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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
3章 最初の聖地

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30話 聖女のやり方

 

 アンバーによって地面に降ろされたプラティナは、アイゼンが男達を縛り上げている間にリッチェル達に事の次第を説明した。

 最初はそんな話は信じられないと反発していた彼らだったが、ソムニフェルムの花に毒があるという説明により顔色を変える。


「では、やはりそうなのか……」


 僅かに声を震わせたのはフードを被っていた老人だった。

 老人がゆっくりとローブをはずすと、その顔には黒い斑点がいくつも浮き上がっていた。顔色も悪く、指先は酷く荒れていた。


「なんてひどい……!」

「ここで暮らすようになってから出た症状なんです。同じような病に苦しんでいる者もたくさんいて」

「教祖様はそれこそが瘴気の影響だと」

「祈りを捧げた薬を飲めば楽になります。ですが、やはりすぐに……」

「まさかあの花の毒だったなんて」

「ああ、子供だっているというのに」


 悲痛な彼らの言葉に胸が締め付けられた。

 瘴気という言葉をどこまでも利用していたのだろう。

 言いようのない怒りがこみ上げてくる。


「なるほどな。お前たちに死なれたら困るから定期的に解毒剤を与えていた、というところか」


 仕事をやり終えたのか、肩を回しながらアイゼンが戻ってきた。

 チラリと見れば、気を失った男たちと今にも死にそうに身体を震わせている教祖が聖堂の端に積み重ねられている。


「花粉に含まれる毒は微量だが、摂取を続ければ死に至ると言われている。解毒剤も気休めだ」


 その言葉に住民達が悲鳴じみた声を上げた。


「なんてことだ……俺たちは騙されていたのか?」

「ここで静かに暮らせると信じていたのに」


 涙混じりの声音にプラティナの胸が締め付けられる。

 火事で住まいを失い、この森での静かな生活を選んだ人々を利用して。


「ひどい! なんて酷いの!」

「おい! 落ち着け!」


 身体を震わせ、プラティナは走り出した。

 うつろな顔で何かを呟いている教祖の前に立ち、目元を思い切りつり上げる。


「解毒剤を出しなさい! 今すぐに!」

「……ははっ。残念だが解毒剤は使い切ってしまってもう無いのさ」

「なっ! なら今から作ってください」


 教祖はプラティナたちをあざ笑うようにひひっと気味の悪い笑みを浮かべた。


「嫌だね。誰が作るか! 解毒剤は俺にしか作れない。残念だったな聖女サマ!!」

「なっ……!」

「お前たちのしたことは結局そいつらを追い詰めたのさ!」


 なんて卑怯な言葉だろうか。

 腹の奥が煮えたぎるような衝動を感じた。

 これが人を憎むと言うことなのだろうか。わななく身体にみなぎる感情をどこにぶつけたらいいのか。


「この……」

「落ち着け」


 そんなプラティナの目元が急に暗闇に包まれた。温かく少しだけかさついた感触。

 背中に触れたぬくもりとよく知っている香りに、それがアイゼンの手のひらだとすぐに理解する。


「お前は、そういう気持ちになるな」


 優しい声に目の奥がツンと痛んだ。

 喋ったら泣いてしまいそうで、プラティナは必死に唇を噛みしめる。


「教祖サマよぉ。てめぇは少し痛い目を見る必要があるな。チビ、燃やせ」

「きゅう!」

「ひ、ひぃぃ!!!」


 ごおっという乾いた音がして教祖の悲鳴が響き渡る。

 何が起こったのかとプラティナはアイゼンの手をどけようと手を伸ばしたが、びくともしない。


「アイゼン!? 何しているんです? アイゼン!」

「お前はいいからこっちに来い。お前にしかできないことがあるだろう」


 目隠しをされたまま軽く抱えられどこかに連れて行かれる。

 背後からは情けない声が聞こえ続けていたが、結局何が起こっているのか見ることはできないままだ。

 ようやく解放されたプラティナは再び住人達の前に立っていた。

 彼らは一様に沈んだ顔でその場に座り込んでいる。その中でもリッチェルの表情は悲壮なものだった。


「なんてことだ……これまで教祖様に仕えていた俺たちはいったい……」


 一歩間違えば命を粗末にしてしまいそうなその姿に、プラティナは床に膝をついてその背中を優しく撫でる。


「あなたは何も悪くありません。悪いのは人を騙した彼らです」

「しかし……!」

「安心してください。私があなたたちを助けます」


 力強く頷いたプラティナは立ち上がると、座り込んだ人々に向けて両手をかざした。

 小さく息を吸い込み、彼らの身体に巣食う闇を払う光景をイメージする。

 全身にみなぎる力がその解像度を上げていくのがわかった。

 フワフワと広がった白い光が人々の身体に溶け込んでいく。

 すると彼らの顔や身体にあった黒い斑点が消えていき、荒れていた肌までもが艶やかになっていき、その表情に精気がみなぎっていくのがわかった。


「こ、これは!」

「身体が軽い! 軽いぞ!」


 住民たちは一斉に立ち上がると灰色のローブを脱ぎ捨て、お互いの身体を確かめ合っている。

 すっかりと健康になった仲間たちの姿に感動の声を上げて涙を流している人さえいた。

 聖女の祈りでどうやら毒素を浄化することに成功したらしい。

 達成感で胸がいっぱいになる。


「ふう……」

「大丈夫か?」

「はい! こんなに力を使ったのに、全然疲れません!」


 心配そうな顔で問いかけてくるアイゼンに両手を振り上げ力こぶを作る真似をしてみせれば、その頬が少し緩む。

 きっと心配してくれたのだろう。


「……すまない。随分乱暴な手段を使ったから、無理をさせたな。本当にどこも苦しくないか?」

「いいえ! 元は私が集落に行きたいと言ってしまったからで……」

「いや、俺が急ぎすぎたんだ」


 悔いるようなアイゼンの声にプラティナは首を傾げる。

 どうして、と。


 聖地巡礼はプラティナの役目だ。自由を知りたいと旅をしたがっているのもプラティナのワガママなのに。

 確かに振り返れば、集落に着いてからのアイゼンはいつもよりすこし強引だったような気がした。

 何が彼をそうさせたのか。


(早く旅を終えたいのかな)


 先ほどの戦いぶりは見事だった。教祖達の悪事を暴いた知識や推理も素晴らしかった。

 プラティナという存在が無ければ、すぐにでも一人で身を立てていくことができるだろう。


(聖地はあと二つ。そうしたらきっと彼は私を気にせず自由になれる)


 優しいアイゼンのためにも頑張らなければ。

 素直にそう思いたいのに、少しだけ胸が痛い。

 名状しがたい感情に胸をざわめかせていれば、アンバーがどこからかひらりと飛んできてアイゼンの肩にとまった。

 その表情はどこか満足げだ。


「きゅう!」

「アンバー? どうしたの?」


 問いかければアンバーは鼻先を後ろに向ける。

 身体を傾けてアイゼンの向こう側を見れば、そこにはうっすらと肌を焦がした教祖と名乗っていた男がぐったりと倒れていた。


「まあ!」


 哀れにも彼の髪はすっかりと燃え尽き、丸い頭が晒されている。

 アイゼンが燃やせと言ったのはどうやら教祖の髪だったらしい。


「よくやった」

「きゅう~!」

「もう……」


 息の合ったアイゼンとアンバーの姿に、プラティナは微笑んだのだった。



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