兄と仕事とパンツ⑤
「エロ本……エロ本はどこに……くそっ!! ベッドの下じゃないのかぁっ!?」
妹の部屋を探索すること数刻、何故か途中からエロ本探索に切り替わっていた。
何となく人の部屋に入って物を漁る所が、何かの漫画かゲームのシチュエーションにそっくりな気がして乗り気になってしまったのだ。
しかし鍵のかかっている学習机や姿見の引き出しを除いて、部屋中を探し切ったつもりなのだがどうしても見つからない。
(ま、まさか持っていないというのかっ!? 馬鹿なっ!? 思春期真っ盛りな年齢だってのにエログッツ無しでどうやって日々を乗り越えているんだっ!?)
かつて自分が学生だった頃などは部屋のあちこちに面白ギミックとしてエロ本を仕込んでいた。
本棚に触れればガチロリ本が飛び出し、引き出しを開ければ熟女物が見開かれた状態でこんにちわ、更にはビデオデッキにはわざと無修正丸見えAVと代打ったアニマルビデオをセットしていつでも不審な侵入者を返り討ちに出来るようにして置いたのだ。
尤もその仕掛けに引っかかったのは両親ばかりであり、物凄く叱られもしたがそれもまた今となってはいい思い出だ。
(懐かしいなぁ……お袋には性癖ぐらいはしっかりしろって真顔で言われたんだよなぁ……そして親父にはせめて人間を相手にしろって遠い目をしながら言い含められたんだよなぁ……)
今を楽しむことに全力を費やしている俺は余り過去を振り返る方ではない。
だからこうして親父たちの元気だったころの姿を思い出すのも久しぶりだったが、意外にも記憶はまだ薄れてはいなかった。
(馬鹿なことして叱られてばっかりだったけど……何だかんだで俺もあの二人のこと、結構好きだったんだなぁ……)
尤も頭に思い浮かぶのは怒ってたり呆れていたりする顔ばかりなのだが……一体どんな顔で笑っていただろうか?
(ちょっとだけ気になるなぁ……アルバムでも見れば一発なんだろうけど、あれって確か妙央が管理してたよなぁ……?)
俺の部屋から本棚が消えた辺りに妙央が自分の部屋に引き取って行ったような記憶が微かにあるような気がする。
この家に隠せそうな場所などないし、そもそもアルバムを隠すわけも無い……恐らくはこの部屋のどこかにあるのだろう。
(どうせだしついでに探してみますかね?)
探索次いでにアルバムも探しておこうと、俺は改めて妹の部屋の中を調べて回る。
「どこだぁ……エロ本はどこだっ!? くそぉっ!! 本棚の裏でもないし表紙を入れ替えて隠してるわけでもないのかっ!?」
だけど数秒後にはもうアルバムのことなど忘れて、エログッツの探索に躍起になってしまう俺。
(ま、マジで持ってないのか……よく思春期真っ盛りなのにエロ抜きで耐えられ……はっ!? ま、まさかあいつ……リアルで楽しんでいるからそんなものは必要ないってことなのかぁっ!?)
驚くばかりの真相だが、名探偵である俺の推理に間違いはないだろう。
こうなるとない物を探しても仕方がなく、俺は敗北感を抱きつつ妹の部屋から退散しようとした。
「へへ、完敗だぜ……通りでいくら探しても見つからねぇわけ……あれ?」
そこでようやく本来の目的というか、エロ本を探しに来たわけではないと思い出す俺。
(そうだよ、俺はただ売っても良さそうな物を探してたんじゃないか……ただ意外と綺麗に整頓されてるから勝手に何か持ち出したらバレそうなんだよなぁ……)
ただあの野獣の様な性格とは全く似つかわしくない私室の様子を見て、あいつがどういう相手が好みなのか少しだけ興味を抱いてしまったのだ。
何よりそういう情報なら売れるんじゃないかという考えもあってちょっと探してみたところ、ついつい熱が入ってしまったようだ。
「やれやれ、怪盗マサノブもまだまだだなぁ……」
尤もこれがある意味での初仕事なのだから段取りが悪くても仕方が無いだろう。
むしろこれを機にもっと動きを洗練していけばいい。
(よぉし、頑張って真面目に働くぞぉっ!! 妹の期待に応えるために……というか暴力を振るわれないためにもっ!!)
やる気を絞り出しつつ、改めて部屋の中を探索しようとした俺。
「どこだっ!! エロ本はベッドの……ん?」
またしても暴走しかけたところで、ベッドの上にある枕に黒い線のようなものが残っていることに気が付いた。
近くで観察して髪の毛だと気づいた俺は反射的に指で摘まもうとしたが、すぐに思い直しティッシュで優しく包み込んだ。
「髪の毛……ある意味であいつが普段から身に着けている物と言っていいし、これなら絶対にバレない……よし、これにするかぁっ!!」
これ以上この部屋に居たらまた暴走してしまいそうだ。
だからさっさと切り上げようと……というかもう面倒になったので、これをそのまま持ち出して適当に写真を撮った後で封筒にしまい込んだ。
尤も封はまだしない……これを後で出品して、例の奴がどう反応するか見てこちらの動きも決めなければならないためだ。
(流石にこれはいらないって言われるかもなぁ……でもまあそんときはゴミ箱に入れればいいだけだしなっ!!)
やることも終わった俺は、今度こそ妹の部屋を後にするのだった。
「……もう一回だけっ!! やっぱり思春期の男ならエロ本持ってなきゃおかしいってっ!! あいつ胸的に男だし、絶対どこかいつでも取り出せる場所に隠してあるはずだっ!!」
隠された物を見つけ出せずに何が怪盗だろうか?
俺は自らのプライドに掛けて、改めて妹の部屋を探し回るのだった。
「どこだっ!! エロ本はどこ……ちぃっ!! やっぱり本棚はいくら探してもアルバムしかねぇ……んっ?」




