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兄と仕事とパンツ①

 薄っぺらい紙切れにデカデカと赤字で『不採用』とだけ印刷されているその文字を何度も見つめ直す俺。

 上から眺め下から眺め、更には裏返して見たり透かして見たりするけれどやっぱり『不採用』としか書かれていない。


(だがしかし、俺にはわかるっ!! 普通の不採用通知ならお祈り文ぐらい書かれているはず……つまりこの表に書かれた『不採用』の文字は偽装っ!! きっと他に何か隠された真実の一文(ポーネグリフ)があるに違いないっ!!)


 恐らくはあえてこのような見出しを付けて、俺が冷静に対処できるか胆力を試しているのだろう。

 しかし普段からアニメや漫画のような状況になったらどう動くべきかを想定している俺にしてみれば、この程度の展開では驚くには値しなかった。


(ふっ、完璧に見抜いてやったぜ……後はこの紙に秘められしメッセージさえ炙りだせれば……炙り出し、これだぁっ!!)


 更にそこで某推理漫画か何かに乗っていた炙り出しというものを思い出した俺。

 よくわからないが紙を火で炙ると文字通りメッセージが炙り出されるというものだ。


「じっちゃんの名に掛けて犯人はこの中にいるという真実はいつも一つだぜっ!!」


 トリックを見破った俺は探偵のごとく決め台詞を口にしつつ、炙り出すためにリビングの隅っこにある親父たちの仏壇へと向かう。

 幼い頃の妹が仏壇を視界に入れてしまうと両親を思い出して泣き出してしまうため、テレビとソファーにより食卓からは目に入らない位置に落ち着いてもらったのだ。

 まあ単純に俺が一人で暮らすための家だったから他に置く場所が無いという理由もあるのだが……ともかくそこへ行き、備え付けのライターで蝋燭に火をつける。


「ふっふっふっ!! 大いなる秘文(ヒエラティックテキスト)よ、今こそ我が眼前に現れよっ!!」


 蝋燭の揺らめく火を見ていると何かの儀式をしているような気分になり、調子に乗ってそんなことを叫んでみる。

 果たして蝋燭の炎は俺の言葉に反応、というより荒い息に煽られて不定期に揺らめきながら膨らんで……手紙に燃え移った。


「うわああっ!! 紙様のお怒りじゃぁあああっ!!」


 どうやら強引に解読しようとしたことで天罰を受けたようだ……というか真面目にこの状況はヤバすぎる。

 このまま別の物に燃え広がったら流石の俺でも茶化せないぐらいヤバいことになってしまう。


「あちっ!! あっちぃいっ!! うぉおおおおっ!! 水っ!! 水ぅうううううっ!!」


 文字通り火傷しそうな熱さを堪えながら、何とか台所まで移動した俺はすぐに蛇口をひねり全てを洗い流した。


「はぁはぁ……あ、危なかったぁぁ……あと一歩で俺の丸焼けフルコースが誕生するところだったぜ……はっ!?」


 完全に火が消化されたことで落ち着きを取り戻した俺は、そこで手紙の存在を思い出した。

 恐る恐る流しっぱなしの水で冷やしている手を覗き込むが、もはやそこにあるのは紙であった何かの残骸だった。


「……やっちゃったぜ♪」


 舌を出して如何にもおっちょこちょいな子がやりそうなポーズを取って見る。

 しかしそんなことをしても状況は何も変わらない……変わるわけがない。


(ヤベェ……隠されたメッセージを解読する前に燃やしてしまったぁ……こういう時って模範的な社会人ならどうするのが正解なんだろうか?)


 思わずネットで会社からの手紙を燃やした時の正しい対処法を検索したくなるが、料金未納で戦闘不能状態な俺の携帯は何も答えてくれなかった。


「うぅん……マジでどうしよう……読まずに燃やしたら……読まずに燃やした……読まずに……食べたっ!!」


 ふと自分の口ずさむフレーズに聞き覚えがある気がして頭を悩ませること数秒、俺はとある童謡を思い出した。

 確か黒ヤギが白ヤギから手紙を貰うが読まずに食べてしまったという歌であり、その後どうしたかも歌詞になっていたはずだ。


(ええと確かあの歌では……そうだっ!! どういう内容だったのかもう一度同じのを送ってくれって手紙に書いて送り返したんだったっ!!)


 良い子に聞かせるための童謡なのだからきっとこれが模範的な解答なのだろう。

 手紙を燃やしたか食べたかの差こそあるが、そこはまあ些細な問題ということで……。


(いや、この手の中に僅かに残った燃えカスというか残骸でも飲み込めば手紙を食べたことになるっ!! これで解決じゃぁあああっ!!)


「あぁむ……うげっ!! まっずぅうっ!! うぐぐ、妹の料理に比べるとゴミカスのような……いやゴミだから正しい味なんだけどさぁ……塩とか振って味付けすればよかったかなぁ……?」


 反射的に美味しい手紙の料理の仕方を検索したくなるが、やっぱり俺の携帯は役立たずだった。


(はぁぁ……まあいいや、とにかくこれで土壌は完成した……後は手紙を書いて相手に送り返せば……いやネットも使いたいところだし切手代だって勿体ない……どうせなら直接届けに行くとしますかっ!!)


 どうせ他にやることも無いのだからと、俺は早速出かける支度をしつつ手紙を作成し始めるのだった。

 

『申し訳ございませんが御社から頂いたお手紙を読み解く前に焼いて食べてしまいました』

『そこでまことに恐縮ではございますが、もう一度同じ内容のお手紙を頂けませんでしょうか?』

『ちなみに味の方は調理の仕方が悪かったのかとても不味く、文字通り食べられたものではございません』

『何か良いレシピ等ご存じでしたらお教えいただきたく思っている所存でございます』


(うぅん……後半の二行はいらないかなぁ? だけど味の詳細を書かないと食べたふりをしたって思われちゃうかもだし……難しいところだなぁ……?)

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、そんな黒ヤギさんのお返事を持ってくるような人間は、たとえ当初採用でも、首にしたくなるぞお。 さすがにコンビニ店長も、そこまでぶっ飛んでいるとは思ってないだろうなあ。
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