表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神に魅入ったゾンビの話  作者: ココア
片翼の天使
18/22

生まれてきた意味

どうもココアです。

本日更新でございます。


――闇のように真っ暗な細い路地を全力で走り回っていた。息を切らし、喉を乾きも感じながらも足を止めようとは思わなかった。むしろ『絶対に見つける』という使命感にも似た強い感情は増していき、比例するように走る速度も上がっていく。


「これは……」


 大分奥の方まで来たところで、地面の方に視線と意識が向く。何故ならそこにメタトロンの物だと思われる羽根が落ちていたからだ。


「また羽根が、でもこれとは少し違うな」


 落ちていた羽根を拾い見比べてみると、新しく拾った方は明らかに色が違った。枯れているというのが一番近しいのかもしれない。触った感じも、新しく拾った方は枯れ葉のような手触りで強く握ったら粉々になってしまいそうだ。


「そう言えばミクトが言ってたな。羽根が落ちてるってことは、無理矢理抜かれたか力を使い過ぎたかって」


 その言葉を聞いた後なので、どちらがどういう状況で地面に落ちているのかは想像できた。恐らくこの枯れ葉のような羽根の方が、力の使い過ぎて抜き落ちた方だろう。そしてこの奇麗な方の羽根が無理矢理抜かれた方のはずだ。


「……」


 よく見ればまるで道しるべのように枯れた羽根が地面に落ちている。一枚や二枚という数ではなく、数十枚にも渡る羽根が自分の居場所を知らせるように路地の奥への続いていた。


「この先にいるのか?」


 程よい緊張感を得るために息を大きく吸い込み、路地のさらに奥へと走った。そしてちょうど角を曲がったところで倒れているメタトロンを発見した。


「メタトロン!」


 名前を叫びながら急いで駆け寄り、メタトロンを軽く抱き上げる。

顔や肌の見えるところには無数の傷が見えたが、呼吸はしている。でも目は閉じたままだった。

俺は、「しっかりしろ」という言葉を混ぜながら、名前を呼び体を揺らす。


「……?」


 すると、閉ざされていた瞼がゆっくりと開き、ぼやけている視界を正すように瞳を動かす。


「どうしてあなたがここにいるのです?」


 大分はっきりと見えてきたようで、俺のことに気が付いたメタトロンが弱々しい声で言った。


「ラナウェイを探すために来たんだ。そしたらこの羽根を見つけてさ。ミクトがメタトロンの羽根なんじゃないかって」


 そう簡単に説明しながら、落ちていた羽根をメタトロンに見せる。すると何かを察したような顔をして、それ以上は特に何も聞いてこなかった。


「倒れてた時は驚いたけど、とりあえずメタトロンが無事で良かった」


 傷はあるが、この様子を見ると命に支障はないだろう。俺は心底安心したように息を吐き出し、入っていた力が一気に抜けたような脱力感を感じた。


「ラナウェイはどうしたんだ?」

「……」


 正直、この話題を聞くかどうかは迷った。でもきっと俺が聞かずとも、ミクトが聞いたことだろう。

 予想通りラナウェイという単語を出した途端、メタトロンの顔が分かりやすく青ざめていく。そして唇を震わせながら小さな声を出した。


「た、倒せなかったのです。私の力ではあのラナウェイを倒すことは出来なかったのです……」


ぽつりと話し出したメタトロン。その声色はとても弱々しく、自分の不甲斐なさを理解しているような物言いでもあった。

 天界でも力が弱いことで見下され続けたから、元々自分に自信を持っているわけではないだろう。勝てない相手だとメタトロン自身も分かっていたはずだ。それでも彼女は立ち向かい、ラナウェイと戦った。


