兄と仕事とパンツ⑱
「良いですか不動さん、暇なときはこうして陳列を確認して品物の前出しを……」
「うぅ……わ、わかりましたぁ……」
マジで従業員でも何でもないのに広子さんから指導教育を受ける羽目になっている俺。
ぶっちゃけただ働きみたいなものなので物凄く理不尽なのだが、こうして実際に手を取って引っ張られると俺には逆らいようもない。
何故なら広子さんが女神様として評すべき豊満な部分が……ぶっちゃけ胸が時折腕や背中に当たるんだから、こんな魅力にあらがえるわけがない。
(ああん、巨乳最高ぉ……ってんなこと考えてたらこのまま『ありがとう』だけを報酬に動く社畜ロボにされかねない……)
だから逃げる隙を探したいのだけれど、広子さんはにこやかに微笑みつつもその手には絶対に逃がすまいと力が込められているのだ。
おまけに上着だけだが父親用という制服まで無理やり持って来て着せてくる始末で……これ本当にヤバいんじゃないだろうか?
(うぅぅ……『不動さんなら絶対に似合うと思いますから……私不動さんの格好良いところ見てみたいですぅ~』なんて言葉に踊らされた俺が馬鹿だったぁ……)
ちなみに文字通り踊りながら着込んでポーズまで取りぱちんと指を鳴らして見せたところ、拍手しながら歓迎されて良い気分になってしまったのは内緒だ……本当に俺はアホだ。
しかしいつもの広子さんならこんなアホな俺に呆れるか突っ込みを入れるかしそうな所なのだが、それでも強引に抱え込みに来た辺り父親抜きな現状にかなり参っているようだ。
(そう言えば他の従業員の姿見たことないもんなぁ……もし一人で接客してるとしたら変なお客来たときとか精神的に辛いだろうし、いざという時の仲間が欲しかったのかなぁ?)
だからといって俺にも予定が……全くないのだけれど、とにかく幾ら何でも無給で働かされることには抵抗がある。
「それで次はレジ……は流石に従業員契約を結んでからじゃないと不味いだろうし、じゃあ先に入荷した商品の検品のやり方を……」
「あ、あのぉ……広子さん、そろそろ俺携帯の料金支払いに……」
「ま、まだ良いじゃないですかぁっ!! もう少しだけお仕事覚えて行きましょうっ!! まだまだ教えたいことが沢山……」
「か、勘弁してく……っ!?」
俺の言葉に広子さんは慌てた様子で捲し立てながら俺の腕を抱きかかえてきた。
多分どっかに行かないように引っ張り込んだつもりなのだろうけれど、おかげで思いっきり腕に胸が当たって……最高です。
「……はぁ……このままもう少し……」
「あっ!! ありがとうございますっ!! 流石不動さんっ!! 本当に優しいんですねっ!! じゃあお父さんが帰って来るまでこのままお付き合いお願いしますねっ!!」
「はっ!?」
思わぬ心地よさについ口を付いた言葉を目ざとく聞きつけた広子さん。
俺が正気に戻った時には色々と手遅れだったようで、満面の笑みを浮かべた広子さんはますますこちらの腕をギュっと抱きかかえてくるのだった。
(お、おぉぉ……こ、これは素晴らすぃ……じゃ、じゃなくてヤバいっ!? な、なんかドツボにハマりかけてるような……っ)
「じゃあ次は一番くじ関連なんかを教えて……ちょうど残りも少ないことですし、私が立て替えますから不動さんが残りを買い占めたという形で処理しますから一緒にやって行きましょうっ!!」
「あぁ……は、はいぃ……わかりましたぁ……ぐすん」




