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兄の威厳を取り戻そう④

「さて、どうしたもんでしょうか?」


 床の上に置かれた逆三角形型の伝統的な女物の下着を前に、俺とピエールとブラウンとダニーは円陣を組んで座っていた。

 皆その顔は一応に神妙であり、傍から見れば怪しげな儀式にも見えなくはないかもしれない。


(どうせなら親父たちのとこから蠟燭でも持ってくればより雰囲気が出て悪の秘密結社ごっこが出来そ……ってだから脱線してる場合じゃねぇだろがぁ……)


 ついつい現実逃避しそうになるが、今回ばかりは流石に真面目に対処しなければならない。

 ただでさえ妹は昨日の一件を未だに引きずっているのだ。

 ここで俺が下着を持ち歩いていたなどとバレたら、今度もまた事情を聞くこともなく襲い掛かってくるのは明白だ。


 だからこそ妹に気づかれないようにこの下着を何とかしなければならないのだが……。


『そうだなぁ……普通に考えりゃぁ今のうちにタンスに戻すのが一番だと思うが……』

「ああ、俺もそれは考えた……だが見てくれ……」


 イルカのピエールを持ち上げながら、妹の下着が入っている引き出しを開けてみせた。


『……滅茶苦茶綺麗に整理整頓されてんなぁ』

「あの後、頑張って片付けたらしい……あんなにガサツなのに綺麗好きとか矛盾してやがるぜ……」

『なるほどなぁ……これじゃあ下手に後から突っ込んだらバレバレかもしれねぇなぁ……』

「そうなんだよ……そこが問題なわけだよ……」


 よくわからない折り畳み方で収納されているパンツの中に俺が乱雑に突っ込んだところで違和感バリバリだ。

 もしもそれで気づかれようものなら、昨夜の誤解と合わせて自分が居ない間に下着を漁っているとすら誤解されかねない。


(冗談じゃないっ!! 俺はあんな貧乳……もとい妹に欲情するほど屑じゃないぜっ!!)


 胸が有らずば女子にあらずを信条としている俺から見れば、ぺったんこな妹の下着など男のブリーフと大差ないのだ。

 そんな全く興味の欠片も無いパンツを漁ったと誤解された挙句に暴力を振るわれるのは、流石にもう勘弁してもらいたい。


(どうせ殴られるにしても正しい理由でボコられたいぜ……出来るなら妹以外でDカップ以上の女性に……きっとそれなら踏みつけられても楽しいだろうなぁ……ってだから脱線してる場合じゃねぇってっ!!)


 またしてもどうでもいいことを考えそうになり慌てて頭をふり、目の前のパンツに意識を集中させる。


『旦那ぁ……ならいっその事燃やしちまうってのはどうでさぁ?』

「うぅん……それも悪くない案だがうちはガスコンロがないからなぁ……パンツって蝋燭の火で綺麗に燃やし切れるもんなのかブラウン?」

『旦那に分からねぇことがあっしにわかるはずがありやせんぜ……けどいけるんじゃねぇですかねぇ?』

「行けるかなぁ……だけど失敗した時が最悪だよなぁ……ローソクの火で焦げ焦げになったパンツなんか見られた日には、それこそあいつ大暴れしそうだよなぁ……」


 いっそ電子調理器の熱を使って燃やせるかチャレンジする手もあるが、失敗したら火事一直線である。

 それは余りにリスクが高すぎて幾ら俺でも試す気にはなれなかった。


『普通にゴミに捨ててはいかんのかえ?』

「残念ながら今日はゴミ回収日じゃないんだよなぁ……もちろんゴミ箱に入れてあるところを見られてもアウトだ……」

『ふむ……なれば他所のゴミ捨て場に投棄するか、或いはこのマンションの上層階から投げ捨てるというのも……』

「幾ら布切れとはいえ高いところからのポイ捨ては駄目だぜダニー……それに最近はどこも外から持ち込みのゴミを捨てるのは許されてないしな……何より女子のパンツなんか捨てたら一発で職務質問されかねないぜ……」

『……ならよぉ、結局はお前の部屋でゴミ回収日まで隠しておくしかないんじゃねぇか?』


 ピエールの言葉にしばし悩むふりをしてから頷く俺。

 いやまあ全部俺のお芝居なのだから、ぶっちゃけ最初からこの結論ありきで話し合っていたりする。

 ただその現実を受け入れたくなくてこんな真似をして答えを出すのを引き延ばしていたのだ。


(それしかないよなぁ……嫌だけど……)


