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死神に魅入ったゾンビの話  作者: ココア
片翼の天使
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片翼の天使

どうもココアです。

少し間が空きましたが、更新でございます。


「美味しかったのです……」


 ご飯粒一つ残さず夕食を食べ終えたメタトロンが、満足そうにお腹を叩きながら床に寝転がる。俺は食べ終えた食器を台所へ持っていこうと食器を重ねているところで、ミクトが声をあげた。


「鷺沢さん先ほど中途半端になっていた話の続きをしましょうか」

「話の続き?」

「私とメタトロンさんの関係……主に、死神と天使の関係性についてです」


 そうミクトが話を切り出すと、メタトロンも表情を変えて再び起き上がる。その姿は、さっきまで

「エビフライ美味しいです~」と言っていた少女にはとても見えない。

「まず私たち死神が住んでいる世界は冥界と呼ばれ、この世界で死んだ魂が行きつく世界です。しかし、死んだ魂が行きつくのは冥界だけではありません。もちろん一番最初に冥界に行きますが、そこで善悪をつけられて天界か地獄に行くことになります」


 淡々と説明を進める中で、ミクトの口から新しい単語が飛び出してきた。『天界』と『地獄』の二つだ。けれど、特に目新しいものでもなくどこか聞き覚えのある単語だ。


「分かりやすく言うと、冥界は魂を選別する場所だと思ってください。そして選別された魂が天界か地獄へと行くことになる。そういう段取りになっています」

 

 話が一段落ついたところで、ミクトは息を整えるために数回の深呼吸を行った。

 そして一度メタトロンの方に視線を向けた後、再びこちらに瞳を向けて口を開く。


「続いて死神と天使の関係ですが……もう何となく想像はついていると思います」

「ああ……。少なくとも良好な関係じゃないってことくらいは想像ついた」


 軽はずみでメタトロンのことを家に連れてきてしまったけれど、本来ならもっと気をつかうべき問題だったのだ。それはミクトがメタトロンを見た時の顔で理解できた。


「私も全く説明していなかったので今回は見ないふりをしておきます。それに、いざ話すと言っても私

も何と表現したらいいのか分かっていませんから」

「どういうことだ?」

「鷺沢さんが言った通り、『良好な関係ではない』ということは確かです。死神と天使の仲が良いということはありませんから。しかし、いつもいがみ合って戦争ばかりしているわけでもないので、いまいち言葉にしにくいといいますか……」

「永遠と冷戦状態が続いてるって感じか」

「そうですね。その表現が一番近しい気がします」


 濁すような答え方をしたミクトは、一度小さく咳払いをしてさらに話を続けた。


「つまり私とメタトロンさんが一緒にいること自体、本来なら許されないのです。もしこのことが誰かに見つかったら、冥界と天界の戦争は免れないでしょう」

「せ、戦争っていきなりそんなまさか……」


 ほんの冗談のつもりで言っているのだとそう思い込みたくて、変に笑いながら言葉を返すと、ミクトがゆっくりと首を横に振り俺の希望を無慈悲に打ち砕いた。


「残念ながら事実です。鷺沢さんもさっき言った通り、冥界と天界はいつでも戦争ができるように準備されているだけの冷戦状態です。どんな小さな火種であろうと、それを大きな戦争に繋げるでしょう」

「……」


 ミクトの話を聞いて、俺の軽はずみの行動がどれだけ重い罪なことか思い知らされた。無知であったが故に起きた問題ではあるけれど、少し頭を回せばこのくらいのことは想像できたかもしれないというのに。


