兄と下剋上⑤
「ほら、いい加減に離れろっての……っ」
「むぐぅっ!?」
一体何が気に食わないのか、俺と優里菜ちゃんがくっ付いているのを見ていた妹は不意に俺の尻にケリを叩き込んできやがった。
(ゆ、優里菜ちゃんが俺の口を塞ごうとくっ付いて来てるのにどうしてこっちに暴力を振るうんだこいつは……マジで理不尽の塊だぜ……)
少しばかり……いやかなり納得がいかないが、ここで言い返しても新たな暴力が返ってくるだけだろう。
尤も優里菜ちゃんが口を塞いでいる以上、言い返すもくそもないのだが……。
「う、うぅん……じゃ、じゃあ離れますけどぉ……お義兄さんさっきのことは内緒ですからねっ!! じゃないと例のネット販売のこともばらしちゃいますからねっ!!」
「むぐぐぅ……はぁぁ……」
流石に愛する妙央から不機嫌そうに睨みつけられるのは耐えられないのか、優里菜ちゃんは俺にそっと脅迫めいた耳打ちをしてすぐに身を離してきた。
おかげで口が自由になったわけだが、あんな脅し文句を聞いてしまってはもう優里菜ちゃんの秘密をばらすわけにはいかなくなってしまう。
(くそぉ……お前だってネット販売のことがバレたら破滅するくせにぃ……いっその事、相打ち覚悟でばらしてくれようか?)
出会ってからこの方、優里菜ちゃんには好き放題やられ放題されまくりだった。
せめて一度ぐらい泡を吹かせてやりたいところだし、本気で身の破滅覚悟でやってやろうかとすら思ってしまう。
(絶対に妹に暴力振られまくって死を覚悟しかねないことになるだろうけど……でも優里菜ちゃんの無様なところを見れるならやる価値はありそうだぜっ!! この世間知らずのお嬢様に失うものがない無敵な大人の恐ろしさを教えてくれるわっ!!)
「んで、さっきからお前は何を言おうとしてたんだ?」
「……実はな妹よ、優里菜ちゃんはお前のパ「と、ところでお義兄さんは私に何の御用だったんですかぁっ!?」
ちょうどいいタイミングで妹が水を差し向けてきたこともあり、早速何もかもばらしてやろうと口を開きかけたところで優里菜ちゃんが慌てて会話に割り込んできやがった。
「いや別に大したことじゃないし、それより優里菜ちゃ「すっごく気に成りますぅううっ!! 私だけ仲間外れにしてないでおしえてくださぁああいっ!!」」
「い、いやだから大したことじゃないってっ!! それより優里菜ちゃんの「お義兄さんの話を先に聞かせて下さぁああいっ!!」」
(な、なんてしつこい奴だ……ここまでムキになって邪魔してくるなんて……こうなったら逆に意地でも秘密をばらしてやりたくなるぜっ!!)
優里菜ちゃんはよっぽど自分が妙央のパンツを漁っていたことを知られたくないようで、必死になって俺の言葉を遮ってくる。
まああんなヘンタイ行為がバレても平気だって言う奴の方が少ないだろうけれど、だからこそ余計に俺も優里菜ちゃんの真実を妹に告げてやりたくなってくる。
「俺の話より優里菜ちゃんの「私の話よりお義兄さんの「いやいや俺なんかより優里菜ちゃんを「いやいやいや私よりもお義兄さんが「だからいつまでもくっ付いてんじゃねぇってのっ!!」
「きゃぅうんっ?!」
そこでまたしても苛立った様子の妹が俺の尻に猛烈な強さの蹴りを繰り出してきた。
余りの痛みにまるで負け犬のような悲鳴を上げて飛び上がってしまう俺。
「たく、二人して私を無視して……やっぱり仲良すぎだっての……全く、私に内緒でいつの間に……むぅ……」
「う、うぐぐ……だ、だから何で俺にだけ暴力を……うぅ……」
「そ、それよりもお義兄さんっ!! 本当にさっきのお話は何だったんですかぁっ!?」
暴力で黙らされた俺にここぞとばかりに話をねじ込んでくる優里菜ちゃん。
(く、くそ……ここで引いたら思うつぼだ……けど同じことしても妹にまた暴力で止められるのが落ちだしここは諦めるしか……うぅ、覚えてろよ優里菜ちゃぁん……)
流石に俺の可愛いお尻ではこれ以上妹の強烈な一撃を耐えることはできない。
下手をすればお漏らししかねないことを思えば、この場は引き下がるしかなさそうだった。
「わ、わかったよ話せばいいんだろ話せば……って言ってもマジで大した話じゃないんだけど……というかそもそも俺は何か言おうとしてたっけ?」
「えぇ……お義兄さん泣き叫びながら私のいる部屋に入ってきたんじゃないですかぁ……なのに用件を忘れるとか何を考えてるんですかぁ?」
「……何も考えてないと思うぞ、こいつは」
(うぅ……妙央ぉ、お前は俺を何だと思ってるんだよぉ……ぐすん……けどマジで優里菜ちゃんに何を言おうとしてたんだっけ?)




