兄と女の子たち⑥
「……えぇと、つまり優里菜ちゃんが俺に気づいたきっかけって妙央に言われてサクラみたいなことしてたからってこと?」
『そうですよお義兄さんっ!! 妙央ちゃんが少しでもお兄ちゃんの生活費のために協力してほしいってお願いされてたんですよっ!!』
優里菜ちゃんとの連絡を終える前に、どうやって俺の正体に気づいたのか名推理を聞かせて貰おうとしたのだがその返事は余りにも予想外だった。
(うぅ……そりゃあ確かに俺が出品した商品が少しでも売れやすくなるよう妹にいいねとかつけて賑やかしするように頼んでおいたけど……まさかお友達まで巻き込んでやがったとは……)
事前に妹からアクセスされないようそっちはブロックしておいたのだが、他に俺の正体を知った上でこちらのアカウントを登録している奴がいるとは思わなかった。
「そ、そうだったのかぁ……ち、ちなみに優里菜ちゃん以外にこのアカウントが俺の物だって知ってる人は居たりするのかな?」
『それは大丈夫だと思いますよっ!! 何せ妙央ちゃんは大親友である私にしか頼めないって言ってましたからねっ!!』
「えぇ……それって頼み事するときの常套句のような……で、でもあいつ意外と真面目だから本気で言ってる可能性も……うぅん、でもなぁ……?」
たまたま知られたのが優里菜ちゃんという話の分かる?相手だったから良かった……いやまあ色々と困ってもいるのだけれど、とにかく最悪の事態である妹に知られて百裂パンチを見舞われるのだけは免れることができた。
しかしもしも他にも同じようにこのサイトを知っている妹の友達がいる場合、幾ら俺が優里菜ちゃんの言いなりになろうとも違う奴からリークされたら何もかもお終いだ。
『だから大丈夫ですってばぁ……妙央ちゃん尊敬するお義兄さんがお金に困ってるだなんて悪評を周りに広めたくないって言ってましたから私にも内緒にしてほしいってお願いしてたぐらいですし……』
「うぅん……尊敬する兄ねぇ……」
妹の口から出るはずのない言葉を聞いて余計に不信感が募りそうになる。
(でも人前だから猫を被っているとも……純粋にただ身内がニートしてるのが恥ずかしいからそういう言い方をしたと考えればまあ納得できる……かなぁ?)
普段から暴力を振るわれまくっている身としてはどうしても頷きがたいところだ。
ただまあこんなことで嘘をつくとも思えないし、多分優里菜ちゃん的には本当のことを言っているのだろう。
『そうですよぉ……妙央ちゃん普段から家族の話題になると自慢のお兄ちゃんが居るから寂しくないって自慢げに語ってて……私なんかちょっと嫉妬しちゃってたぐらいなんですからねぇ』
「……ああ、『家族』の話題でかぁ」
『ええ、それはもうお兄さんの話しかしないぐらいで……』
俺の声を聞いて何を感じたのか優里菜ちゃんが新たな情報を追加してきた。
(もう俺しか残ってないもんなぁ……そりゃあ変な空気にしないためにも人前で悪くは言えないよなぁ……)
妙央がお友達を相手にどこまで自分の家庭環境について話しているかは定かでないが、今の逞しく育った……というか逞し過ぎてすぐ手が出るほど強くなったあいつのことだから外では心配かけまいと気丈に振る舞っていたとしても不思議ではない。
「……なるほど、よくわかったよ……じゃあとりあえず優里菜ちゃん以外に身バレする心配はないわけだ」
『まあそれでもこのまま出品し続けたら妙央ちゃん本人が気づいちゃうかもですけどねぇ……それに私としても間違っても他の人に妙央ちゃんの私物が買い取られるのは我慢できませんし……もう直接買い取るからあんなサイトに出すのは止めませんか?』
「うぅん……まあぶっちゃけ優里菜ちゃんしか買い手いなかったし、確実に買い取ってくれるなら止めてもいいんだけど……」
『それはまかせてくださいっ!! 愛する妙央ちゃんのグッツなら何でもウェルカムですからっ!! 絶対に引いたりしませんからもっともっと過激な品を用意してくださいっ!!』
力強く宣言する優里菜ちゃんだが、その情熱にこっちがドン引きしたくなってくる。
(か、過激な品って……ま、まあパンツで喜んでた時点で何となくわかってたけど……この子なんかヤバない?)
果たして優里菜ちゃん自身が言っていた婚約者宣言もどこまで正しいのか分からなくなってくる。
何せ妹に内緒で下着を買い取った上に、返信欄に使用感がどうとか書いていたほどだ。
本当に純粋な恋人というか想い合っている関係ならばそこまで欲情が前に出てくるものだろうか?
(うぅん……まあ妹のことだから何かあっても自らの身を守れるぐらいの腕力が持っていると思うけど……兄として少しは警戒しておいた方が良いのかもしれないなぁ……)
兄の鏡として万人に褒め称えられてしかるべきな性格をしていると自負しなくもない俺としては、余りこの子を刺激して暴走しないように配慮したほうがいい気がしてくる。
「……期待してくれて誠にありがたいのですが、最近は妹に警戒されてきてるから次の商品の入荷には時間が……」
『二十万円』
「明日にでも早速準備させていただきま……はっ!?」
『あははっ!! お義兄さんのそういう現金な所良いですねっ!! 変に隠して近づいてくる人よりずっとマシですっ!! 私的に高評価ですよっ!!』
またしてもお金に釣られた最低な発言をしてしまった俺だが、何故か優里菜ちゃんはまたしても楽しそうな笑い声をあげるのだった。
(や、やっぱりこの子なんか変……い、いやそれより条件反射で返事してしまう俺の方がずっとおかしいわぁ……うぅ……で、でもあんな前振りされたら答えるのが芸人としての……でも俺芸人じゃないんだけどなぁ……?)




