兄と仕事とパンツ⑫
「ふははははっ!! 俺こそが現代の錬金術師だぁっ!!」
喜びに打ち震えながら俺は全力で帰路をひた走っていた。
(まさか妹の髪の毛一本が一万円で売れるなんてっ!? 凄いぞ妙央ちゃんっ!! お前がナンバーワンだっ!!)
流石に髪の毛一本が本当に一万円で売れるとは思っていなかったが、商談するつもりもかねて約束通りの額縁で出品しておいたのだ。
すると向こうは俺が店長ゾンビと戯れて居る間に即決で購入してくれていたようで、あの通知音ラッシュは一刻も早く送ってくれて負いう催促だった。
(だけど本当に何なんだこいつは……ここまで急かしてくるとは……)
相変わらず向こうの執念は半端な物ではなく、俺が物を送るまで無限に通知が送られてきそうな勢いである。
だからこそさっさと物を送ってしまいたいのだが、今回は他に優先して持ち出すべき除霊グッツが多かったために持ってこなかったのだ。
(物が物なだけに妹に見つかっても平気そうだって置いてきちゃったんだよなぁ……しかしここまで早く売れるとは思わなかったもんなぁ……)
ここまで執着されていると、一体どんな奴が買っているのかやっぱり気にはなってくる。
ただ正体の第一候補であった店長ではないようだし、こうなると全く皆目見当もつかない。
唯一分かっているのは配送時間的に近しい場所に住んでいそうだということぐらいだ。
(この名探偵である俺の推理を外させるとはやるではないか……いずれ必ずその正体を暴いてくれようぞっ!!)
そんな決意を固めながらも怪盗としての初仕事を済ますべく自宅へ飛び込み、髪の毛を梱包した封筒を取ってくる俺。
後はこれを配送業者へと持ち込み、向こうへ送りつけてやればそれだけで一万円になるのだ。
「……でも流石に髪の毛一本だけで一万円は悪い気がするなぁ……ちょっとだけサービスしてやるかっ!!」
今後も長い付き合いになるかもしれないのだ。
だから俺はもう少しだけ髪の毛を増量してやろうと妹の部屋へと向かった。
「……ん?」
ドアノブに手を掛けて捻ろうとするが、ガチャガチャ音が鳴るばかりで一向に開かない。
首を傾げながら詳細に観察してみると、何と鍵が掛かっているではないか。
どうやら昨夜の一件を機に、俺が部屋に侵入するのを警戒するようになったようだ。
(おおぅ……まさか施錠してくるなんて……だがこの程度で怪盗マサノブを止めることは不可能なのだっ!!)
しかしこの程度の障害でくじける俺ではない。
すぐに財布からなけなしの十円玉を取り出し、窪みに嵌め込んで捻ることであっさりと開錠に成功する。
「ふふ……中々怪盗らしい仕事になってきたじゃないかぁ……こうでなければ面白くないぜ」
ニヤリとほくそ笑みながら今度こそドアを開き、ゆっくりと室内へと足を踏み込んだ……ところで足の裏から凄まじい激痛が伝わってきた。
「痛っ!! 痛ぇえええっ!! な、何か刺さっ……なぁああっ!?」
足を抑えながら床の上に視線を投げかけた俺は、恐るべきトラップの目の当たりにしてしまう。
何とそこには組み立てて遊ぶブロック玩具がバラバラに敷き詰められていたのだ。
(な、何て奴だっ!! こんな巧妙かつ恐るべきトラップを仕掛けてくるなんてっ!!)
驚愕の余り後ずさりしてしまう俺。
まさか妹がここまで極悪な罠を仕掛けてくるとは思わなかった。
同時にこんな玩具を持っていたことにもちょっとだけ驚く。
「……というかこれって……俺が実家で使ってた奴か?」
そっと近づいて角が尖る一つ一つのパーツを手に取り観察してみるが、傷の付き方などからしても間違いなく俺が使って遊んでいた物だった。
そして同時に思い出した……自分が昔、妹と追いかけっこしたときにマキビシの術と叫びながら同じようにばら撒いて思いっきり泣かせてしまったことを。
(ま、まさかあいつ……あの時の事ずっと根に持ってて復讐する機会を探していたのでは?)
或いは単純に当時の記憶からこれを防犯用に使えると判断しただけかもしれない。
実際に効果はてきめんであり、俺は先ほどの痛みを思い出すととてもこの部屋に足を踏み込めないでいた。
「くぅぅ……だ、だがこの程度で俺を止められると思ったら大間違いだぜっ!!」
しかし所詮はブロック玩具でしかない。
一カ所にまとめて組み立ててしまえばもはや間違って踏む心配などないのだ。
だから俺は部屋の手前にある廊下に座り込むとこの部屋を制すべく、ブロックの処理にかかるのだった。
「ふふふ、久しぶりに腕が鳴るなぁ……見てろよ妙央っ!! お兄ちゃんにこんな罠を仕掛けたことを公開させてやるぜっ!!」
まあ単純にブロック遊びしてみたくなっただけなのだが……とにかく手の動くままにブロックを組み合わせていく俺。
少しずつお城の形が出来上がってくるが、そこで手の届く範囲にあるパーツだけでは足りなくなってくる。
だから作りかけのブロックを引っ張ってきて妹の部屋に踏み込み、床の上に転がっている全てのパーツをかき集めた上で改めて組み立て作業に時間を忘れて没頭した。
「よし、これで……最後にここを……よしっ!! 完成だぁああっ!!」
「ただいま……帰ったぞ兄貴っ!! 大人しくしてただろうなぁっ!! おいどこにいるっ!?」
「おお、お帰り妙央っ!! ちょうどよかった、これを見てくれよっ!!」
いいタイミングで妹が帰ってきて、俺はすぐにでも自分の力作を見せつけようと部屋を飛び出し玄関に立っている妹を手招きするのだった。
「ジャーンっ!! 西洋風のお城でぇ~すっ!! お前昔好きだったよなぁこれ……こうして組み立てるとはしゃぎながらお人形とかヌイグルミとかでお姫様ごっこして……」
「……そんな事より兄貴、あたしが昨日言ったことはもう忘れたのか?」
「はぇ? 何かあった……はっ!?」
「あたしの部屋に勝手に入るなって言っただろうがぁああああっ!! このクソ兄貴ぃいいいっ!!」
「ひぃいいっ!! す、すっかり忘れてましたぁああっ!! ど、どうかお許しください妙央様ぁあ……がふぅっ!?」
(し、しまったっ!! ブロック遊びが楽し過ぎて何もかも忘れてしまっていた……はっ!? ま、まさかこいつそこまで計算してブロックをばら撒いてあったのかっ!? は、嵌められたぁああああっ!!)




