兄の威厳を取り戻そう⑤
『緊急っ!! 即決希望っ!! 現役女子高生のパンツですっ!! 事情があって身内である自分の手元にやってきましたが早急に処分する必要があるので出品しましたっ!! 中古品ですが綺麗なので下着として穿いて良し、マスク代わりにかぶって良しな逸品だと思いますっ!!』
「よし、こんなもんだろ」
適当に商品説明の文章を書き上げた俺は、何か問題はないか一応読み直してみた。
(……自分で書いておいてなんだが、余りにも怪しすぎる……問題しかない……)
特に事情があって自分の手元にあるという点と、早急に処分する必要があるという点がヤバすぎる。
どう読んでみても真っ当に入手した代物には見えないだろう。
「……でもまぁいっかっ!!」
だけど書き直すのが面倒なので、そのまま出品してしまうことにする。
書き上げた文章をコピーしておき、次いでパンツを妹が履歴書と共に買ってきたA4サイズの封筒に押し込み梱包を済ませる。
最後はフリマサイトを起動して……と言いたいところだが、既に俺の携帯は料金未納により通信不可能な状態に陥っている。
その為このままではネットに繋ぐこともできず、当然フリマアプリを利用することもままならない。
(ふっふっふ、だが俺も貧乏生活を十年近く続けているいわばプロの貧乏人よっ!! そんな俺だからこそ知っている裏技ってもんがあるんだぜっ!!)
携帯が料金未納で止められる機能とは、要するに有料通信だけだ。
他の機能に関しては充電さえしてあれば普通に使うことができる。
つまり無料で通信できる場所ならば、この状態でもフリマアプリを利用することも可能なのだ。
そして最近は客寄せを兼ねているのか無料Wi-Fiが設定されている店舗も多い。
その全てを把握済みな俺にしてみれば、この程度の通信障害など何の妨げにもならない。
(さてこの近隣で丁度良さそうな場所は……そう言えば今日面接するコンビニにも設定されてたっけ?)
一度も言ったことが無い場所ではあるが、同系列のチェーン店には設定されていることは確認済みである。
そしてチェーン店である以上、ここだけが例外ということも無いだろう。
(よし、丁度いいから面接のときにでも出品してくるか……ついでに現品も持っていけば即売したらその場で配送も出来るし一石二鳥だぜっ!!)
まあそんな上手く行くとは思えないが、持っていくだけならばタダだ。
何より妹が早退などして俺が出かけているときに家へと帰ってくる可能性だってあるのに、下着が梱包された封筒を残していくのはリスクが高すぎる。
(履歴書を入れている封筒と同じもの使ってるからなぁ……もしも妹が見たら忘れものかと思って中身を確認する可能性が……自分の下着が封筒から出てきたらあいつどんな顔するんだろうなぁ?)
ちょっと楽しそうだからやってみたい気もする……けど命懸けになりそうだから流石にやめておこう。
とにかく持ち出すと決めた以上は、忘れないようにかつて仕事で使っていた鞄を取り出し予め入れておくことにした。
もちろん履歴書が入っている封筒も忘れないよう、ついでに同じ鞄へと入れておく。
「……パッと見、どっちがどっちかわからんな……間違って渡したらどうしよう?」
一瞬面接官が封筒から妹のパンツを取り出すところを想像して吹き出しそうになる。
(絶対困惑するよなぁ……何ならその後しどろもどろになりそうだし……やべぇ、やってみてぇ……)
まあ下手したら警察呼ばれたり自宅に連絡が来てもおかしくなさそうだから、やっぱり止めておこう。
万が一にも間違えないよう、パンツ入りの封筒の表面に【医薬用外劇物】【取扱注意】と赤ペンでデカデカと記入しておく。
(これで大丈夫だろ……さてと、そろそろ出かける支度するとするかぁ)
午前中にと約束した面接の時間が迫ってきたので、嫌だけれど流石に支度を始めることにした。
滅多に家から出ないため伸びきっている無精ひげを剃り落とした上で顔を二度三度と洗い流し、ジャコジャコと歯を磨く。
髪型のほうは定期的にバリカンでスポーツ刈りにしているので、現時点では手を加えなくても問題はなさそうだ。
(こんなもんかな……うぅん、相変わらず妹とは似ても似つかない不気味な顔だぜ……だけど大好きだっ!!)
元々余り顔立ちが良い方ではないために、身綺麗にしてみても見た目は浮浪者から不審者ぐらいにしかバージョンアップしてくれない。
それでも俺は自分が大好きだ……いや嫌いにならないためにこうして好き放題、心のままに生きるようにしているのだ。
おかげで妹には殴られまくるし社会的にも負け組と称されるような生き様だけれど、だからってこの生き方を変える気にはならない。
周りの評価など関係ない……自分のやりたいことを好きなようにやって毎日を楽しめている……これ以上に幸せな人生があるものか。
「よぉしっ!! いっちょやってやりますかっ!!」
鏡の前で満面の笑みで宣言する。
そこに映るのは心の底から楽しそうな自分の笑顔……俺の二番目に大好きな表情だ。
そんな自分の顔を見ているだけで面倒臭さを含めた後ろ向きな気持ちは全て吹き飛んでしまい、むしろ前向きに面接という時間を楽しんでやろうという思いすら湧き上がってくるのだった。
(さぁて、せっかく普段やらない面接なんかに行くんだ……思いっきり楽しんでやろうぜ俺っ!!)