「まあ今回に関しては本当に私が何も説明していなかったのもありますし、まさか天使がこの世界に来ているとは思いませんでしたしね」


 そんな俺を見かねてなのか、ミクトが励ますように言葉をかけてくれた。


「あなたはどうしてこの世界にやってきたのですか?」


 そうしていつしか話すべきターゲットは、俺からメタトロンへと移っていた。


「えっ?」


 急な問いかけに動揺を隠せないメタトロンは、呆けたような声を上げながらミクトのことを見つめた。


「『えっ?』じゃないですよ。どうして天使であるあなたがこの世界にやってきているのか、それを聞いてるんです」

「それは……」


 繰り返し同じ質問をするが、メタトロンは答えようとはしなかった。何か答えて誤魔化したいというのが見て取れるが、その言葉すら見つかっていないようだ。


「本来天使は自らラナウェイと戦うことはしないはずです。ラナウェイの数が増え過ぎたというのが問題なら、冥界に連絡が行くはずですから」


 さらに追い打ちをかけるように言葉を続けるミクト。一度止めに入ろうかと思ったけど、間に入れるような雰囲気ではなかった。


「えっと……その……」


 必死に答えを探すようにメタトロンは辺りを見渡す。薄っすら涙目になっていて、いつそれが零れてもおかしくない状態だ。


「どうしても答えたくないようですね」


 メタトロンが何も返してくれないことにしびれを切らしたのか、ミクトは大きくため息を吐いてティーカップに手を伸ばした。


「……」


 急に熱が冷めたかのように冷静になったミクトを見て、俺も驚きながら同じように湯飲みに手を伸ばした。

 そしてメタトロンは心底安心したように息を吐き出し、背中に生えている羽根に触れる。


「あなたがこの世界に来た理由が言えないのは、その片方しか生えていない羽根と関係があるんですか?」


――その瞬間、ミクトが再び口を開いた。さっきよりも核心に迫ったような物言いで、明らかに迫力と

声色が違った。


 一気に空気が重くなり、息が詰まるような緊張感が一瞬で空間を支配した。


「どうしてそれを……」


 動揺が隠せないメタトロンは震えた声で、なぜ分かったのかをミクトに尋ねる。そしてミクトは紅茶を一口含み、ティーカップを机に戻してからゆっくりと口を開く。


「私は立場上、天界に何度か行ったことがあります。その時に天使のことを見ましたが、あなたのように片翼の天使は一人もいませんでした」


 淡々と説明を続けるミクト。メタトロンが口を挟まないということは、ミクトが言っていることは正しいということなのだろう。


「天使の全てを知り尽くしているというわけではないですが、片翼の天使がイレギュラーであることくらいは想像がつきます。それにこの世界に来ていることも普通ではありえませんから」

「……」

「まあ無理にとは言いません。私が死神であることも含め、話せないこともあるでしょうから」

「――私たちには生まれた瞬間、片翼しかありませんでした」

 ミクトが聞くのを諦めた瞬間、メタトロンはそれに待ったをかけるようにして話し出した。

「本来天使は双翼……つまり、二つの翼を生やして誕生しますが双子の場合は二つの翼を分けるようにして生まれてきます」


 ついさっきまで満面の笑みを浮かべながらエビフライを食べていたメタトロン。しかし、今はその面影すら感じさせないほど暗くて冷たい表情になっていた。


「日常生活を送る分に限っては片翼というのはそんなに問題ではありません。けど、やはり片翼は双翼に比べて力が弱いんです。毎日毎日単純作業で特に刺激のない生活を送っている天使にとって、私たちのような存在はまさに狙いやすい的でした。

 単純な差別、嘲笑う目と見下しの視線、誹謗などぞんざいな扱いをされました」


 そう静かに、冷たく語ったメタトロンの瞳は灰色の世界を見ているような色をしていた。話しているうちに天界にいた時のことを思い出したのだろう。体を震わせ、片翼を守るように触っている。

 天使と言ったら想像するのは聖母のような性格で、仲間割れ何かしないイメージだけれど実際は人間と変わらない生き物のようだ。


「……長く話し過ぎました。私はそろそろ帰ります」


 軽く目をこすって部屋から出ていこうとするメタトロン。引き留めようと考えたけど、何て声をかければいいのか、どうやって引き留めるのか分からずただ出ていくのを眺めるだけになってしまった。


「エビフライ……ごちそうさまでした」


 部屋を出る前にそう呟いて、メタトロンは帰っていった。


読んでいただきありがとうございます。

次回もよろしくお願い致します。

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