出会ったのは天使
どうもココアです。
今回から新章スタートになります。
よろしくお願いします。
――ミクトとの関係が一新したところだけど、過ごす日常は前と変わらなかった。結局人間になるためには魂の結晶が必要になるようで、深夜にラナウェイを倒しに行くのも続いている。
唯一変わったこと言えば、たまに襲ってくる不安のようなものが無くなってきたといったところだ。今までのミクトの関係は、正直言葉に表しにくいものだったので、それを考えると大きく前進したと考えていいだろう。
「おっ」
今は学校からの帰り道で、もう家までは5分程度のところまで来ている。そろそろ厚手のコートが欲しくなる夕方の時間で、電柱に身を隠したラナウェイの姿を見つけた。
こうして下校中にラナウェイを見かけるのは久しぶりなので、少し懐かしい感じを覚える。
こちらの様子を伺うように顔だけ電柱から出しているラナウェイ。見るからに臆病そうな印象で強さもそうではないのだろう。ミクトに聞いた話だけど、ラナウェイは溜まった負の感情の量で強さが決まるらしい。ラナウェイを見れば強さは大体分かるらしいが、正直に言って俺はまだまだ分からない。
「とりあえず倒しておくか」
周囲に人がいないことを確認してから、ゆっくりとラナウェイに近づく。そして、思い切り拳をぶつけようとしたところでラナウェイに光のレーザーのようなものが上から降り注ぐ。
それに包まれていったラナウェイは、いつもの断末魔の声を上げずに安らかに眠っていくように消えていった。さらに、いつもは紫色の魂の結晶を落としていくのに今回は無色透明のものを落としていった。
「はあ~。危なかったのです」
目の前で起きたことの整理が追い付いていないところで、後ろから聞いたことのない声が聞こえた。
「もう少しで一般人に被害が出るところでした」
安心して一息ついたような声色の主を見て、俺は思わず目を丸くした。
声の主の正体は一部を除けばただの美少女。金色のブロンドヘアに整った顔立ち、そしてルビ―のように輝く両目。
しかしその少女は白いローブに身を包み、腰のあたりにピンク色の羽衣を巻いて、何より翼が生えていた。
――それも左の翼だけ。
「まあ誰も怪我をしなくてよかったのです。人を傷つけるなんて、天使の風上にも置けませんからね」
心の声が漏れやすい子なのか、それとも見られていないと思って油断しているだけなのか。今少女が口にした言葉が本当だとしたら、俺の目の前にいるのは天使だということらしい。聞き間違いだとそう思いたいけれど、死神と一緒に暮らしていることを考えると天使がいてもおかしくはないか。
「まだ……まだ足りない」
少女は無色透明の魂の結晶を拾い、静かにそう呟いた。外見はただの小学生低学年が天使のコスプレをしているようだけど、今の声にはそんな無邪気なものは一切感じられなかった。
「早く集めないと……っ!」
「あ、ちょっと待って!」
少女がどこかで飛んで行ってしまいそうだったので、思わず声をかけてしまった。直ぐに口を手で押さえるが、今更やってももう手遅れだ。
声をかけられた少女は、自分のことが見えているとは思っていなかったらしく目を丸くしたまま暫く固まっていた。
「えっ?もしかして私のことです?私のこと見えてるんですか?」
「……(こくり)」
どうか間違いであってくれと、言いたそうな物言いに俺は無慈悲に首を縦に振った。すると、また少ない希望を信じていた少女の顔が、絶望の淵に立たされたような顔に変わる。
「~~~~!!」
声にならない叫びと言えばいいのか、頭を押さえて口を開けているけど声が出ていなかった。
恐らく天使も人とは関わってはいけないという掟やらルールでもあるのだろう。そこは死神であるミクトと同じはずだ。問題は、その掟を破った場合のペナルティの大きさだけども、ミクトは恐らく大したペナルティはないのだろう。
けれど天使は分からない。実際、過去に掟を破ったような実例が無いかもしれないので、どんなペナルティなのか天使自体も把握していないかもしれない。
「えっと……なんかごめん」
「ごめんで済んだら警察はいらないんですよ!」
取り合えず謝ると、すごい剣幕で迫るように言ってきた。
「ああどうしよう……。このまま天界に帰ったら絶対に厳罰を与えられちゃう……。たたでさえ無断でこの世界に来てるのに」
「無断?」
泣きながらわめいている少女の言葉が気になってしまい、思わず口に出してしまった。
「そうですよぉ。私は力が弱いので、力を得るためにこの世界に来たのに……。まさか私たちのことを見える人間がいるなんて思わないじゃないですか」
「俺もまさか下校中に天使に会うなんて思ってなかったよ」
「うう……どうしよう。余計に天界に帰りづらくなりましたし……何よりお腹が減りましたし」
そう言いながら思い切り天使から腹の音が鳴った。その音を聞いてミクトと始めて会った時のことを思い出す。死神といい、天使といい自分の腹の減り具合に無頓着な奴が多いということだろうか。
「もしよかったらうちに来るか?飯ぐらいなら出せるぞ」
「いいんですか!?」
分かりやすく少女は目を輝かす。しかし、数秒経ったところで冷静になったのか何やらぶつぶつと呟きだした。
「でもやっぱり人間と関わるのは……でももう関わってしまいましたし……。でもさらに罪を重ねるわけには……。でも処罰を受けるなら、せめて空腹を満たしてからでもいいような……」
少女は空腹を満たすメリットと、もっと人間を関わるというデメリットどちらが大きいかを天秤にかけている。何とも下らない悩みもあったものだと、心の中で呆れながらももう少し少女の背中を押すことにした。
「何か食べたいものがあれば作るぞ」
「行きます!!」
もはや一ミリも迷うことなく、少女は涎を垂らしながら力強く首を縦に振った。正直、さっきのは背中を押すというよりも触れるに近かった気もするが、それでも倒れてくれる天使で大丈夫なのだろうか。
「ちなみに何が食べたいんだ?あ、それもまだ名前も聞いてなかったな」
「私の名前ですか?メタトロンです!」
「メタトロン……」
聞き覚えのある名前だった。恐らく、中二病を患っていた時に読んでいた神話に出てきたかゲームか何かで聞いたことがあるんだろう。
「それで、メタトロンは何が食べたいんだ?」
「私、エビフライが食べたいです」
そう満面の笑みでメタトロンは答えた。その笑顔は、天使という存在よりも天使を現しているようで自然と俺の心も晴れやかな気分になった。
読んでいただきありがとうございました。
次回もよろしくお願いします。