 年頃の女子のパンツという途轍もない危険物……いわゆるババ抜きにおけるババを引いてしまったのだからそれなりに覚悟を決めて行動しなければならない。

 つまり素直に告げてボコボコに殴られるか、何とか気づかれないうちに手放すか……或いは処理しきれずに敗北するかだ。

 そして俺にとって殴られるのは敗北と同じことだから、処理できるまで隠し通すしか道はないのだった。


(ただ問題はなぁ……俺の部屋は物が無さ過ぎて隠すスペースが無い事と、バレた時にはもはや言い訳も聞かないであろうという点だ……)


 昨夜も何だかんだで最後には俺が妹の下着で変な真似をする奴じゃないと……或いは暴力を振られると分かっている危険な真似をできるような奴じゃないと思ってくれたからこそ渋々許してくれたのだ。

 しかし自分の部屋へ下着を持ち帰っていたと思われたら、今度こそ途中で止まることのない無限コンボの爆裂拳が炸裂するだろう。


(……やっぱり怖いから何か他の方法ないかなぁ? 何ならバターか何かで炒めてご飯と一緒に飲み込めば……うぅ、駄目だぁ……妹の下着は食べたくなぁい……せめてDカップ女性の下着じゃないといやぁ……)


 一瞬それこそ本当の意味でのオカズにして消化してしまおうかとも思ったが、流石に妹の下着を美味しくいただける自信はなかった……むしろ想像しただけで吐きそうです。


「うぅ……し、仕方ない……何とか部屋に隠すとしよう……相談に乗ってくれてありがとうなピエール、ブラウン、ダニー……また何かあったら頼むよ……」

『気にするな、困った時はお互い様だ』

『そうでさぁ、何なら今度あっしらが地獄の帝王に乱暴に扱われてほつれた時にでも修繕してくだせぇ……それで十分でさぁ』

『ほほほほ、苦しゅうない……其方も頑張るがよいぞ』


 方針が決まったところで悪の秘密結社ごっこを解散させて、ぬいぐるみを元あった場所へと戻した。

 そして妹の部屋を抜け出し、改めてパンツを手に自分の部屋へと向かおうとして……その前に台所へとより、次のゴミ回収日を確認してみた。


「ええとぉ、次はぁ……み、三日後……うぅ、そんな長い間この爆弾を抱え込まねばならないなんてぇ……」


 余りの絶望に目の前が真っ暗になった……気がしたけどただの瞬きだった。

 しかし三日もの間、見つかったらどうしようとドキドキして過ごすと思うと胃に穴が開きそうだ。


(……まあ俺のことだから多分、次の日には忘れてそうだけど……何事も悩んでも仕方ねぇからなぁ……ケセラセラ~ってなぁ~……とにかくバレなきゃいいんだよぉ~♪)


 だけど自分の部屋に着くころには既に鼻歌交じりでスキップしそうなほど気分が盛り返していた。

 むしろ妹にバレないよう物を使った隠れんぼ遊びだと思えば、逆にやる気が出て来てしまう。


「よぉし、あいつにバレないように完璧に隠し抜いてやるぜっ!! さあ隠せそうなところ……か、隠せそうなところ…………マジでねぇっ!?」


 改めて自分の部屋を見直した俺の頭に浮かんだのは『がらんどう』の一言だった。

 家具も何もなく、カーテンから電灯まで取り外した俺の部屋にある物と言えば床の上に敷かれたバスタオルぐらいのものだった。

 一応もう一つ、フリマサイトで出品しているカーテンなども包装した状態で置かれているが、だから何だというのか……五十歩百歩とはこのことだろうか?


 まあ要するに……何もないというのが結論だった。


(……バスタオルの裏に隠すか?)


 一応試してみたが……余りにも無謀過ぎる。


「くそぉっ!! こうなったらカーテンの梱包に混入してごまかしてやろうかっ!? そんでもし今日明日に売れたらサービスだって言ってピチピチな女子高生のパンツをおまけに付け……んんっ!?」


 ふとそこで俺は画期的な下着の処理方法を思いついて、パンと手を打ってしまう。


(そうだよっ!! カーテンとかみたいに梱包しちまえば良いんだよっ!! 何なら本当にそのまま出品して売れちまえば発送して証拠隠滅も出来るっ!! 一石二鳥じゃねぇかっ!!)


 詳しくはないが現役女子高生の穿き古した中古パンツともなればどこかに需要はあるだろう。

 何よりダメで元々、思い立ったが吉日と早速フリマサイトに出品するべく相場と出品の仕方についてネットで情報を集め始めるのだった。


(おぉ……中古下着を専用に取り扱ってるところまであるのかぁ……身分証明書尽きの脱ぎたてパンツ……へぇ、染み付きの方が高いのかぁ……うぅん、こんな面白そうな世界があったなんて……俺の穿き古したトランクスも何とか売れないもんかなぁ……幾らでも染みつけてあげるんだけどなぁ……)

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、さすがに危なすぎるぞ、そのサイト。 古物営業法違反だあ/w
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