「私は何のために生まれてきたんでしょうか……?ラナウェイを倒す力すら持たずして生まれて、何の意味があったのでしょうか?」


 ラナウェイに全く歯が立たなかった自分に怒りを覚えたメタトロンは、自分で自分を追い込み始めた。何か言葉をかけようとも思ったけど、今言葉をかけるのは逆効果だ。


 励ましの言葉は時にその人をさらに追い込むことがある。だから言葉をかけるのは、自分を追い込んだ最後でいい。


「天使としての責務も果たせない私に天使を名乗る資格があるのでしょうか。そもそも力を持たない天使は天使であるのでしょうか……」


 そしてメタトロンの暴走的な自虐が止まらない。ラナウェイに太刀打ちできず、弱りかけていた心に追い打ちをかけているので、精神的なダメージは計り知れない。


「私は……どうして生まれてきたんですか?」

「……」


 それでも俺は精一杯の黙秘を続けた。もう励ましの言葉は喉にたまっていて、口を開けばそれらが一斉に飛び出してくるというのに。


「私は生まれてこなかった方がいいのではないですか?」


 その言葉を口にした時、メタトロンの右目から大粒の涙が零れた。


――俺はもう、限界だった。


「そんなことあるわけないだろ!」


 今まで我慢していたからか、自分でも驚くほどの大きな声でさっきのメタトロンの言葉を否定した。メタトロンは突然俺が大声を上げたことに驚いたのだろう。口を開いたまま、表情が固まっていた。


「生まれて来ない方がいいなんて奴は一人もいないんだよ。それにメタトロンは勝てないって分かっていながらもラナウェイに立ち向かったんだろ。仮に倒せて無かったとしても、その行動が多くの命を救ったかもしれない。できなかったことだけを見るより、自分が何をできたかをちゃんと見てやれよ。もっと自分に自信を持てよ」


 抱きしめる力を強めながら、溜まっていた言葉をメタトロンに伝える。これだけで前を向いて欲しいとか、そんな傲慢なことは思っていない。けれど、前を向くためのきっかけになればいいなとは思っている。


「何をもって天使って言うのかは俺は知らないよ。けど、何も知らない俺からするとメタトロンは誰よりも天使らしいと思う」


 これが今の俺が伝えられる言葉だった。励ましの言葉になっているかは分からないけど、俺が思ったことは全てメタトロンに伝えた。


「どうして……なのです……」


 俺の言葉を聞いて数秒後、メタトロンはさっきよりも大粒の涙を流しながら俺の顔に触れるようにして手を伸ばした。


「どうして……あなたがそんな言葉をかけてくれるのですか?天界では誰も言ってくれなかったのに。どうしてそんなに私のことを知っているのですか?」 


 喜び半分混乱半分と言ったところだろう。自分で言っていたけど、他人からこんな言葉をかけられたことがないメタトロンはこういう時どんな反応をすればいいのか分からないのだ。

 無意識に喜びの感情は湧き出ているようだけど、それに比例するように困惑もしてる。


「言っただろ?俺は何も知らねえって。他の天使も知らないし、天界に居た時のメタトロンも知らない。だから俺が見てきただけの、俺が知っているだけのメタトロンで判断しただけだ」


 実際、メタトロンを見ていた時間はこの間晩飯を食っていた時だけだ。それだけで全てを理解したわけではない。けど、あの時の会話でメタトロンが何か覚悟を持ってこの世界に来たことは分かっている。

 それが自分の命を賭けるほどのものだと、今日改めて確信した。


 それにメタトロンは誰かのために頑張れる素質を持っている。今日の出来事もそうだけど、俺が初めて会った時も近くにいたラナウェイを倒していた。誰かを助けることに躊躇をしない、そういうところがメタトロンにはある。


「私は……生きていても良いのですか?」

「むしろだめって言う奴を殴りたいな」

「それはだめです。暴力反対なのですよ」

「いきなり天使みたいなこと言い出したな……」

「当たり前なのです!だって私は天使なのですから!」


 どうやらもう心配はないみたいだ。すっかり元気を取り戻したメタトロンを見て、とりあえず一安心する。

「一度ミクトと合流するか」


 建物の上から探すと言っていたけど、いったいどこまで言ってしまったのだろうか。何となく上を見上げてみると、空からミクトが降ってくるなんてことはない。


「しょうがねえな」

「えっ?」


 まさかメタトロンの次はミクトを探しに行くことになるとは思わなかった。俺は大きくため息を吐きながら、抱えていたメタトロンを背中に乗せて所謂『おんぶ』という状態で路地を着た方向へ歩き出す。


「ど、どうしておんぶする必要があるのですか!」

「だって怪我してるだろ?」


 背中でピーピー騒いでいるメタトロンは無視して、上の方を意識しながら進んだ。


――その瞬間、明らかにメタトロンではない誰かの手で肩を叩かれた。


読んでいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