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死神に魅入ったゾンビの話  作者: ココア
片翼の天使
22/22

未完成の結晶

どうもココアです。

本日更新でございます。


――メタトロンの指導が始まって、早くも一週間が過ぎていた。ミクトは相変わらずスパルタ指導で、メタトロンを何度気絶させたのか数えられないくらいだ。俺は基本的にはミクトを止める役だけど、あまりにもあっさりメタトロンが気絶すると、消化不良気味なのを嫌うミクトがついでに俺の指導を始めることもしばしばある。


「メタトロンさん、狙うところを見ながら攻撃しては簡単に分かってしまいます。もっと工夫しないと

私に攻撃は通りません」


 メタトロンが仕掛けた攻撃を軽く鎌で捌きながらミクトは適格に指摘した。メタトロンは自分の攻撃が全く通用しないことに少々苛立っているのか、珍しく動きが雑になりつつある。


「あっ……」


 その時、動きが雑になっていたためか足元を滑らしたメタトロンが軽く声を漏らしながら大きく態勢をした。そしてミクトはその大きくできた隙を見逃さず、条件反射のような速度で動き出して追い打ちをかけにいく。


(今日はここで終わりかな……)

 

 心の声でそう呟くのと同時に、ミクトの拳がメタトロンに放たれる。防ぐ手段がないメタトロンは、覚悟を決めた顔を浮かべながら潔く拳を受けてそのまま気絶する。


「今日はちょっと残念な終わり方でしたね」

「そう言うなら見逃してやれば良かっただろ?」


 少し失望したような瞳をするミクトに、俺がそう言葉をかけると返事もないまま背中を向けて歩いて行った。しかし、その方向は家とは真逆の方向である。


「どこに行くんだ?」

「ラナウェイの気配を感じたのでちょっと行ってきます。鷺沢さんはメタトロンさんを連れて先に帰って行ってください」


 そう言い残したミクトは、俺の返事も聞かずに行ってしまった。いつもなら俺も連れていくところだけど、さすがに気絶しているメタトロンを放っていくほど鬼ではないということだろう。


「よいしょっと」


 ミクトを見送った後、俺は手慣れた動作でメタトロンを背負い家へ帰ろうとする。こうしてメタトロンのことを背負うのも何回目だろうか。そんなことを思いながら歩いていると、背中に小さな背中を感じた。


「うーん……。あれ?また私気絶していたのです?」


 寝ぼけたような声でメタトロンは言った。自分が背負われているため、直ぐに気が付いたのだろう。


「今回は五分くらいだったか?ミクトも言ってたけど、残念な終わり方だったな」


 気絶の時間はいつもより短い。しかし、気絶の理由はいつもより情けなかった。メタトロンもその自覚があったのだろう。深いため息を吐き出しながら肩を落とした。


「焦っていたのか?」


 ミクトにコテンパンにされるのはいつも通りにしても、今回は何か違和感を覚えた。その違和感を無くすために尋ねてみたのだが、どうやら当たりだったみたいだ。その証拠にメタトロンは暗い顔をしながら小さく頷いた。


「指導してもらって……強くしてもらうのは嬉しいのです。けど、時間がかかり過ぎるのです。ミクトさんはあんなにも熱心にやってくれるのに……私は全く強くなれないのです」


 震えた声で言っているが、諦めた者のような言い方ではなかった。ただ悔しい。そう力強く叫ぶような言い方に思わず関心の眼差しを向ける。


「そんなに悔しがるなら、メタトロンは絶対に強くなれると思う」


 何かを成し遂げるにはエネルギーが必要であり、ほとんどの人が成し遂げる前にエネルギーを切らしてしまうことが多い。しかしメタトロンは、そのエネルギーが切れてしまうことはないだろう。


「それにミクトなら絶対『強くなることに近道はありませんよ』とか言うに決まってるだろ。直ぐにそんな見切りつけないで、気長にやっていこうぜ」


 ちょっとふざけたような口調で、メタトロンの力が抜けるように話す。すると、今まで強張った表情だったメタトロンの顔が柔らかくなって、明るい笑顔を見せてくれる。

 やっぱりメタトロンは笑顔が似合う天使だ。


「ってか、結局メタトロン背負ったまま家に着いたな」


 話していたこともあるけど、まさか家に着くまでずっと背負うことになるとは思わなかった。ずっと気絶していた場合は家に着くまで背負っているけど、途中で起きたのに背負って帰るのは今日が始めてだった。


