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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
四章 自覚と無自覚

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32話 休んで欲しい


 優しい風の匂いが漂う平原をプラティナとアイゼンはゆっくりと歩いていた。

 その頭上ではアンバーがくるくると回りながら空中遊泳を楽しんでいる。

 大きくなりすぎたこともあり、プラティナの鞄に収まらなくなったアンバーは、呼びかけない限りは一人できままに飛んでいることが増えた。

 首にはギルドで作って貰った首輪がついているため、危険な目に遭うこともないだろう。


「そろそろ休むか?」

「まだ大丈夫ですよ。少し前に休んだばかりじゃないですか」

「そうか……」


 どこか落ち着かないようすで目をそらすアイゼンに、プラティナは密かにため息をつく。

 最初の聖地で無事に経文を納め、集落に暮らす人々を救ったあとからどうもアイゼンの態度がおかしいのだ。

 過保護なほどにプラティナの体調を気にしてくるくせに、返事をしたり話しかけると目をそらす。近づくと一定の距離を取られるし、時々妙に口数が少なくなる。


(やっぱりもう迷惑なのかな)


 巡礼の旅を始めてそろそろ半月といったところだろうか。

 過酷と聞いていた巡礼の旅だが、旅慣れしているアイゼンのおかげかプラティナはそこまで身体の負荷を感じていなかった。

 カーラドの谷を出たあと、かつて巡礼者で賑わっていたという宿場町に立ち寄って話をきけたのだが、巡礼の旅が過酷だと言われている一番の理由は巡礼者のほとんどが神殿から出たことがない神官たちだったからというのが一番真実に近いらしい。

 とにかくみんな一刻も早く聖地に向かおうとして無理な行程を組んだ上に、修行として粗食に耐えて身体を壊すのだとか。


「神殿の人間ていうのはみんな馬鹿なのか」


 一緒に話を聞いていたアイゼンのもっともな呟きに、プラティナは思わず頷きそうになったくらいだ。

 実際、プラティナもアイゼンが一緒にいなければ過酷な旅を選んでいたかもしれない。聖地に行くのだから、馬車に乗ったりお肉を食べたりするのは違うのではないか、と。


「馬鹿か。無茶をして身体を壊すのが一番愚かなことだ。自分の身体以上に価値がある存在なんてない」


 冷静な言葉に、プラティナは目が覚めた気分だった。

 かつて神殿でつらい思いをしながら祈り続けてきた日々でどれほど自分がすり減っていたのか、ようやく気がつけた気分だった。

 それはアイゼンがいつだってプラティナを最優先して動いてくれているからだろう。

 思えば、こんなに大事にされたのは初めてかもしれないと思うくらいに気遣ってくれている。


(アイゼンは本当にいい人よね)


 最近ようすがおかしいのも、プラティナの世話をするのに嫌気がさしたのではないかと少しだけ不安に思っている。

 だが、不意に向けられる視線や声音は相変わらず優しげで、どう受け止めていいのか少しわからない。


(何かあったの、って聞くのも不自然だしな)


 うーんと心の中で唸っていれば、視界に影が差したのがわかった。


「どうした。なにかあったのか」

「わ!」


 真正面に現れたアイゼンの顔に、プラティナは思わず声を上げながら目を丸くする。油断すればぶつかってしまいそうなくらいに近くで見てしまった顔は、びっくりするくらい整っていて、心臓がぎゅん、と変な音を立てた。


