兄と女の子たち④
「さて……どうしたものかな?」
妹の追及を避けるために部屋に戻った俺は回収してきた携帯を手に頭を悩ませていた。
一度はテレビの下に捨ててそのまま封印してやろうかとも思ったが、何かの間違いで妹がこれを手に取ったら大変なことになってしまうからだ。
(マジで例の商売がバレたら殺されかねないからなぁ……うぅ、だけど何であの子にバレちゃったんだぁ?)
確か妹の顔写真を載せていたはずだが、ちゃんと正体がバレないような対策はしてあったはずだ。
まして知り合いに気づかれないようにマイナーなフリマサイトをわざわざ選んでいたというのに、どうしてピンポイントで優里菜ちゃんが俺の出品画面に辿り着けたのか不思議でならない。
(まさか何か身バレに繋がるミスを……でも流石にそれなら親友らしい優里菜ちゃんが何か言うはずだよなぁ?)
あの子がどういう感情で妹の私物を買い集めているかは分からないが、二人が一緒に居るところを見る限り悪い感情を抱いていないのは確実だろう。
だからもしも身バレにつながる情報があって、万が一にも妹が辛い思いをする可能性があるのならば指摘してくれてもおかしくはない。
「……でも一応確認しておくか?」
幾ら俺がどうしようもない駄目兄貴だとしても、流石に実害が出そうな迷惑を妹に掛けるわけにはいかない。
あの目障りな通知音に再度悩まされるのは嫌だが、仕方なく俺は電源を落としたばかりの携帯を再起動した。
『ピコン』『ピコン』『ピコン』『ピコン』
「うぅ……やっぱりこうな……ん?」
再び訪れた通知音ラッシュに震えそうになった……のだが、意外にもすぐに携帯は静かになった。
てっきり数分は鳴り続けるかと思っていただけに肩透かしを食らったような気分だ。
(うぅん……俺が電源を落としたから諦めた……りする程度の執念には思えないんだけどなぁ……?)
こうなると逆に気になってしまい、俺は出品画面を確認するよりも先に二人から最後に届いた通知を怖いもの見たさもあって先に開いて見てしまった。
『不動さぁ~ん、いつまでも私をこんな気持ちで放置していたら感情が噴火しちゃうかもですよぉ~?』
『お義兄さぁ~ん、いつまでも私を放置してると大変なことになっちゃいますよぉ~?』
「…………」
文面を見て即座に目を逸らしたくなるほど後悔してしまう俺。
(うぅぅ……お、俺が何をしたぁ?)
まるで爆弾付きの手紙を送られてきた気分だ……マジで上手く解除しないと大爆発しそうで恐ろしい。
何故ろくにモテた経験もない俺が、こんな浮気者特有の悩みのようなものを抱えなければならないのだろうか?
(何でこうなるかなぁ……俺はただ妹の言葉と暴力に従って素直に社会復帰を目指してただけなのに……理不尽すぎるぅ……)
一体全体どうしてこうなってしまったのか、原因が全く分からない。
ただ分かることは一つ……このままだと俺の身に良からぬ不幸が襲い掛かってきそうだ。
何せこの二人は俺の家がどこにあるのか知っているのだから、しびれを切らしたら襲撃してこないとは言い切れないのだ。
「はぁぁ……イヤだけど連絡するかぁ……」
仕方なく俺は携帯を操作して、二人の女性に対して返信を試みるのだった。
「『この電話番号は現在使われておりません。番号をお確かめの上、もう一度お掛け直し下さい』っと……完璧だな、後はこれを二人に送ってやれば静かな暮らしが戻っ……っ!?」
『ピコン』『ピコン』『ピコン』『ピコン』『ピコン』『ピコン』『ピコン』『ピコン』『ピコン』『ピコン』
「な、何でぇえええっ!?」




