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余命わずかだからと追放された聖女ですが、巡礼の旅に出たら超健康になりました  作者: マチバリ
2章 旅のはじまり

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17話 新しい仲間


 森から植物のつたを取ってきたアイゼンは、驚くほどの手際のよさで男たちを全員縛り上げ、てきぱきと聖域から引きずり出し、水源へと続く道に丁寧に並べていく。

 その首には「密猟者。触るな厳禁」という丁寧な看板まで掛けられていた。


「あの……そこまでする必要が……?」

「こういう連中は平気で人を騙す。ただ縛って放置しただけなら、誰かに襲われたとかなんとか言って逃げようとするだろう。だが、ギルドで聞いた説明からこの地区での猟はかなりの禁忌のようだった。密猟者だと書いておけば誰も助けない」


 なるほどと納得しながらも、その哀れな姿に少しだけ胸が痛む。男たちの身体はあちこち傷だらけで、よく見れば全員顔色も悪い。


「同情するなよ。どんな理由があっても、こいつらは掟を破ったうえに俺たちに攻撃してきたんだ。俺が負けていれば、そのトカゲだけじゃなくて君も何らかの商品にされていた可能性がある」

「商品……?」

「若い娘は価値があるからな……とにかく、危険だから近づくな」


 真剣な顔で語るアイゼンにプラティナは素直に頷く。

 世間知らずであることは事実だし、さっきだってアイゼンのおかげで助かったのだ。語る言葉もきっとプラティナのためのものなのだろう。


「とにかくギルドに戻ろう。こいつらは後で回収してもらえばいい」

「はい」

「きゅう!」


 トカゲがまるで「自分も!」と主張するように可愛らしい声で鳴いた。すっかり懐いてしまったらしく、今はプラティナの肩に器用に座っている。

 その姿をじっと見ていたアイゼンが、怪訝そうに眉を寄せた。


「重くないのか?」

「ぜんぜん。まるで何も乗っていないみたいに軽いですよ」

「ふうん……しかしコイツはなんなんだろうな。ただのトカゲでないのは確かだし、魔物にしては弱そうだし」

「きゅう!」


 じろじろと観察され、トカゲが居心地悪そうに鳴き声を上げる。

 そんな二人のやりとりがどこか愛らしく、プラティナは小さく笑った。



***



 ギルドに戻り事の次第を報告すると、当然のごとく大騒ぎになった。

 水門への浄化魔法をかける直前だったこともあり、ギルドの職員たちは街中の水質確認にてんやわんや。捕まえておいた男たちも回収され、厳しい取り調べが行われることになるらしい。

 とにかくここにいてくれとギルドの会議室に押し込められ、すでに小一時間が経過していた。トカゲはすっかり飽きたのかプラティナの膝のうえで丸くなって眠ってしまっている。


「まだ、ですかね……」

「連中もいろいろ考えてるんだろ。いろいろと前代未聞だろうからな」

「そうですよね。密猟者だなんて大変ですよね」

「いや……そっちじゃなくてだな……」

「?」


 何を言いたいのだろうとプラティナが首を傾げていれば、ようやく会議室の扉が開いた。中に入ってきたのは、つるりと眩しい頭をした身体の大きな男性をはじめとした集団だった。その中には渓谷に行く道ですれ違ったセインもいた。


「やあ。またあったね」

「こんにちは」


 あわてて頭を下げればセインが苦笑いを浮かべる。


「まさか連中が原因だったとは。君たちを追いかけていることに気づかなくてすまない」

「いえ! そんな……」


 謝ってくるセインに狼狽えていれば、隣のアイゼンが軽く肩をすくめる。


「あんたが謝ることじゃないだろう。悪いのはやつらだ」

「それはそうだが、連中が問題がある存在であったことをもっと注意すべきだった。新人である君たちに配慮できなかったことは謝らせて欲しい」


 本気で責任を感じているらしいセインにプラティナは笑みを向ける。


「大丈夫です。彼らはアイゼン様が倒してくれましたし、この子も無事でしたから!」


 トカゲは未だに眠ったままだ。人が多くなっても起きる気配がない。

 アイゼンもまた、なんてことは無かったというように肩をすくめるばかりだ。

 そのことにセインは安心したように表情を和らげた。


「ありがとう」


 和やかな空気のなか、小さな咳払いが響く。

 顔を向ければ、眩しい頭の男性が何か言いたげにセインをちらちらみていた。


「紹介が遅れてすまない。彼はギルドマスターのガセル。今回の件で君たちにお礼を言いたいと言ってね」

「紹介にあずかったガセルだ。まさか登録早々、こんな大事件を解決するとはおそれいった。あの連中には厳しい処分をするので安心して欲しい」


 ガセルが大きな身体を折って深々と頭を下げてきた。

 ギルドマスターということは、このギルドで一番偉い人なのだろう。まさかそんな人に頭を下げられるとは思っておらず、プラティナは慌てる。


「あまり大事にしないでくれ。あれは偶然だ」

「いや、偶然とはいえ、君たちのおかげでこの街は救われた。トカゲの傷を癒やし、呪いを浄化してしまうなんてな。凄腕の薬師だ」


 感動したように熱く語るガセルの態度に、プラティナは引きつった笑みを浮かべる。アイゼンはしれっとした顔のままだ。


 本当のことを全て打ち明ければ、プラティナが聖女であることがバレてしまう。

 だから事前に打ち合わせておいて、偶然あの場所に行き当たったアイゼンがトカゲを治療したことで呪いが解けた、という話をギルドに報告したのだ。


 プラティナが慌てる気配に気がついたのか、膝のうえで丸くなっていたトカゲが目を開け首をもたげる。琥珀色の瞳で周囲をキョロキョロと見回す姿はまるで猫のようで愛らしい。


