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死神に魅入ったゾンビの話  作者: ココア
片翼の天使
17/22

天使の羽根

どうもココアです。

今回もよろしくお願いします。


「やっぱり人の数が違うな」


 駅前で最初に出た言葉だった。

 もう太陽は完全に隠れているというのに、ビルや店の明かりで眩しく、目の前の交差点では信号が青になった途端ヌーの大移動のように大勢の人が渡り出す。歩いている人は仕事帰りだと思われるサラリーマンや、同い年くらいの男女など様々でまさに大都会と言える場所だ。


「それで?ラナウェイの気配はどうだ?」


 いつもの違う景色を程々に堪能したところで、隣に立っているミクトに問いかえる。


「そうですね……。これだけ人がいればラナウェイの一匹や二匹いてもおかしくないんですけど、全く気配が感じられないですね」


 少し残念そうに答えながら、睨むようにして人の移動をミクトは見つめる。


「取り合えず探すことも含めてちょっと歩いてみるか」

「そうしましょう。確かニュースでやっていた事故現場はこの近くですし、せっかくなのでそちらの方に行ってみましょう」


 そう言いながらミクトは俺の袖を引っ張って歩き出す。まさかそんなリードをしてくれるとは思っていなかったので、少々驚きながらも流れに身を任せるようにして俺は歩いた。

 事故現場に行くには交差点を渡らなければいけないのだが、ちょうど赤になってしまい止まらざる終えなくなってしまった。


「……」

「……」


 二人して黙って青になっているのを待っていると、後ろの方で何やら話している声が聞こえた。


「ねえ、前にいるあの子可愛くない?」

「分かる!何か人形みたいだよね!!」


 どうやらミクトの存在に気が付いたらしい。声を聞くに話しているのは女性みたいだ。確かにミクトは外見はまさに『人形』という表現がとても似合う。美しさと可愛さ、その両方を兼ね備えているとでも言うのだろうか。


「……」


 よく見ると、ミクトに注目しているのは後ろの女性だけではなかった。周りにいる人の殆どが隣にいるミクトに視線を向けていた。

 信号待ちで止まっているということもあり、ミクトの存在に気づきやすかったのだろう。そして、一度視界に映っては目を止めたくなるほどの容姿をしている

 しかし当の本人はそんなことは全く気にせず、表情を一切かえないまま信号が青になるのをジッと待っていた。


「青になりましたよ」


 そして、信号が変わった瞬間、再び俺の服の袖を引っ張って歩き出した。


(何か……散歩してる犬になった気分だな)


 心の中でそんなことを呟きながらも、この状況を受け入れつつある自分もいて少し複雑な気分だった。


 ◆◆◆


「この先が事故現場ですね」


 駅前から歩いて数十分。俺とミクトは目的地となる事故現場に辿りついた。都内と言っても全ての場所が明るい建物に囲われているというわけではなく、この場所はどちらかと言うとチンピラなどが好みそうな薄暗い通りだった。


 大量殺害というニュースがあったからだろう。人の気配は全くなく警備なども立っておらず、カラーコーンに立ち入り禁止用のロープを結んでいるだけだった。


「行きましょう。まだラナウェイがいる可能性も、一度戻ってきている可能性もあります」


 そう言いながら軽々とロープを超えてミクトは真っ暗な路地に入っていった。今度は袖を引っ張られることはなく、安心したようでどこか残念な気持ちになりながら俺も後を追った。


 路地に入ってみると、まずはじめに目についたのは壁や地面に付着している大量の血だった。暗いと色が濃いところと薄いところがある程度の認識だけど、スマホでライトを点けてみると、その濃い部分が全て被害者の血であることが分かる。


「これは酷いな……」


 予想以上の荒れ模様に、思わずどんな殺され方をされたのかを想像をしてしまう。その想像だけで吐き気を催すほどで、俺は直ぐにライトを消した。


「大丈夫ですか?」

「あ、ああ。大丈夫大丈夫」


 心配そうにミクトが声をかけてきたが、俺はこれ以上弱さを見せるのが嫌で無理に強がった。


「……」


 ミクトと出会って、こういう現場に足を運ぶことが増えた。人が死んだ後の現場。人が殺されている現場。人が死んでいく現場。

 しかし、何度経験しても人が死んでいく光景だけは慣れない。慣れてはいけないとも思っている。人の死に慣れてしまっては、俺はもう誰も助けられなくなってしまいそうだからだ。

 だから俺はこれからもこういう現場には慣れないだろう。そしてそれが正しいと思っている。


「ん?」


 その時、視線が下の方へ向けられた。視界の下の方で気になるものが映ったからだ。今まで映っていたのは黒いアスファルトと飛び散っている赤い血だったけど、そこに真っ白い羽根が一枚だけ落ちていた。


「何でこんなところに……」


 空を飛んでいた鳥が落としたのかと思ったけど、こんなに奇麗な白い羽は見たことが無い。


「なあミクト。この羽根がここに落ちてたんだけど」

「羽根ですか?」


 取り合えずミクトに聞いてみようと、少し前を歩いていた彼女に声をかける。声をかけてこちらにやってきたミクトに拾った羽根を手渡すと、それを見た瞬間にミクトは血相を変えて周囲を睨む。


「……鷺沢さん落ち着いてよく聞いてください」


 辺りを見渡して数秒経つと、ミクトはまだ気を張った表情のまま瞳をこちらに向ける。


「その羽根は天使の翼の羽根です。そして……まだ断定はできませんが、メタトロンさんの羽根である可能性が高いと思われます」

「はっ?」


――どういうことだ?と、頭の中ではそう口にしようと決めていたのに、口に出ていたのは反応に困ったような呆けた声だった。

 そんな俺の心情を察したようにミクトは俺の問いかけを待つことなく、再び口を開きだした。


「恐らくですが、メタトロンさんはここでラナウェイを発見をして交戦。その間に羽根を落としたのだと考えられます」

「それならもうメタトロンがラナウェイを倒したんじゃないのか?」


 まだ一回だけだけど、メタトロンがラナウェイを倒したところは見たことがある。ラナウェイ自体もそこまで強そうには見えなかったけど、メタトロン自身も弱くはないはずだ。


「いえ……恐らくその可能性は低いでしょう」


 しかしミクトは首を小さく横に振り、俺の意見を静かに否定した。

「天使の翼というものはそんな簡単に抜け落ちるものではありません。何故なら天使の翼にはその天使の力が宿るからです。翼の大きさは力の大きさに比例するので、抜けてしまっては力が無くなるも同然です」

「つまり羽根が落ちてるってことは……」

「無理矢理抜かれた、又は少ない力を使い過ぎたかのどちらかでしょうね」


 その言葉を聞いて、先日メタトロンが話していたことを思い出す。

――『片翼は双翼に比べて力が弱い』ということ。それが自分でも分かっているのに、メタトロンは一人でラナウェイに立ち向かっていったということだ。


「ミクト……」

「鷺沢さんの言いたいことは分かっています。私は建物の上から探していきますので、この路地の奥をよろしくお願いします」


 そう言いながらミクトは、俺の言葉を全部聞く前に跳躍して建物の上へ行った。俺も白い羽根を握りしめながら路地の奥の方へと走り出した。


「無事でいてくれよメタトロン……」


 そう小さく呟きながら、羽根を握る力を少しだけ強めた。

読んでいただいてありがとうございます。

次回もよろしくお願いいたします。

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