執念だ。

「で、俺がこんな早くからここに来た理由を話すね。本当はもう少し見張ってたかったんだけど、連中は昨晩になってやけに慌てだした。んで、ここを襲撃する計画を練りはじめてたよ」

「何ですと!」

 ゴルドが大きな声を上げて立ち上がった。

 草の民たちも激しく動揺している。

「あと一時間くらいで来るんじゃないかな」

「なっ……どうしてもっと早く言ってくださらないのですか! 早く襲撃に備えなければ! 皆、武器を持て!」

 ゴルドが主体になり若者たちに指示を飛ばす。

 だがそれを止めたのはのんびりとしたノースの声だ。

「人の話は最後まで聞くもんだよ~~」

「何を悠長な……」

「だから、最後まで聞けって」

 ノースはにんまりと笑うと立ち上がって窓の外に視線を向けた。

「あいつらの武器はほとんど壊しておいたし、水も奪ってきた。こっちに来る途中の道にはいっぱい罠を仕掛けてきたんだよね。そろそろ……」

 集落の外から、動物の鳴き声めいた悲鳴が聞こえてきた。

 憐れっぽいその声はひとつ二つと重なり、こちらに響いてくる。

 アイゼンが思いきりげんなりした表情を浮かべた。

「悪趣味だな、お前は」

「死なない程度の罠にしておいたの優しくない?」

「話を聞くためだろう」

「まあね」

 肩をすくめたノースに溜息を吐いて見せたアイゼンが立ち上がる。

「君たちはここにいろ。俺たちで始末をつけてくる」

「わ、私も行きます!」

「やめといた方がいいよ。プラティナちゃんはここで待ってて。みんな~俺たちの聖女様をよろしくね」

 言うが早いかノースとアイゼンは建物を出て行ってしまった。

 慌てて追いかけようとしたが、ゴルドたちに引き留められてしまった。

 アンバーも行きたいとごねていたが、やはり引き留められて頬を膨らませていたのだった。



 ノースと二人、夜の明けきらぬ薄暗い道を急ぐ。

 叫び声は聞こえなくなっているので、罠は動作し終わったのだろう。

「お前一人でも倒せただろうに、何故わざわざ罠にかけた」

 少し先を走るノースの背中にアイゼンはそう声をかけた。

 オアシスで秘密裏に襲撃して捕らえることもできただろう。

 なのにここまでおびき寄せた理由がわらなかった。

「あいつらさ、女王から聖女様は生きてさえいればいいって命令されてた」

「……は?」

「神殿長の息子も一緒になってゲスに笑ってたよ。二度と逆らったり逃げ出せないようにわからせてやろう、ってさ」

 頭の血管がぶちりと音を立てて切れた気がした。

 プラティナに出会ってからずっと忘れていた黒い感情が一気に噴き出す。

「よく殺さなかったな」

「そう簡単に楽になれると思わないでほしかったんだよね」

 ずっと笑ってはいたが、ノースも本気でキレているらしい。

 オアシスと砂漠の境界までくると、血の臭いが鼻を突いた。

 確かにこれはプラティナを留守番させていて正解だったことだろう。

 残酷な罠にかかってかろうじて命を繋いでいるのは五、六人といったところだろう。

 斥候として集落に忍び込もうとした連中のようだ。

 そして罠の向こうには腰を抜かした三名ほどの人間が見えた。

 目の前で仲間たちが苦しんだのを見たらしく、真っ青な顔でその場にへたり込んでいた。完全に戦意を喪失しているのがわかる。

「お、お前らっ」

 一番後ろでガタガタと震えていた男が叫んだ。

 その顔を見た瞬間、アイゼンは地面を蹴っていた。

 プラティナに抜くなと言われた剣を鞘から引き抜き、ノースが仕掛けた罠を飛び越え男の前に辿り着く。

「ひ、ひい……」

 涙と鼻水で汚れきったツィンの顔はみっともなく引きつっていた。

 恐怖からか下半身は汚物で汚れているし、身体は砂まみれだ。

「どの面を下げてプラティナのところに来た」

「あ、あいつ……あいつを連れて行かないと、僕が殺されるんだ!」

 震える声で叫ぶツィンがみっともなく泣きじゃくる。

「女王陛下は本気だ。港町でお前たちに負けたと報告したら、プラティナを連れてこなければ殺すと言われたんだ! 父上はもう囚われの身だ! メディ様だって……」

 ぼろぼろと涙を流す姿はどこまでも無様だ。

 哀れすら誘う姿だが、アイゼンの心が同情に傾くことはなかった。

「ならば頭を下げるべきだったな」

優しいプラティナはこんな屑でも救おうとしたことだろう。

 もともと巡礼が終われば城に戻るつもりの彼女のことだ、ツィンを連れて城に行くと言ったに違いない。

「でもお前さんたちはさ、俺たちの大事な聖女様をわからせようとしてたんじゃん」

 冷たいノースの声に目線だけ向ければ、ツィンの傍に控えていた屈強な兵士にとどめを刺していた。

 なるほど先にやらなかったのはツィンの前でみせしめにするためかと納得する。

「お前さ、聖女様の婚約者だったんだろ? なのに聖女様が痩せ細っていくのを助けなかった。倒れても手を差し出さなかった。他の女に乗り換えた。死にかけだってわかってたのに巡礼の旅に追い出した。一度は見逃してやったのに、反省もせず保身のためにここに来た。俺は絶対にお前を許さない」

「ひ、ひいい……!」

「聖女様は優しいからお前に会ったら許しちゃうと思うんだよね。でも駄目だよねぇ」

「ノース、やめろ」

 今にも拷問をはじめそうなノースを止めるために腕を掴めばものすごい力で腕を振り払われた。

 瞳に光はなく本気なのが伝わってくる。

「まさか止めるの?」

 ノースの言葉に、這いつくばっていたツィンの表情に期待が混ざる。

 アイゼンはその腹立たしい横顔を思いきり蹴飛ばしてから「まさか」と答えた。

「まだ情報を聞き出してない。終わったら好きにしろ」

 恐怖からかツィンは情けない悲鳴を上げてその場に昏倒しかけるが、胸ぐらを掴んで顔を思いきり殴ってやった。整った前歯が一本抜けて砂に落ちる。

「う、わぁ……」

「簡単に気絶できると思うなよ」

「そうそう。知ってることぜーんぶ吐いてからにしようね」



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