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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
6章 港町ラプソディ

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66話 依頼達成

 

 ヒラヒラと手を振るのは、ノースだった。その後ろからアンバーが倉庫の中に飛び込んでくる。


『プラティナ~! 僕頑張ったよ!』

「アンバー! 大丈夫だった? 何も無かった?」

『うん。ぜーんぶアイゼンたちがやっつけたから大丈夫』

「…………えっ?」


 恐る恐る倉庫の外に出てみれば、先ほど見た警備隊の男性たちが累々と倒れていた。

 全員完全に気を失っており、怪我をしているようではないがかなり凄惨な光景だ。

 周囲には船乗りたちが集まっていてなかなかの騒ぎになっている。


「アイゼン。これは……」

「心配するな。話はついた」


 これは話をしていないのではないだろうか。さすがのプラティナも異議を唱えたくなったが、それよりも先にノースが笑いながら言葉を紡いだ。


「安心して。こいつら、プラティナちゃん目当てじゃなかった」

「えっ、じゃあ……」


 もしかして禁制品がここに在ることがバレたのだろうか。

 クルトを振り返れば、青ざめた顔で倒れている警備隊を見つめていた。


「そっちでもなかった。こいつら、定期的にここに来ては無駄なイチャモンを付けて善良な市民を脅してたらしくてさ。俺たちのことも怪しいからって絡んできてさ~」

「俺のことを不審者呼ばわりしたんだぞ」


 それは絡んで来たのではなく、正当な質問だったのではないだろうか。

 プラティナはすっかり見慣れたが、アイゼンは黙っているとなかなかに迫力があると思う。そこにノースが加われば目立つにちがいない。


「ちゃんと依頼を受けた冒険者だっていっても信じてもらえなくてさ」

「警備隊の詰め所に同行を求められたが、断ったら攻撃してきたから反撃させてもらった」

「……それって不味いんじゃないですか?」


 たとえこの港町が自治権の強い地域とは言え、王国の警備隊を倒して許されるはずがない。


「まあ大丈夫じゃない? しばらくは気を失ってるだろうし。こういう連中はメンツを大事にするから、冒険者に倒された~なんて言わないと思うよ」

「えぇ……」

「仕事中の冒険者を正当な理由なく拘束しようとしたってのがギルドにバレたときの方が面倒だと思うし」

「ああ。先に手を出してきたのはこいつらだ。証人は多いぞ」


 アイゼンが指さしたのは周りに集った船乗りたちだ。誰もが、妙にすっきりとした顔をしている。倒れた警備隊の男性に、その辺に落ちていた石を投げ付けている人もいた。


「この連中かなり評判悪いみたいで、俺たちが戦っている間は声援が上がりっぱなしだったんだよ」

「手応えがなさ過ぎだ。王国の警備隊が聞いて呆れる」

「一応、元同僚なんだし優しくしてやればいいのに」

「馬鹿言うな」

『僕も頑張ったよ!』


 どこから怒ればいいのかわからなくなって、プラティナは肩を落とす。

 三人に怪我がなかったことは幸いだが、複雑極まりない状況だ。

 こんな騒ぎを起こして本当に大丈夫なのだろうか。おろおろとしていると、とんとんと誰かに肩を叩かれた。


「あの……」


 振り返るとクルトが真っ青な顔で立っている。

 彼にしてみれば、想定外どころの話ではないだろう。立場や状況上、プラティナたちよりも騒ぎに巻き込まれたくはない筈だ。


「僕、どうしたら」

「安心しろ、お前の顔は見られていないから知らないフリを貫けばいい。片付けは俺たちがする。お前は必要な処理を早く済ませて、必要な薬草だけ持って出てこい」

「は、はい!」


 アイゼンに指示され、クルトは慌てて倉庫に戻っていく。

 ノースとアンバーは倒れている警備隊の面々を邪魔にならないところに引きずって片付けはじめた。


