兄と女の子たち③
『ピコン』
「今日はとぉっても楽しかったよ妙央ちゃん、また遊びに来てもいいかな?」
「う、うんいいけど……優里菜ちゃん本当にお兄とお話しなくていいの?」
「うん、それは大丈夫だよ……また今度折を見て『お話』するから……ねぇお義兄さぁん?」
「う……そ、そうだねぇ……また今度細かい『お話』しようねぇ……あ、あははは……」
とてもいい笑顔で手を振ってくる優里菜ちゃんに対して俺は引き攣った笑みを返すことしかできない。
(うぐぐ……ま、まさか購入者の正体が妹の親友だったとは、この名探偵マサノブの目をしても見抜けなんだ……いや、マジどうしようこれ?)
もしも優里菜ちゃんが妹に包み隠さず俺の行いを密告そうものなら、その時点で俺の身体も解体されることになるだろう。
尤も当の本人も妙央に気づかれたくはないようで、俺の携帯番号だけ聞き出すとこうしてさっさと帰ろうとし始める始末だった。
『ピコン』
「うふふふぅ~、じゃあまたね妙央ちゃん」
「じゃ、じゃあね優里菜ちゃん……また明日……」
「さ、さようならぁ~……」
妹に向かってぺこりと頭を下げた優里菜ちゃんは去り際に俺へ例の死んだ魚よりどす黒い眼を投げかけながら早足で立ち去って行った。
(うぅ……あ、あの意味ありげな視線……これ絶対電話かかってくるだろぉ……勘弁してくれよぉ……)
この携帯の利用を再開してからろくな目に合っていない気がする。
どうやら俺にとって携帯電話はバッドアイテムだったようだ。
『ピコン』
「……ねぇお兄ちゃん……さっきおトイレに行った優里菜ちゃんと何かお話でもしたの?」
「え……な、何で?」
「だって私の部屋に入ってなんか落ち着かなそうにソワソワしてたのに、戻って来るなり急に用事を思い出したとか言って帰ろうとするし……元々お兄とお話があるみたいだったし……それで、どうなの?」
「あ、ああ……い、一応少しだけお話したけど……」
「ふぅん……やっぱりぃ……それでどんなお話したのぉ?」
俺の返事に何やら少しだけ唇を尖らせてこちらをジト目で睨みつけてきながら、まるで探りを入れるかのように尋ねて来る妹。
(滅茶苦茶疑われてる感が凄い……こいつまさか自分のパンツが売られてることに薄々感づきつつあるのでは?)
考えてみれば少し前から妹は俺が部屋に入ることを妙に警戒し始めているようだった。
てっきり本人が言うように年頃の女の子らしくプライバシーを意識してのことだと思っていたが、ひょっとして俺の行いをけん制するためなのかもしれない。
何せ妹は名探偵である俺と同じ血が流れているのだから、ほんの僅かな証拠とも言えぬ残痕からそこまでたどり着いても不思議ではないのだ。
(ふっ、流石は我が妹よ……だが怪盗マサノブを追い詰めるにはまだまだ詰めが甘いぜ……)
この程度の追及ならばごまかすのは簡単だ。
だから俺は余裕すら感じらせる笑みを浮かべながら優しく諭すように話しかけるのだった。
「いや別に大したこと『ピコン』は話してな『ピコン』い……?」
「……よくわかんないけどいい加減出てあげたら?」
「い、いやこ『ピコン』れはただの間違『ピコン』い……?」
「……間違いなら間違いで指摘しないと、いつまでもかかってきそうだよそれ?」
何故か急に倍増した通知音に困惑する俺だが、妹もまた話に集中できなくて鬱陶しいのか先にそっちを片付けるように促してくる。
仕方なく会話を打ち切り嫌々携帯の画面を覗き込んだ俺は、そこに二人の名前が交互に現れてくることに気が付いてしまう。
『呪われし女神@広子』『皮膚呼吸の優里菜』
(……見なかったことにしよう)
厄介ごとの気配しかなくて、俺はそっと携帯の電源を落とし本体を全力でテレビの下に投げ捨てるのだった。
「お、お兄ちゃん何してるの? というか誰からだったの?」
「……妙央、世の中にはな……知らないほうがいいってことも多いんだ……いやマジで……本当に関わりたくないんですよ……聞かないで……お願い……」
「えぇ……お兄がそこまで言うなんて……なんか逆に気になるんだけどぉ……まさか変な詐欺とかに引っかかったり……いやお兄ちゃんなら逆に相手が泣いて謝るだろうし……本当に何なのぉ?」
大変遅くなって申し訳ありませんでした。
下手に三連休と重なったせいで戻って来るのに時間が掛かってしまいました。




