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死神に魅入ったゾンビの話  作者: ココア
片翼の天使
14/22

今日の夕食はエビフライ

どうもココアです。

少し期間が空いてしまいましたが、本日更新です。


「ただいま」

「おかえりなさい」


 あの後、メタトロンが食べたいと言っていたエビフライの材料を買って家に帰った。ドアを開けると直ぐにミクトの声が聞こえたが、姿は見えなかった。恐らくリビングでテレビでも見ているのだろう。


「お、お邪魔するのです」


 俺が靴を脱いで上がろうとすると、後ろでメタトロンがやけにかしこまった言い方をしなが上がろうとする。まだ緊張が解けていないようで、表情もかたくなっている。


「飯を食って柔らかくなってくれればいいけどな……」

「何か言いましたか?」

「何でもないよ」


 軽くごまかしながら二人でリビングへと入る。

 するとそこには、ソファーに腰掛けながら優雅にティータイムをしているミクトの姿があった。


「帰ったぞミクトー」

「鷺沢さんお帰りなさい。すみません、ちょっとティータイムに忙して出迎えに行けませんでした……」


――ガシャン。


 軽口を言いながらこちらも向いたミクトが、メタトロンの存在に気が付いた瞬間に持っていたカップを落とした。

 カーペットにポットの破片が飛び散り、飲み途中だった紅茶も零れてしまった。

 しかしミクトはそんなことには目もくれず、メタトロンのことを見つめたまま固まってしまった。


「さ、鷺沢さん」


 ようやく動き出した口からは、震えた声が出された。


「その……隣にいる方は?」

「メタトロンだ。さっき会った」

「メタトロン?えっと、私の見間違えじゃなければ天使のような翼が生えていると思うんですけど」

「ああ。メタトロンは天使らしい」


 何一つためらうことなく、事実をそのままミクトに伝える。すると、話を進めるにつれてミクトがどんどん暗い顔になっていくのが見て取れた。


「み、ミクト?どうかしたのか?」

「えっと……何から説明すればいいのか分からないですが、とりあえず一言だけ言わせてもらいますね」


 見るからに頭を抱えているミクトはそのままこちらに近づいてきて、メタトロンと目線を合わせるように少し屈んだ。


「もう分かってると思いますけど、私は冥界の死神――ミクト・ランテクーテリです。ここにやってきた経緯は知りませんが、私がここにいるということはくれぐれも他の天使に言わないでくださいね?」

 有無を言わせないというか、圧を感じさせるような言い方をしたミクト。今の言葉とその態度を見るに、メタトロンを連れてきたことが大失態であることを俺なりに理解した。


「鷺沢さんには後でお話があります」

「お、おう……」


 鋭い視線と共に言葉を向けられ、背中が凍り付くような感覚を覚える。ミクトはそれ以上のことは何も言わず、カーペットに置ているカップの破片を拾う。


「取り合えず晩飯作るか……」


 そう一人で呟きながら隣に立っているメタトロンの方に視線を落とす。


「わ、私は死神のいる家に来てしまったのですか……?」


そこには頭を抱えたまま暗い顔を浮かべているメタトロンの姿があった。言葉と口調からも、自分が置かれている状況に絶望しているのが分かる。


「無断でこの世界にやってきて、人間にも見つかり……挙句の果てに死神に会うなんて!もう終わりです……。終わりなのです」


 最初に見かけた時もそうだったけど、メタトロンは心の声が外に漏れやすいのだろうか。本来なら声に出すことじゃないことも、こうして口から漏れてしまっている。


「そういうことは思うだけにしとけ」

 思わず注意してしまった。メタトロンはそんな俺の言葉に我に返ったのか、今度は威嚇している子猫のような目で睨んできた。


「そもそもあなたが誘わなければここには来なかったのです!」

「そんなことを今更言われてもなぁ。エビフライって言って、ついてきたのはメタトロンだろ?」

「うう~!そうかもしれませんけど!」


 どうにかしてこの状況を俺のせいにしたいみたいだけど、上手くいかないらしい。

「嫌だったら帰ってもいいけど、お前が食べたかったエビフライは食えないぞ?」

「うう~……。それは卑怯なのです」


 猫のように睨んできたと思えば、今度はハムスターのようにメタトロンは頬を膨らませる。分かりやすいほど喜怒哀楽がはっきりしていて、基本的に表情が変わらないミクトと生活している分どこか新鮮な気分だ。


