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死神に魅入ったゾンビの話  作者: ココア
ゾンビと死神
6/22

ディユ・ラーミナ

どうもココアです。

少し期間が開いてしまいましたが、本日更新です!


「――ってわけで、俺はゾンビにされてたんだ」


 家に着いて改めて話をと言ったところで、少女が再び「結局どうしてゾンビになったのよ」と聞いてきたので、とりあえずゾンビになった経緯を話した。


「……」


 時々相槌を打ちながら聞いていた少女だが、話が終わった後は何やら深刻そうな顔をしながらぶつぶつと言っている。テーブルを挟んだ程度の距離しかないが、何を言っているかは分からない。


「何か気になるところでもあったか?」


 俺は少女が何か尋ねてくるのを待たず、自分から問いかけた。

 まさか声をかけられるとは思っていなかったのか、分かりやすく体を撥ねさせると緑色の瞳がこちらを向く。


「……別に今の話を疑ってるわけじゃないのよ。でも、ちょっと意外(・・)だったから」

「意外?」


 何が言いたいのか分からず首を傾げていると、今度は少女の方から質問が飛んできた。


「あんたはどれだけミクト様のことを知ってるの?」

「冥界にいる死神」

「それだけ?」

「あとはラナウェイを倒すためにこの世界にやってきた……ってことくらいかな?」

 

 改めて口に出すと、たった二言で終わってしまい、ミクトの理解度がどれだけ拙いか身に染みた。思い返せばミクトから冥界の話とか、死神の立場としての話などは聞いたことが無いかもしれない。

 本人も積極的に話すタイプでもないし、俺も聞くようなタイプの人間ではないが一か月も共にして何も情報が増えないのはさすがにコミュニケーションが足りていないということだろうか。


「そう……やっぱりね」


 これまでの一か月を振り返っていると、少女は再び深刻そうな顔をしながら言葉を漏らした。


「やっぱり?」


 その言葉に引っかかった俺は、繰り返すように思わず言葉を返していた。

「あんたが元々ラナウェイが見えていたこと、ゾンビであることは疑ってないって言ったでしょ?」

「ああ」

「私がさっき『意外』って言ったのは、あんたじゃなくミクト様のことよ」

「えっ?」


 そう言いながら少女は俺の隣に座っているミクトに瞳を向ける。当の本人は、優雅に紅茶を飲みながら机に置いてあるクッキーに手を伸ばす。


「……」


 悪い意味で緊張が解けてしまい、思わず頭を抱える。


「食べますか?」


 俺の心情など一ミリも理解しようとしないミクトがクッキーを差し出してきた。ここまで空気が読めないというか、状況を理解していないのも逆にすごいと思ってしまう。


「いや要らねえよ。ってか、今は結構大事な話をしてるんだけど?」


 『だからちゃんと参加しろ』という意味を込めてそう告げると、もう一度紅茶を口に入れてティーカップを机に置いてから凍り付くような眼差しで少女を見つめた。


「では……そろそろ私も参加しますよ」

「……っ!」


 空気が一変し、さっきよりも数倍重い緊張感が襲い思わず生唾を飲み込む。

 そして、完全に油断をしていた少女はいきなり死神の貫禄を出したミクトに怯え、全身を震わせながら俯いてしまった。


「それで?私の何が意外だったんですか?」


 追い打ちをかけるようにミクトは少女に問いかける。ちょっとは二人の間に入ってやろうとかと思っていたけど、とてもじゃないが入れる雰囲気ではなかった。

 普段はマイペース食いしん坊野郎なのに、切り替えただけでこんなにも変わるものなのか。


「どうしたのですか?黙っているだけでは話し合いになりませんよ?」

 

 ミクトはあくまでも自然な風を装って話を進めようとするが、俺にとっては質が悪いとしか思えなかった。しかし、割って入ることはできなかった。

 このまま沈黙の時間が続くと思っていると、ずっと俯いていた少女がようやく顔をあげる。


「そ、そもそもこの世界の人間と関わることは禁じられているはずです」


 今にも零れそうなほど目に涙を溜め、震えた声で声を出した。この状況でよく声を出したと、まずは拍手を送りたいところだけどミクトに睨まれそうなので心の中だけにとどめておくことにした。


「それにミクト様は冥界のトップに立たれているお方です。そんな方がこの世界にやってきて、ましてや人間と共に生活をしているなんて考えられるわけないじゃないですか」

「トップ?」

 少女が口にした一つの単語が耳に残った。

「何も知らないの?」


 すると今度は呆れるような目を俺に向け、ため息でも吐くようにして説明をしてくれた。


「死神というのは冥界をまとめる存在。一人しかいないわけじゃないけど、一人でも

かけたら機能しなくなるわ」

「機能しなくなる?つまり、冥界の命の手綱はミクトが持ってるってことか?」

「そう。だから冥界から出ていくこと自体普通じゃない。それに加え、人間と生活していることも……」


 そう言いながらミクトに視線を向ける。もう恐怖の感情は大分落ち着いたようで、気づけば涙も乾いていた。話の中心であったミクト本人は、のんびり紅茶を飲んでいて、俺と少女の話がまとまったことに気が付くとティーカップを机を置いた。


