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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
四章 自覚と無自覚

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幕間 聖女の手がかり


「そういえば王都近くの街で起きてた水の汚染。流れの薬師が解決したって話を聞いたか?」

「ああ。なんでも凄腕の薬師だって言うじゃないか。城門の兵士達が言ってたぞ」

「薬師? 聖女様の間違いじゃないか?」


 王都の酒場。

 旅人たちが肩を寄せ合いながら噂話に花を咲かせていた。


「カーラドの谷にある聖地を悪用してた詐欺師達を成敗した聖女様の話なら聞いたぜ。その聖女様も凄腕の薬師を連れてたとか。男女二人組だと言うし、同じ人たちなんじゃないかねぇ」

「俺が聞いた話だとその薬師は聖女様の護衛だって話しだぜ」


 わいわいと楽しそうに語る彼らは噂の聖女様についてあれこれと妄想を膨らませて話を続ける。

 聖なる力を使い先々で献身的に人々を助けるとある聖女。それはちょっとしたおとぎ話として最近有名な噂だ。

 きっかけは随分前から指名手配を受けていた詐欺師たちが捕まったことだという。

 奴らは弱った人間につけ込んで、怪しい商売をさせては各地を転々としていたのだ。

 旅人にも商売人にとっても仇のようなその存在がようやく罰を受けたと知った彼らは、それを助けたという聖女様の噂に夢中だった。


「そういえばこの王都にも聖女様がいるんじゃなかったか? 俺はその聖女様が作った薬が欲しくてここまで来たんだが」

「あ~~それが、この国にいた聖女様は急に代替わりしたんだ。なんでもご病気だそうで、今は妹姫が聖女になったらしいぞ」

「薬も今在庫がある限りだそうで、どんどん価格が上がってる」

「なんだよ、アテが外れたぜ」


 がっくりと肩を落とすのは旅の商人だ。


「この国で作られた薬は安価な上に効果が高くてよく売れたんだがなぁ……商売あがったりだよ」

「お前の商売なんか知るかよ。問題なのは薬が出回らなくなったってことだ」

「そうだよなぁ。実際、最近スラムの方で妙な病気が流行ってるそうじゃないか」

「王都の外れにある鉱山が崩れたって話も聞いたぞ」

「俺は、小麦畑が虫にやられたのを見た」


 さっきまでの楽しげな空気が一変し、彼らの表情が暗くなる。


「噂の聖女様がこの国に来てくれればいいのに」

「そうだよな。白銀の聖女様よ、どうか俺たちに恵みを!」

「ついでに商売繁盛を頼むぜ!」

「俺はいい女が抱きたい!」


 乾杯の音頭に合わせて旅人たちが好き勝手に叫んだ瞬間、少し離れた席に座っていた男が勢いよく立ち上がった。

 その拍子に椅子が倒れて床に落ちる。

 大きな音に旅人たちがびくりと肩をすくめながら振り返れば、少し大柄な男がこちらをじっと見つめていた。


「おい、お前達、今なんと言った」

「へ、あ? 女を抱きたい、と」

「お前じゃない!」

「商売繁盛」

「ちがう」

「俺たちに恵みを!」

「その前だ!」

「白銀の聖女様?」

「それだ」


 かっと目を見開いた男に旅人達はひいいっと悲鳴を上げる。


「白銀の聖女。お前達はそう言ったな。なぜ白銀なんだ」

「そ、それはそう聞いたからで……」

「誰に聞いた」

「知り合いのギルドにいた職員からだ。詐欺師に騙されていた連中が言ってたそうなんだよ『白銀の髪をした聖女に救われた』と」

「そうか!」


 男は旅人の言葉に目を輝かせた。


「そのギルドはどこのギルドだ」

「ええっと……たしか西部の……」

「西部か。なるほど助かった。ココは俺のおごりだ、好きに飲み食いしてくれ!」


 そう言うと同時に男は酒場の店主に金貨を投げて店を出て行ってしまった。

 残された旅人達は、これも聖女の恵みなのだろうかと首を捻りながらも、ただ酒の喜びを味わったのだった。




「おい。今すぐ西部のギルドに連絡を取れ」

「何ごとですか?」


 一度帰宅したはずのベックが、扉を壊さんばかりの勢いで駆け込んできた姿に残業していたギルド職員達は目を丸くした。


「西部のギルドって……あそこのギルド長とは犬猿の仲じゃなかったですっけ?」

「うるさい。それどころじゃないんだ。あとは、隣街のギルドにも連絡を入れろ。あそこにはセインもいたはずだ」


 セインはかつてベックの弟子だった冒険者だ。

 王都の腐敗ぶりに嫌気がさして数年前にすぐ隣にある街のギルドに所属していた。


「連絡はすぐに取れますが……どうしたんですか?」

「とにかくこう聞け「白銀の髪をした少女について教えろ」とな」


 訳のわからぬ指示に職員達は顔を見合わせる。

 だがギルド長に逆らう理由はないと、時間外勤務に渋い顔をしながら手を動かしはじめる。

 ベックはそれを少しだけ見守ると早足に自分の部屋へと向かった。

 そして通信魔法が刻まれた水晶を取り出すと、大声で呼びかける。


「おいノース! お前いまどこにいる!」


 数秒の間を置いて、水晶が淡く輝いた。


『ギルド長! こっちは隠密任務中なんですから、でかい声で喋りかけないでくださいよ!』

「うるさい。それどころじゃないんだ。まだ確証はないが、聖女様の手がかりが見つかった」

『まじっすか!』


 水晶の向こうでノースが叫んだのが聞こえる。


「西部のギルドでそれらしい話を聞いた奴がいた。おそらくはカーラドの谷にある聖地で何かしたらしい」

「巡礼を終えたのなら次の行く先は、ラナルトか、それとももう一つの聖地か……」

『なるほど……あのお坊ちゃんがどこに行くか読めなかったんですが、方向だけならラナルトですね』

「港にか? まだ何の情報も仕入れてないのに何故?」


 神殿長の息子がレーガに命じられプラティナたちを探していると知ったベックは、国内での調査は他の者に任せノースにその追跡をさせていた。

 それは王家よりも先にプラティナを保護し、守るためだ。

 レーガは危ない。おそらくはベックたちが考えるよりもずっと。

 この国のためにもプラティナを保護しなければ。

 それがギルド長としてのベックが下した決断だった。


『これは勘なんですけど、あのお坊ちゃん何か追跡魔法の類いを使ってるんじゃないかな。本人も自分がどこに行こうとしてるのかわかってない様子だし』

「……追いかければ、聖女様に辿り着くってことか」

『近くまで連れてって貰いますよ。聖女様さえ見つかれば、あんな連中に負けませんて』

「気をつけろよ」

『はいはーい』


 気の抜けるようなノースの返事と共に通信が途切れる。

 ぐったりと脱力しながらその場に座り込み、ベックは深いため息をついた。


 白銀の聖女と呼ばれる存在はプラティナに間違いない。

 そして薬師を名乗る男が一人傍にいるという情報。

 その男がメディが押しつけた騎士ならば、つじつまが合う。


「どうかご無事で」


 かならず助け出して見せますからとつぶやきながら、ベックは静かに祈りを捧げた。


次話から五章です。

完結までさくさくがんばります~!!

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