襲撃
一人じゃない。つまり共犯者がいるということか。容疑者であるジェイソンは、その共犯者に殺されたとでも……。
「ニック、細かいことはいい。ジェイソンに共犯者がいるとすれば誰だ? 奴の他に怪しい人間はいなかったか?」
ホールデンの表情には明らかに焦りが見える。まさかここまで取り乱す彼の姿を見られるとは。しかしそんなことを考えている余裕はないようだ。
「分かりません。私が見る限り、他に怪しい人間は見られませんでした」
「とにかくここを離れるぞ。次に狙われるのはお前だ、ニック」
「え?」
「口封じが目的なら次はお前が狙われるはずだ。サム、連れていけ」
「はい」
サムと呼ばれたもう一人の局員が、俺のもとへと歩み寄る。
「大人しく着いてき……ぐ……」
俺は慌てて飛びのいた。突然、彼の口元から血が溢れ出たのである。声にならない呻きを漏らしながら、サムの身体は床に叩きつけられた。
「インターバル無しか。お手上げだな」
ホールデンの声には諦念が混じっていた。そして間もなく彼も吐血し、机の上に突っ伏した。
(やばい。逃げないと)
俺は取調室を出ようとしてふと考えた。今ここで逃げ出せば、俺が犯人と疑われるのでは。そもそもなぜ俺は狙われない。こうして考えている間にも、敵は俺を殺せるはずだ。
「……ニック」
「室長、大丈夫ですか?」
虫の息であるが、ホールデンはかろうじて生きていた。しかし長くは持たないだろう。
「私が……死……たら……能力……」
「能力? 能力が何ですか?」
「使えるぞ……」
こう言い残し、ホールデンの全身から力が抜け落ちた。
(能力が、使えるだと……)
俺は目の前のホールデンを凝視した。この手錠、契約封じではなかったのか。しかし試してみる価値はある。
(尋問開始時だ。戻ってくれ)