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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
2章 旅のはじまり

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19話 あたたかな見送り


 翌日。ギルドを再び訪れたプラティナたちの目の前には大きな革袋が積まれていた。アイゼンの拳ほどはある大きなそれが合計3つ。

 一体何なのだろうと、革袋を挟んで向こうに座っているガセルとセインに視線を向ける。


「アイゼン、そしてプラティナ。これは今回の君たちへの報酬だ」

「!」


 思わず革袋とガセルを見比べてしまう。


「ずいぶんと気前がいいな。本気か?」


 慌てるどころかどこか探りを入れるようなアイゼンの態度には余裕が溢れている。対するガセルもまた、余裕の笑みだ。


「ああ。持って行ってくれ。これは元々、水門にかける浄化魔法の依頼料だった。魔法自体が不要になったので宙に浮いた金でもある」

「だとしても少しばかり多すぎやしないか?」

「水源汚染の原因発見と改善。密猟者の捕縛。渓谷に隠されていた聖域ともよべる新たな水源の発見。加えて、体調を崩していた人たちへ配る薬の製造。功績を考えれば少ないくらいだよ」

「ふうん」


 満足そうに足を組むアイゼンの横でプラティナは状況についていけず、一人じっと革袋を見つめていた。

 アンバーは暇そうに大あくびをしている。


 プラティナが作ってアイゼンがギルドに納品した薬の効果は絶大だったようで、無理に水を飲み続け体調を崩していた人たちの回復にとても役立ったらしい。

 正式に依頼をされ、今朝方大量に納品したのだ。


「どうだ、受け取ってくれるか」

「勿論、と言いたいところだがやはり高すぎる。条件は何だ」

「……さすがに勘がいいな。君は本当にただの薬師なのか?」


 探るようなガセルの表情に、アイゼンはさぁなと軽く肩をすくめて見せた。


「俺が提示した身分証は本物だ。疑うなら発行元に問い合わせたらいい」

「ふむ……なるほどな」


 ガセルの視線がプラティナに向けられた。心の中まで見透かすような視線に、思わず目を伏せてしまう。


「……ふっ。まあいい。正直に言えば君たちにはギルドの専属薬師として働いてもらいたいと思っていた。だが、どうやら頷いてはくれないようだな」

「ああ。悪いが無理だな。俺たちは事情があって旅をしている。ここにとどまるわけにはいかない」

「そうか……まあ、そう言うとは思っていたよ」


 積まれた革袋の一番上にあった袋を掴んだガセルが、それをアイゼンへと放り投げた。


「君たちの正式な報酬はそれだ。胸を張って受け取ってくれたまえ」

「……感謝する」

「残念だよ。君たちとはいい仕事ができそうだったんだけど」


 ガセルの横に座っていたセインが、本当に残念そうな顔で見つめてくる。

 受け取った革袋を懐にしまっていたアイゼンはその呟きを視線で一蹴してしまう。プラティナだけは男たちのやりとりを困ったように見つめるばかりだ。

 

「そう言うなセイン。彼らには彼らの事情があるんだろう。そうだ、次の目的地はどこなんだ? ベラの店で携帯食料を買い込んだと聞いたが」

「西を目指そうと思っている。そちら方面に向かう辻馬車はないか」

「なるほど西か……それならば二日に一度だが定期便が出ていたはずだ。帰りに受付で聞いてみるといい」

「助かる」


 役立つ情報を手に入れ、プラティナとアイゼンはギルド会館を後にした。

 何かあればまた是非寄って欲しいと言ってくれたガセルたちに、プラティナは優しく微笑みかける。

 きっとここに戻ってくることはもうない。


「いい人たちでしたね」

「そうだな。ギルドの人間にしては気さくな連中だった」


 ちらりと見上げたアイゼンの横顔には何も迷いがないように見える。だが、プラティナの心は複雑だった。アイゼンはこの街に残り冒険者として過ごしていた方が幸せなのではないか、と。


「アイゼン、あの……」

「馬車は明日の朝に出る。今日中に旅の準備を済ませておくぞ」


 当然のようにこの旅を続けてくれるつもりの言葉に、胸がじんと痺れた。

 この優しさに報いるためにも頑張らなければならない。

 そんな決意を秘めながら、プラティナは歩き出したアイゼンの後を追ったのだった。




 三日ぶりに訪れたベラの店では、すでにアイゼンが汚染を改善したという情報を得ていたらしく大歓迎された。

 アンバー用の食料を買いたいことや、水を保存できる瓶も欲しい旨を告げればたくさんおまけをしてくれた。申し訳なく思っていたら、水源が元に戻ったおかげで水を買う必要がなくなったお礼だと微笑まれてしまう。


「本当に助かったよ。水を気軽に買える連中ばかりじゃないからね」


 嬉しそうなベラの笑顔にこちらまで嬉しくなる。


(私、役立てたのかな)


 これまで言われるがままに使っていた力が、大勢の人を救えた。その事実に、目の奥が少しだけつんといたむ。

 ここ数日は感動することが多くて、心と身体が追いつかない。

 得られた幸福や自由のおかげか、あんなに酷かった倦怠感や疲れはほとんど感じなくなっていた。

 病は気からというが、もしかしたら、医者に告げられた時間よりも長く旅を続けられるかもしれない。

 そんな期待が、プラティナの心で芽吹く。


「じゃあ、気をつけるんだよ」


 店の外まで見送りに来てくれたベラに手を振り返しながら、アイゼンとプラティナは次の買い物に向かった。

 細々としたものを買いそろえ、再び宿屋へと向かう。

 晩ご飯は相変わらず美味しくて、今日が最後だと思うと切なくなった。食堂の主人に涙声で感謝を伝えれば「これからもしっかり食べるんだぞ!」と涙声で返されてしまったのだった。


 夢も見ないほど熟睡して迎えた翌日。

 支度を調え出立しようとしたプラティナたちに、宿屋の主人と食堂の主人がそれぞれ包みを手渡してくれた。


「これは紹介状だ。宿屋にも横の繋がりってもんがあってな。悪い客の情報は共有するし、いい客には特別なサービスを提供するようになってる。この先、別の街で宿屋を使うならここに書かれている店を探すといい。きっと面倒を見てくれる」

「俺からは弁当だ。昼に食べてくれ。携帯食料ばっかりじゃ偏りが出るからな。とくに嬢ちゃんはしっかり食べてくれよな。そんなに細っこいままじゃぶっ倒れちまうぞ」


 それぞれの優しさに胸がくるしくなった。

 こんなに手放しに親切にされたことなどなかったから、どんな言葉を返してよいかわからずまごつく。

 そんなプラティナの背を、アイゼンの大きな手が軽く叩く。

 前を向け、と言われているような気がして顔を上げれば、見送ってくれる人たちの温かい眼差しに気がつくことができた。


「……ありがとうございます」

「いいってことよ」

「気をつけるんだぞ」


 包みに込められたたくさんの想いを抱きしめ、プラティナは油断すれば緩みそうな涙腺を引き締めたのだった。


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