兄と下剋上①
「ふぅ……一人っていいなぁ……」
部屋に戻り孤独特有の静けさに包まれた俺は、何やら涙が出そうなほど安堵してしまう。
(ここのところ、ずっと騒がしかったもんなぁ……しかも俺以外の奴が原因で……はぁぁ……)
個人的に騒がしい状況は好きだったはずなのだが、流石に色々と振り回され過ぎて疲れてしまったようだ。
(今までは俺の行動で周りの人達が慌てふためくのが普通だったのになぁ……なぁんか最近は妙に暴走しまくってる女の子にこっちが困惑させられまくってるもんなぁ……)
俺は自分で言うのも何だがメンタル面だけはかなり屈強であると自負していた。
それなのに多少周りの人間に振り回されただけでこんな簡単に疲れてしまうとは情けない限りだ。
(いや、ひょっとして俺は今まで自分が周りを振り回す側だったから余裕があっただけなのでは……?)
考えてみると今まで俺は自分以上にはっちゃけている人間と出会ったことはなかった。
だから人に振り回される精神的疲労に気づけなかっただけで、意外と俺は自分で思うよりメンタルが弱かったのかもしれない。
(そう言えば妹も俺を怒鳴りつけた後はよく疲れた様にため息をついていたような……もしかしてあいつはずっと今の俺と同じ様な心境だったのかな?)
もしそうだとすれば俺は自分でも耐えがたい苦痛を妹に与え続けていたことになってしまう。
実際のところがどうかは分からないけれど、そう考えると流石に申し訳なさが湧き上がってくる
(そうだよなぁ……自分がされてイヤなことを人にしちゃ駄目だもんなぁ……)
これは思うがままに好き放題生きると決める切っ掛けとなった事件にも絡んでいる、俺にとって大事な行動方針の一つだった。
だからこそ俺はもう二度と妹に迷惑を掛けない生き方をする……ことなど今更できるはずもなく、別の方向でこの問題を解決しようと決心する。
(逆に言えば俺が周りの人間に何をされたり振り回されても平気になれば、俺も周りの人間を振り回していいことになるぜっ!! そう、今こそ俺は更なるメンタル強者になる時なんだっ!!)
「よぉしっ!! 見てろよ優里菜ちゃんに広子さんっ!! それに妹よっ!! 俺はお前らに何をされても笑っていられる強い男になってやり返してやるぜっ!! 覚悟するがいいっ!! ふふ……ふははは『ドンッっ!!』はぅっ!?」
そんな崇高な決意のもと高笑いした俺だったが、そこで妹の部屋と隣接する壁が凄まじい力でどつかれる音と衝撃が伝わってきて思わず震えあがってしまった。
(び、びっくりしたぁ……はっ!? な、何をこんなことでビビっているんだ俺っ!? 今こそ無敵の精神を手に入れる時じゃないかっ!! 妹なんかに怯えていてどうするっ!! 妹なんか怖くない怖くない怖『うっせぇんだよくそ兄貴っ!! 優里菜ちゃんが起きちまうだろうがぁああっ!!』は、はいぃぃっ!! お兄ちゃん黙りますぅううっ!!」
それでも何とか気持ちを立て直そうとした俺だったが、次いで聞こえてきた妹の怒声に反射的に頭を下げてしまうのだった。
(うぅ……か、身体が勝手にぃ……完全に妹の暴力で調教されてしまっているぅ……こ、こんな事で本当に優里菜ちゃんや広子さんとやり合えるようになるのかなぁ……?)