「別に降りてくれとは言われてないのです」


 少し、ほんの少しだけツンとした言い方をするメタトロンはまだ降りてくれなかった。ここまで来たらもういいかと、諦めのため息をつきなながら玄関を開けるとミクトの靴があることに気がついた。


「あれ?」


 てっきりまだ帰っていない思っていたので、思わず声が漏れてしまう。一体どこで追い抜かれたというのか。そんなことを思いながらリビングへ行くと、いつになく真剣な表情をしているミクトが正座したまま待機していた。


「鷺沢さん。帰ってきたところで申し訳ないのですが、少し座っていただけますか?」


 “お帰りなさい”の一言すらなく、ミクトは冷たい声で話した。まるで出会った当初のような話し方に、懐かしさと寂しさが俺の中で交差する。


「メタトロンさんも座ってください」

「わ、分かったのです」


 そう元気よく答えたメタトロンは自分から降りて、テーブルを挟んでミクトの前に座る。俺もその後を追いかけるようにしてメタトロンの隣に座る。


「鷺座さん、私がさっきラナウェイを倒しに向かったのは覚えていますね?」


 座った途端、ミクトは話を切り出した。余裕が無さそうな進め方に、少しだけ緊張感が走る。


「これを見てください」


 そう言いながらミクトはテーブルに何かを置いた。今までみたもので例えるならば、それは魂の結晶

にそっくりだった。色は半分透明で半分紫という見たことが無い色だけど、形や大きさは魂の結晶そのものだった。


「これは何だ?魂の結晶じゃないのか?」

「いえ、これは魂の結晶です。ですが、まだ未完成の魂の結晶です」

「未完成?」


 聞き覚えのない言葉に、首を傾げる。


「未完成というのはまだ負の感情を溜める余裕があったということです。つまり、本来ならラナウェイになることはできないはずなんです」


「つまり、誰かが強制的にラナウェイにさせたってことか?」


 俺が問いかけると、ミクトは深く頷いた。

 人間を強制的にラナウェイにさせる。はっきり言って、冥界の誰かか天界の誰かの仕業だろう。


「犯人の目星はついてるのか?」

「断定はできません。しかし、状況から見るにメタトロンさんを襲っていた天使の可能性が高いですね」

「あいつか」


 妙に気取った雰囲気を出していたけど、ミクトに大しては腰が引けていた天使のことだ


「本当の犯人がいたとしても、彼も何か知っているかもしれないので、探したほうが良さそうですね。今日はもう遅いので明日からは指導ではなく捜索にしましょう」


 淡々と話をまとめたミクトは直ぐに立ち上がって寝室へと向かった。メタトロンの指導の後に、ラナウェイを倒したから疲れていたのだろうか。


 とりあえず、まだまだ眠れない夜が続きそうなことに絶望しながらも、学校に備えて俺も寝ることにした。


「まだ寝ないのか?」

 

 リビングを出ようとしたところで、メタトロンが全く動こうとしていないことに気が付いた。妙に顔が強張っていて、目つきも鋭くなっている。端的に言うなら、何かを覚悟した顔とでもいうのだろうか。


「私は大丈夫なのです。鷺沢さんは先に寝ててくださいなのです」


 どこか力の籠った声だった。

 その声とメタトロンの表情から、何をしようとしているのかは分かったので俺は事前に釘を刺しておくことにした。


「一人で行くなよ。俺とミクトと一緒に行くんだからな」


 メタトロンは分かりやすく体を撥ねらせ、できもしない口笛を吹いて誤魔化す。俺は呆れるようにため息をついて、メタトロンを片手で持ち上げて運び出した。


「え、ええ!? な、なにをするんです!?」


「やかましい。どうせ俺らが寝た後に一人で行こうとするだろ。そんなこと絶対させないからな」

 暴れるメタトロンを強制的に俺の部屋に連れていき、ベッドに捨てるように投げた。

「ほれ寝るぞ」

「分かった。分かったのです!」


 ようやく観念したメタトロンが、大きくため息を零して俺に後頭部を向けてくる。


「嫌がらせのつもりか?」

「……」


 答えてくれなかった。

 まあ俺としてはしっかり朝までここにいてくれればそれでいいのだが。


「おやすみメタトロン」


 そう言って、俺は眠りについた。

 


読んでいただいてありがとうございます。

皆さん、良いGWをお楽しみください。

次回もよろしくお願い致します。

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