「……( ぷにっ)」

「何をするですか!?」

「いや、何か膨らんでたから」

「だからって私の頬を勝手に押さないでほしいのです!」 


 無意識のうちに手が伸びてしまい、メタトロンの右頬を人差し指で押していた。自分の肌とか全く違く、瑞々しくて押し返してくるような柔らかい弾力が感じられた。再びメタトロンが猫のように怒り出したので、俺は逃げるようにして台所へと移動した。


「……変な人です」


 拓巳が消えた後、メタトロンは小さくそう呟く。


「そうですね……。鷺沢さんは変な人です」


 その言葉が聞こえたのだろう。ミクトがメタトロンに同調するように言葉を返す。

 完全な独り言として呟いたメタトロンは、言葉が返ってくるなんて思っていなかったように目を丸くして恐る恐るミクトの方に視線を向ける。


「でも良い人ですよ……。それだけは絶対に言えます」


 メタトロンと視線が合うと、ミクトは微笑みながらそう言った。


「そう、なのですか……」


 どんな反応すればいいのか迷ったような様子で、少し詰まらせるように言葉を返した。そしてそのまま拓巳を追いかけるようにして、メタトロンは台所へと向かった。


 ◆◆◆


「さてとエビフライ作りますか」


 買ってきた材料を並べ、さっそくメタトロンが食べたいと言っていたエビフライを作ろうとしていた。最近はミクトと二人で暮らしているということもあって料理のレパートリーは増えたいけど、揚げ物というものはあまりやらない。

 というのも、揚げ物というものは一から作ろうとすると結構面倒な作業が多いのだ。


「まず洗い物が増えるんだよなあ」


 エビフライは玉子をつけたり、パン粉をつけたりと作業が大変なわけではないが、炒め物に比べるとそれなりの労力を要する。

 取り合えず買ってきたエビの殻をむいて背ワタを取る。背ワタを取らないと、独特な臭みが出てしまうことがあるので、面倒な作業でもやった方が美味く作れる。その後は水分を抜くために、尾の先を切っていく。

 あとは塩・胡椒をして玉子にパン粉をつけて油の中に入れるだけ。

 衣をまとったエビが油の中を泳ぐようにして飛び込んでいき、こんがりきつね色になるまでじっくりと揚げていく。


「そんなところで何してるんだ?」


 後ろから視線を感じ、振り向きながら問いかける。するとそこには台所の入口で顔だけ見えているメタトロンの姿があった。


「別に……何もないのです」

「来たんだったらちょっと手伝ってくれ」

「何をすればいいのです?」

「皿を並べて千切りキャベツを盛ってくれ」


 お皿が入っている棚を指差しながらメタトロンに指示を出す。トタトタという足音が聞こえてくる辺り、手伝ってくれているらしい。


「キャベツって何なのです?」

「お前、キャベツ知らないのか?」


 皿を三枚運び終えたメタトロンが俺の服を掴み、そう尋ねてきた。俺は一度火を止めて買ってきた袋に入っている千切りキャベツを取り出した。最近は既に千切りされているキャベツを買っているため、そうなる前のキャベツは家にはない。


「これがキャベツだ」

「緑色……本当に食べられるのです?」

「食えるぞ。それに揚げ物との相性もいい」


 偏見かもしれないけど、揚げ物には何となく千切りキャベツが付いているイメージだ。


「ってか、何でエビフライは知ってたんだ?食べたことあるのか?」

「ないのです。でも、この世界に来て人間が美味しそうに食べているの見て……」

「ふーん。ちなみに丁度いま揚がったけど、一つ食べるか?」


 衣がこんがりきつね色になり、まさに揚げたて熱々の状態のエビフライが丁度完成した。三人分ということで数が十分にあるし、一つくらい食べても問題はない。


「良いのですか!?」


 するとメタトロンは目を輝かせて俺に迫ってきた。


「……」


 今度はエサを待っている子犬のような姿を見せるメタトロン。天使ではなくて、本当はただの小動物なのではないかと思ってきてしまう。


「熱いから気をつけろよ」


 揚げたてのエビフライを一本を取り、それをメタトロンに食べさせる。ザクッと耳心地のいい音が響き、幸せような表情を浮かべながら咀嚼している。


「美味しいのです!」

「それなら良かった」


 飛び跳ねるようにメタトロンは喜んだ。ここまで喜んでくれるなら、作った甲斐があるというものだ。そして……


「飯を食えば少しは機嫌を直してくれるかねえ」


 そう小さく呟きながらエビフライをリビングに運んだ。

読んでいただきありがとうございます!

次回もよろしくお願い致します。


それから感想と、評価ptもありがとうございます!

それも書く力になっていますので、これからもよろしくお願いします。

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