表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

45/58

兄と女の子たち⑨

「いらっしゃいま……あぁっ!! 不動さんやっと来てくれたんですねぇっ!!」

「あ……あはは……お、おはようございます広子さん……」

「え……お、お兄ちゃんこの人は……?」


 お店に入ったところで、レジの内側にいる広子さんが即座に気づき満面の笑みを向けてくる。

 いつもならそんな彼女を見たらひれ伏して拝んでしまうところだ。

 しかしその笑顔に妙な迫力を感じたことと、妹が縋りついているせいで普通に返事をすることしかできない。


(こ、これは不味い……このままじゃ向こうのペースに乗せられるっ!?)


 こんな常識的な反応を返すことしかできない俺に対して、広子さんは笑顔を浮かべたままバッとどこかから制服を取り出すとレジを乗り越えて勢いよく迫ってくる。


「さあさあさぁっ!! 不動さんも一緒にお仕事しましょうねぇっ!! 大丈夫、私が手取り足取りきちんと一から十まで何でも教えてあげますからっ!! それで早く仕事を覚えて私に休息を……っ!?」

「ちょ、ちょっと落ち着いて広子さ……うわぁ、目の下がクマさんで真っ黒だぁ……徹夜何日目ですか?」

「うふふふふぅ~、別に徹夜はそこまでしてませんよぉ……ただ少し前に悪霊がどうとかいう騒ぎのせいで少しだけいたバイトの子達も辞めて仕事が多くなっちゃって疲れてるだけですからねぇ~」

「……えっ?」


 とにかく話を逸らして少しでもこちらのペースに持ち込もうとしたけれど、広子さんの返事を聞いて思わず固まってしまう。


(悪霊騒動のせいで一応いたらしいバイトの子達が辞めた……これってひょっとして俺のせいなのでわ?)


 この土地が本当に呪われているかどうかは分からないが、少なくとも大騒ぎが始まったのは間違いなく俺が来てからだ。

 もしそれでバイトの人が辞めて広子さんの負担が増えた結果、ここまで暴走しているのだとしたら流石に責任を感じなくはないような気はしなくもない。


「……ねえ、お兄ちゃん……悪霊がどうのって……前に個々が呪われてるとか騒いでたけどひょっとして……?」


 果たして広子さんの発言を聞いた妹も同じような考えに至ったのか、不安そうな面持ちのまま俺に対する不信感を込めた呟きを口にし始めた。


「はぅっ!? い、いや待て妹よっ!! 俺は別にそんなつもりじゃ……っ!?」

「あららぁ~? そちらの可愛らしい子は不動さんの妹さんですかぁ? どうも初めましてぇ、私は只野広子でぇす……いつも来てくれる不動さんにはいつもお世話になっていていつも感謝してますぅ」

「えっ!? あっ!? は、初めまして私は不動妙央と言いますっ!! い、いつも兄が迷惑を掛けて申し訳……お、お兄ちゃんほら頭下げてっ!!」

「えぇっ!? ど、どっちかと言えば俺が迷惑を受け……うごぉっ!?」


 深々と頭を下げる広子さんに対して、妹は激しく頭を上下させながら俺の身体を引っ張ってくる……どころかわき腹を抉るような一撃を喰らわせて無理やり頭を下げさせてきた。


「ほ、本当にごめんなさいっ!! お、お兄ちゃんは別に悪気があってふざけてるわけじゃないんですっ!! た、ただ人を笑わせるのが大好きだからついやり過ぎてしまうというか……」

「わかってますよぉ、不動さんが良い人なのはよぉく……だからこそ今後とも末永く(同僚として)お付き合いしていきたいと思ってる次第でして……」

「ふぇっ!? す、末永くお付き合いってそれ……えぇえええっ!? い、家に戻れなくなるかもってそういうことなのぉっ!?」

「……そういうこと……ってどういうことだ妙央? うごっ!?」


 広子さんの言葉を聞いて驚いたように目を見開きながら、俺と彼女を交互に見つめてくる妹。

 どうやら何かを悟ったなので全く理解できていない俺に教えてほしいところだが、尋ねたところ返ってきたのは暴力だった。


「も、もうこういう話ぐらい真面目にしてよぉっ!! お兄ちゃんの馬鹿ぁっ!! わ、私てっきり変な事件にでも巻き込まれたんじゃないかって凄く心配したんだからねぇっ!!」

「い、いや……だ、だから現在進行形で変な出来事に巻き込まれてるんだがお前の目は節穴なの……うごっ!?」

「もう良いから兄貴は黙っててっ!! と、とにかく兄にはしっかりと責任を取らせますからっ!!」

「うふふふっ!! それは本当に助かりますよぉっ!! 不動さんはこんなしっかりした素敵な妹さんが居て幸せですねぇっ!!」

「ど、どこをどう見たら……ひ、広子さんの目も節穴……うごっ!?」


 暴走している二人の女性に対して唯一冷静沈着な俺が突っ込みを入れようとするが、そのたびに妹の暴力によって黙らされる。


(うぐぐ……い、妹を口実に逃げるつもりが逆に逃げ道を封鎖されるとはぁ……こ、この裏切り者めぇっ!!)


 思わず恨めしそうな視線を妹に向けそうになるが、向こうが物凄くおっかない顔をしていたので即座に顔を逸らす情けない俺。


「そ、そんなことないですよぉ~……わ、私なんか全然……そ、それより広子さんこんな兄ですが良いところもたっくさんあるのでどうか見捨てないで上げてくださいっ!!」

「見捨てたりなんかしませんよっ!! こんな素敵な(働き手である)不動さんにはずっと(この職場で)一緒に過ごしていきたいぐらいですからねっ!! しっかりと(ちゃんとした従業員になれるよう)面倒を見て行きますので今後ともよろしくお願いしますっ!!」

「は、はいっ!! あぁ……あ、あのお兄ちゃんに私以外の理解者が現れるなんて……し、しかもこんな素敵な女性が将来的な関係も見越してくれてるなんて……うぅ……よ、よかったよぉ……うん、本当に良かったぁ……っ」


 何一つ俺と広子さんのことを理解してなさそうな妹だが、何やら涙すら浮かべながら嬉しそうに頷いている。

 もちろん俺が働く的な流れになっている現状を見て広子さんも涙すら浮かべそうなほど嬉しそうに頷いていた。


(……うぅ……ど、どうしてこうなるのぉ……?)


 物凄く色々と言ってやりたいところだが、どうせ暴力で黙らされるだけだ。

 だから俺は絶望的な心境で涙すら浮かべながら、勝手に盛り上がる二人の女性の姿を眺め続けることしかできないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 誤解が重なってますねえ/w 妹は、兄を任せられる人がいるなら、別に独占しなくてもいいのかな。本当に兄の幸せを考えているのだとしたら、やはり彼には出来すぎた妹。 しかし。コンビニでの仕事が続…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