「これが例のトカゲだね……」

「ええ」

「きゅう!」

「こいつの血に宿っていた魔力とあの場所の魔力が影響し合って今回の騒動が起きた可能性が高い。あの聖域にあった滝から流れ出た水も水源のひとつだったんだろう」


 大きく頷いたガセルが、苦虫をかみつぶしたような顔をした。


「さっき、密猟者たちに尋問したところ、数週間前にあの渓谷でそのトカゲを見つけたらしい。めずらしい見た目なので愛好家に売れると考えたそうだ」

「ひどい……禁猟区なのに……」

「あの連中は以前からもあの地区で狩りを行っていた形跡がある。禁猟区だからこそ、ライバルもいなければ生物たちものんびりしているからね。本当に腹立たしい」


 ガセルの言葉を継いだセインもまた、憤りを隠せない様子だ。

 あの男たちが行ったことは、おおよそアイゼンの指摘した通りだった。捕らえようとしたトカゲに傷を負わせ逃がしてしまった。傷を見れば誰かに襲われたことがわかってしまうため、なんとかして捕まえようとあの地域を調べていたら、水源の異常という事件が起きてたくさんの冒険者が来るようになり、追い返そうと問題を起こし続けていたらしい。


「だが、まさかトカゲの血がこの事態の原因だとは思っていなかったらしい。教えてやったら青い顔をしていたよ。必ず償わせる」

「ぎゅう!」


 元気よく返事をしたのはトカゲだった。暗くなっていた部屋の空気が少しだけ明るくなる。

 自分を傷つけた犯人たちが裁かれることになった事を理解しているかのように満足げに鼻を鳴らし、トカゲはプラティナの手に甘えるように頭をこすりつけた。


「ずいぶん君に懐いているね」

「あ、ああ。それは私が……」

「俺の薬を使って助手である彼女が手当てしたんだ。だからだろう」

「なるほど」


 うっかり自分が癒やしたと言いかけたプラティナの言葉をアイゼンが上手く防いでくれた。横目で、黙っていろと促されプラティナは慌てて口を引き結んで頷く。


「しかし本当に不思議な種族だね。ガセル、見たことは?」

「いいや。俺も初めて見た。新種か、亜種か……」


 冒険者二人の視線に晒されたことに気がついたトカゲが怯えたようにキュルキュルと鳴いてプラティナの後ろに隠れてしまった。可愛らしい姿にきゅんとなる。


「あの。この子はどうなるんですか?」

「うーん。水質汚染の原因ではあるが、その子に非はないからね。いちおう、ギルドに所属している魔獣医に調べてもらって、問題が無いなら元いた場所に返すのが筋なんだけど……」

「きゅう!」


 トカゲはセインの言葉に嫌だとでも言うようにひときわ大きく鳴いてプラティナにしがみついてしまった。

 その姿にセインだけではなくガセルも苦笑いを浮かべる。


「どうやらお嬢ちゃんに助けられてすっかり懐いたか、主人認定したらしい」

「私が?」

「トカゲ……おそらくは竜種に属する魔獣は気に入った人間を主と認めて付き従う性質があるんだ。その絆はどちらかが命果てるまで続くと言われている」

「命果てるまで……」


 思わずトカゲに目を向ければ、丸っこい琥珀色の瞳が懇願するようにプラティナを見ていた。

 つるりとした頭を手の甲や腕にすり付ける仕草に、側に置いてと必死に訴えられている気分になる。


(でも、私はもう長く生きられないのに……)


 申し訳なさと愛しさで胸がいっぱいだった。

 この子は可愛いと思うが、受け入れてしまってもいいのだろうか。


「お嬢さんさえ良ければ、そいつと従魔登録してやって欲しい。誰かの所有物ならもう狙われることもないだろうし、ギルドとしても安心だ」

「でも……」


 助けを求めるようにアイゼンに視線を向ける。

 黒い瞳が少し困ったように細められてから、仕方が無いな、とでも言いたげに眉が下がった。


「君の好きにしたらいい。トカゲ一匹くらいならなんとかなるさ」

「いいんですか?」

「ああ」


 皆まで言わなかったが、きっとプラティナに何かあった後はアイゼンが面倒を見てくれるつもりなのだろう。

 その優しさに胸がきゅうっと締め付けられる。


「じゃあ、一緒に来る?」

「きゅうう!」


 トカゲが嬉しそうに鳴き、飛び上がって肩に止まった。

 自分を慕ってくれる小さな命の重みに、プラティナは頬を緩ませたのだった。

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