「考えごとか?」

「へ? あ、はい。その、次の聖地はどんなのかなぁって」


 なぜだか旨く喋れずしどろもどろになりながら答えれば、アイゼンは納得してくれたのか頷きながら前へと視線を戻した。


「セルティの孤島だな」

「この先の運河から定期船が出てるラナルトの港町にあるんですよね」

「そうらしいな……」


 そこで言葉を切ったアイゼンの表情に少しだけ険しいものが混じる。

 カーラドの谷を出立してもう数日が過ぎた。乗合馬車や辻馬車を利用して最寄りの村に立ち寄ったのが二日前。

 この平原の先にある運河から出ている定期船に乗るため、今は二人で歩いている。あと半日ほどで辿りつく予定だ。

 定期船の終着港であるラナルトの港町。このシャンデで王都に次いで最も栄えている街。セルティの孤島と呼ばれる聖地は、ラナルトの港から船でいけるとは聞いているが巡礼者の減った今ではどうなっているかは行ってみなければわからない。

 聖地巡礼が過酷と言われているもう一つの理由は、それぞれの聖地がある場所にも関係があった。

 カーラドの谷もそうだし、ラナルトへもまっすぐに伸びた街道はある。だが、それらの出発点は全てが王都だ。聖地から聖地への道なりはほとんど開発されていないため、直接向かおうとすればかなりの苦労が必要だ。だが、毎回王都まで戻れば相当な時間をロスしてしまう。


「やはり、最初の街まで戻るべきでしたか?」


 平原は休める場所もなく、人がほとんど通らないためかうっすらとした獣道しか存在していない。

 迷わずに済んでいるのはアイゼンが星をみて方角を確認してくれているからだ。

 野宿にもずいぶんと慣れた。身体が大きくなったアンバーが獲物を捕ってきてくれるし、火も熾してくれるから苦労もない。だが。


「アイゼン、ずっと見張りをしてて身体が辛いのでしょう? すみません……」


 しょんぼりとプラティナは肩を落とす。

 毎晩、食事を終えたあとプラティナは宣言はしているのだ。途中で起きて見張り番をするからアイゼンも休んで欲しい、と。


「俺は鍛えているから気にするなと言っただろう」


 いつもこうだ。

 せめて一緒に休んではどうかと、同じテントで寝ることを提案したが何故かとても怒られた。


(アンバーが外で寝てくれているから、見張りなんてもういいと思うんだけど)


 成長してしまったことで、共寝ができなくなったアンバーはプラティナが眠るテントの入り口を守るようにして外で眠るようになった。

 流石は龍種の魔獣なだけあってアンバーの感覚はとても鋭い。野生動物や、遠くにいる他の冒険者の気配を察知してすぐに知らせてくれる。危険があれば、必ずプラティナを守ると言ってくれているようなその仕草は可愛くてたまらない。

 甘えるようで申し訳ないが、アンバーがいるのならばアイゼンが一晩中外で起きている必要はないと思うのだ。


(でも、色々言うと怒るんだよね)


 一応は眠っているとアイゼンは言う。

 実際、顔色は悪くないし疲れたそぶりは見せない。だが、ずっと神経を使っているはず。

 せめて癒やしの力を使わせて欲しいと思うのだが、自分からは近づいてくるくせにプラティナから近寄って触れようとするとどうにも逃げられてしまう。

 カーラドの谷ではひょいひょい抱き上げてきたくせにと少しだけ恨みがましい気持ちになりつつも、嫌がられているのに迫るのも何か違う気がしてプラティナは少しだけ悶々としていた。


(港町……ラナルトにつけばきっと休んでくれるよね)


 プラティナの体調はずいぶんと安定している。アイゼンが気を遣ってくれているのもあるが、カーラドの谷にある聖地で祈りを捧げ、あの場に溜まっていた聖なる力を受け取ってからは自分でも驚くほどに元気になった。

 筋肉がついていないのでやはり夜になると眠たくなってしまうのは変わらないが、昼間は無理さえしなければそこまで疲れることもない。

 といっても、アイゼンが都度の休憩を取ってくれるからそう感じるだけなのかもしれないが。


「早く定期船に乗れるといいですね」

「そうだな」


 そうすれば少しだがアイゼンも休めるはずだ。

 港街につけば宿だって取れる。

 人知れず気を引き締めたプラティナはまっすぐに前を向いて歩き続けていた。

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