「あの、その方々はどうするんですか」

「どうもしない。一時間くらいは目を覚まさないだろうが放置だな」

「えぇ」


 それでいいのかと戸惑っていると、周りに集まっていた船員たちの一団が近づいてきた。

 警戒するようにアイゼンがプラティナの前に立つ。


「安心しな。こいつらが目を覚ましたら、夢でも見たんだろうって俺たちが言っておくよ」

「ああ。いつもここいらで暴れてたからいい気味だ」

「兄ちゃんたち強いな! ほぼ一撃だったじゃねぇか」


 どうやらアイゼンたちの戦いぶり感動した人たちらしい。

 口々に協力を申し出てきてくれた。どれほど警備隊の人たちは嫌われているのだろうか。


「助かる。ついでと言ってはなんだがギルドの職員が来るまでこの倉庫を見張ってくれないか。この連中がなにかする可能性もあるから」

「ああ、かまわねぇぜ」

「ギルドを呼ぶんですか?」

「ああ」

「お待たせしました!!」


 息を切らせたクルトが倉庫から駆け出てきた。額に汗を掻いていることから相当に急いだのだろう。

 大切そうに背負い袋を抱きしめている。


「必要な薬草はそれだけか? 残りはギルドに売却でも構わないな」

「ええ。元々そのつもりだったので」

「わかった。よし、行くぞ」


 警備隊の人たちはアイゼンの言葉通り目を覚ます様子もない。

 声援を送ってくれる船乗りたちに手を振りながら、プラティナたちはギルドに向かったのだった。



「倉庫前で警備隊に絡まれた」


 その報告を受けたギルドの面々は一気に殺気立った。よほど相性が悪いらしい。

 見張りをしている最中に拘束されそうになったので反撃した、という事情を説明したら仕方が無いと理解を示してくれただけではなく、厳重に抗議をするとまで言ってくれた。


「災難でしたね。でも、これで依頼は達成と言うことでよろしいですか?」

「ああ。これが受取人だ」


 背負袋を抱えたままのクルトが受付嬢にぺこぺこと頭を下げながら、サインをした証明書と革袋を差し出した。じゃらりという重厚な音が聞こえたので、どうやら中身は金貨らしい。

 受付嬢はそれを受け取り確認すると、ぱっと笑顔を浮かべた。


「はい。預かり金と証明書、間違いなく確認しました」

「あの、薬草がおもったより多かったので倉庫に残っている分はギルドに買い取りをお願いしたいんですが」

「承知しました。じゃあ、あっちの窓口で受付をしてください」


 受付嬢に促され、クルトはバタバタとかけていく。

 どうやら無事にいろいろが片付きそうだ。


「この預かり金の2割がみなさんの取り分になります」

「助かる」

「それと、先ほどの薬の査定が終わりました。どれもとっても高品質で素晴しい品でした。こちらで全て買い取りさせていただきましたので金額を確認してください」


 大きな革袋がカウンターに乗せられる。先ほどクルトが出したものの倍以上はあるだろう。

 提示された金額は、プラティナの予想をはるかに超えるもので、嫌な汗が出てきた。


「ずいぶんと高値で買い取ってくれたんだな」

「はい! 今、色々あって薬不足なんです。以前は王都からいい薬が流れてきたんですけど今は全然で」

「そうか……」


 王都からの薬とはプラティナが作っていた薬のことだろう。

 こんなところにまで届いていたことで、影響が出ていたらしい。


「ところで」

「なんだ」

「あなたって本当に凄腕の薬師なんですね! どうです? このギルド専属になりませんか!」

「は……?」


 受付嬢がカウンターから身を乗り出してアイゼンに迫りはじめた。

 そういえば薬を作ったのはアイゼンだということにしていたのを忘れていた。

 説明しようと近づいたプラティナだったが、受付嬢はソレよりも早くアイゼンの両手をぎゅっと握って顔を近づける。


「貴方の腕なら安定した収入をお約束できます! どうですか!!」


 その光景に胸の中がざわめいた気がしてプラティナは小さく首を捻った。


(ん……?)