「話は終わりましたか?」

「お前……もうちょっと話に入って来いよ。お前が関わってる話なんだから」

「別に入る必要がないと思いましたから」


 どこか冷たさを感じるような言い方に、少しだけ背中が冷える。


「ちなみに私がこの世界にきた理由はラナウェイを滅ぼすためです。それ以上でも以下でもありません。そして、鷺沢さんと生活しているのは私の目的を手伝ってもらうためです」


 一度も息継ぎをせず言い切った。それには『これ以上何も言わせない』という意味が込められていそうで、俺も少女も口を開けなかった。

 特に少女にとってはミクトは上司に当たるだろうから、『これ以上聞いてくるな』という雰囲気を感じれば引き下がるしかないだろう。


「……分かりました。でも、何も言わずに居なくなるのはやめてください。他の死神様も慌てていました」

「勝手に慌てさせればいいんです。ただいるだけで死神として成り立っていると思っている方など、私は知りませんから」

「では私はこれで失礼します」


 どうやら上手くまとまったようで、今日はこれでお開きになりそうだ。チラッと時計を確認してみると、まだ午後11時30分だった。


「まだこんな時間なのか」


 感覚が狂い始めたのだろうか、ゾンビになる前はもう寝ている時間だけど最近は深夜の1時や2時まで起きていることが多い。だから11時なんて寝るには早いと感じてしまう自分がいた。


「ん?」


 少し上を向いていた視線を元の位置に戻してみると、床にピンク色の布が落ちていることに気が付いた。


「ハンカチ?」


 恐らくさっきの少女が出ていく時に落としていったのだろう。時間的にもそんなに経っていないからまだ近所にいるはずだ。


「ちょっとこれ届けてくる。先に寝てていいぞ」

「分かりました。お気をつけて行ってください」

「おう」


 どこか含みを感じる言い方に首を傾げるが、気にせず少女を追いかけるために外へ出た。

 すると……。


「遅い」

「えっ?」


 家のすぐ目の前で少女が立っていた。いや、口振りからして『待っていた』というのが正しいだろう。まだ出会って数十分ほどしか経っていないけど、ハンカチを落とすようなタイプとは思えない。

 恐らくミクトではなく、俺に話があったということだろう。


「それで?わざわざハンカチを落としてまで話したいことはなんなんだ?」

「話が早くて助かるわ。ミクト様の前だと上手く言いくるめられそうだったから」


 何となくそんなような予感はしていた。俺も少女が話していた中でいくつか気になったところはあるし、ミクトに聞いても教えてくれるとも思えない。


「さっきも言った通り、死神は冥界が存在することに大きく関わっているわ。それはミクト様も同じ」

「一人でもかけたらだめなんだろ?」


 この辺りはさっきもしたやり取りだ。


「そう。さっきも言ったけど、死神が冥界を離れることは本当に普通じゃない。誰にも何も言わず、一人でこの世界にやってきたことも」

「でもミクトはちゃんと理由を言ってたぞ?ラナウェイを倒すためって」


 実際、それを協力するために一緒に暮らしていると言っても過言ではない。他にも、ゾンビとしてだけど鷺沢拓巳として存在しているのはミクトのお陰だからという理由もあったりはする。


「あんたがミクト様とどんな話をしているのか知らないけど、言っていることが全部と思わない方がいいわ」

「どういうことだ?」


 どこか含みを帯びた言い方に、思わず食い気味になって言葉を返す。

「そのままの意味よ。ミクト様が言っていることが嘘であるとは言わないけど、全部を話しているとは限らないってこと」

「つまり、ラナウェイを倒すことが目的なのは真実だけど、他にも何か重要なことを隠しているってことか?」

「隠しているのか、ただ言わないだけなのかは分からないけどね。私はそう考えているわ」


 どこか確信を持ったような口調で少女は話した。


「……」


 思わず黙り込んでしまい、俺と少女を沈黙が包む。さっきよりも夜風が妙に冷たくて、むき出しになっている頬を刺激する。そんな俺に気を使ってくれたのだろうか、少女はまだ返していなかったハンカチを自分からとって、今度こそ帰るという意思を感じさせるように背中を向けた。


「今日はこれで帰るわ」

「あ、ああ。えっと……」


 見送りの言葉とともに名前を呼ぼうと思ったが、今更になってまだ名前を聞いていないことに気が付いた。


「ディユ・ラーミナよ」


 それを悟った少女――ラーミナが呆れたような声で言った。


「じゃあな。ラーミナ」

「ええ。また明日」


 そう一言言って、ラーミナは一瞬で姿を消した。瞬間移動、というよりは闇に溶け込んだようだった。


「ん?明日って何だ?」

 一息あってから、ラーミナが最後に言った言葉に引っかかった。明日は別に会う約束はしていないし、もしかしたらミクトとの夜の散歩についてくるということなのか?


「何でもいいか」


 取り合えず考えるのを止め、夜風から逃げるようにして家の中に入った。


読んでいただきありがとうございます。

こんな感じで書いていきますので、皆さんよろしくお願いします。

それではまた次回に!

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