 なんだかすごくモヤモヤする。ノースやアンバーが同じような距離感でいるときには感じたことがないのに。

 とにかく受付嬢を引き離さないととプラティナは声を上げる。


「あの……」

「悪いが、俺はここに留まるつもりもない」


 だがそれより先にアイゼンが受付嬢の手を振り払いながら、ハッキリと言い放った。


「俺には大切な目的がある。薬は売るが、それだけだ。早く終わらせてくれ」


 取り付く島もないきっぱりとした口調に、受付嬢がしゅんと肩と落とした。

 本気でアイゼンを引抜きたかったのだろう。

 しおしおとカウンターの奥に戻り書類を作りはじめた受付嬢の背中を見つめながら、プラティナはアイゼンにすすっと近づき、小声で呼びかける。


「すみません、言ってなくて。私の薬、アイゼンが作ったことにして納品したんです」

「いい判断だ。その方が目立たなくていい」


 どうやら間違っていなかったらしい。

 ほっと息を吐けば、アイゼンがプラティナの頭をぽんと撫でた。


「よく頑張ってくれた。おかげで資金も潤沢だ」

「私、役に立てましたか?」

「十分過ぎるほどだ。ありがとう、プラティナ。よく頑張ってくれた」


 どこまでも優しい笑みが向けられた。

 その眩しさにプラティナの心臓が奇妙な音を立てる。


(あれ、あれあれ……?)


 顔が熱を持ち、その場から走り出したいような声を上げたいような衝動がこみ上げてくる。

 それが何を意味するのか分らず、プラティナは熱っぽい頬を両手で押さえた。

 どきどきと高鳴る心臓がうるさくて耳を塞ぎたくなる。


『プラティナ、どうしたの』

「えっ、ええと」


 アンバーが心配そうに声をかけてくるが、自分でもどうしたのかよく分らないので返事ができない。

 一人でおろおろとしていると、こちらの動揺など一切気にしていないらしいアイゼンがノースと何やら話し合いをはじめてしまった。

 このあとの予定について決めているらしい。


「プラティナ」

「はい!」


 裏返った声で返事をしてしまったせいで怪訝そうに眉を寄せられたので、プラティナはなんでもないと笑って誤魔化す。


「一度宿に戻って荷物を整理したら今日中に出立する」

「買い物は、どうするんですか」

「ゼットに昨日のうちに頼んであるから準備してくれているはずだ」


 どこまでも頼もしい人だと感動していると、ノースが「お」と小さく声を上げた。


「あっちも話が終わったみたいだよ」


 薬草の買い取り処理を終わらせたらしいクルトが、こちらに駆け寄ってくるのが見えた。

 ほっとしたような表情から無事に話が付いたらしい。


「お待たせしました」

「いや。無事に終わったか」

「はい。あとは仲間が到着するのを待つつもりです」

「そうか。気をつけてな」


 大切そうに抱えられた背負袋の中には、龍の雫の蜜が入っているのだろう。

 彼らにとって大切なものだというそれをどうか無事に役立てて欲しいと思う。


「今回はお世話になりました」

「こちらこそ騒ぎに巻き込んですみません」

「いえいえ! もしあなた方がいなかったら僕は警備隊に捕まっていたかもしれないですし。皆さんはこれからどうするんですか?」

「俺たちはこれから砂漠の聖地に向かう予定なんだ」

「聖地に!?」


 クルトが驚いたように声を上げた。

 それからプラティナをじっと見つめ、何かを急に考え込む。


「あの。僕に少しだけ皆さんの時間をくれませんか?」


 やけに真剣な口調だった。その表情には先ほどまでのあどけなさはない。

 アイゼンがわずかに目を細める。


「一体なにを……」

「プラティナさん。さっきの話の続きをしましょう。きっとこれからのことに必要になるはずです」

「……!」


 倉庫の中で交わした会話を思い出す。

 プラティナの母のこと。草の民がなぜレーガに迫害されたのか。

 何かが変わりそうな予感に、プラティナは両手で胸を押さえたのだった。


完結させるつもりだったんですがまだ続きそうです……

これにて港町編はおしまい!

次は最後の聖地へ向かってのお話になります!!

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