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お客様は神様です!  作者: hiro.biz
脳漿を絞るまでもない特徴の塊の様な相手【のうしょうをしぼるまでもないとくちょうのかたまりのようなあいて】
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レシピを確認(かくにん)した甲示(しんじ)はメモをテーブルの(うえ)()き、まずは(かわ)(つく)作業(さぎょう)から開始(かいし)しました。

ココナッツファイン、米粉(こめこ)(しお)、カルダモンなどを(はか)り、次々(つぎつぎ)とボールの(なか)()(かる)()()わせます。

「えーっと……。これに熱湯(ねっとう)()れて()ぜる……」

手順(てじゅん)都度(つど)確認(かくにん)しながらの作業(さぎょう)

甲示(しんじ)熱湯(ねっとう)準備(じゅんび)する(ため)片手鍋(かたてなべ)(みず)()れ、コンロでお()()かし(はじ)めます。


懸命(けんめい)にモーダカ(づく)りに(いそ)しんでいる甲示(しんじ)()台所(だいどころ)(しの)()る1つの(かげ)……。

トタッ……。

(かる)着地音(ちゃくちおん)甲示(しんじ)背後(はいご)から()こえます。

物音(ものおと)()()()(かえ)甲示(しんじ)

……甲示(しんじ)()(うつ)ったのは、テーブルの(うえ)興味深気(きょうみぶかげ)にボールに()(のば)ばすなーくんの姿(すがた)でした。

「あっ!だめー!!」

その()展開(てんかい)予想(よそう)出来(でき)甲示(しんじ)(おも)わず大声(おおごえ)()してしましました。

しかし、甲示(しんじ)のその行動(こうどう)悪手(あくしゅ)だったのです……。

甲示(しんじ)(こえ)狼狽(ろうばい)したなーくんはその()()()ね、着地(ちゃくち)(とき)にボールの(ふち)前足(まえあし)接触(せっしょく)

ボールは中身(なかみ)()()らしながら(ゆか)落下(らっか)

カーン!と(おお)きな(おと)()(ゆか)()ち、数度(すうど)のバウンドをし、(すこ)(ころ)がった(のち)停止(ていし)

災難(さいなん)(つづ)き、ボールが(ゆか)()ちた(とき)(おと)(さら)にパニック状態(じょうたい)拍車(はくしゃ)がかかったなーくん。

テーブルの(うえ)(あば)(まわ)り、調理器具(ちょうりきぐ)次々(つぎつぎ)()としてしまいます。

(ゆか)()ちた調理器具(ちょうりきぐ)(おと)(おど)(さら)にパニック……。

()()けようのない悪循環(あくじゅんかん)(おちい)ってしまいました。


テーブルの(うえ)(もの)粗方(あらかた)()とし()えたなーくんは、(いき)いそのまま混乱(こんらん)した状態(じょうたい)部屋(へや)()()してしまいました。

甲示(しんじ)(おお)きな(こえ)注意(ちゅうい)をしてから1分(いっぷん)()らずの出来事(できごと)

その(あいだ)(くち)をポカーンと()けたまま(なに)出来(でき)ずにいた甲示(しんじ)……。

ピタゴラスイッチも驚愕(きょうがく)する(ほど)大惨事(だいさんじ)

甲示(しんじ)不用意(ふようい)一声(ひとこえ)から(はじ)まった(こと)だったので呆然(あぜん)としてしまうのは仕方(しかた)がない(こと)なのかもしれません。

「あー……」

なーくんを(おど)かせてしまった(こと)への罪悪感(ざいあくかん)

そして、(いま)惨状(さんじょう)……。

甲示(しんじ)言葉(ことば)()ず、しばらく硬直(こうちょく)したまま()()くします。


(われ)(かえ)った甲示(しんじ)(ほうき)塵取(ちりと)りを準備(じゅんび)

(ゆか)()()らされた粉状(こなじょう)材料(ざいりょう)黙々(もくもく)()(あつ)め、()とされた調理器具(ちょうりきぐ)はシンクへ。

「これを使(つか)うのは流石(さすが)にマズイよな……」

(ゆか)()かれた材料(ざいりょう)一通(ひととお)掃除(そうじ)()えた甲示(しんじ)塵取(ちりと)りの中身(なかみ)()ながら(つぶ)きます。

材料(ざいりょう)無駄(むだ)にすることに(たい)する抵抗(ていこう)

しかし、(つく)ったモーダカを最終的(さいしゅうてき)()べるのはガネーシャと()(こと)(かんが)え、材料(ざいりょう)破棄(はき)する(こと)にしました。

破棄(はき)する(こと)決定(けってい)したのですが、塵取(ちりとり)りの中身(なかみ)何処(どこ)(すて)てるのか(まよ)い、(ゆか)()いたまま放置(ほうち)します。

そして、調理器具(ちょうりきぐ)一度(いちど)(あら)い、再度(さいど)テーブルに(なら)べます。

分量(ぶんりょう)(はか)()えた材料(ざいりょう)(ふくろ)(くち)をしっかりと()めていた(ため)()(なお)必要(ひつよう)はなさそうです。

不幸中(ふこうちゅう)(さいわ)いと()った(ところ)でしょう。

「まだ、(ゆか)(きた)いけど掃除(そうじ)(あと)でしっかりしよう……」

台所(だいどころ)のドアを()め、()()(なお)してモーダカ(づく)りを再開(さいかい)します。


材料(ざいりょう)(はか)(なお)し、先程(さきほど)までの工程(こうてい)までのやり(なお)しが完了(かんりょう)

()無事(ぶじ)()かし()え、モーダカの(かわ)使用(しよう)する生地作(きじづく)りを開始(さいかい)

米粉(こめこ)(しお)などを()()わせた(もの)熱湯(ねっとう)(あぶら)(すこ)しずつ()しながら(かた)さを調整(ちょうせい)

(みみ)たぶくらいの(かさ)さ……?このくらいかな……?」

実際(じっさい)自分(じぶん)(みみ)たぶを(かる)(つま)み、生地(きじ)(かた)さの確認(かくにん)

(みみ)たぶを(つま)生地(きじ)(つま)まむ。その作業(さぎょう)数度(すうど)()(かえ)甲示(しんじ)

「うーん……。()からない……。(みみ)たぶがもう(すこ)(あつ)ければ()かるかもしれないんだけど……」

(かた)さの目安(めやす)理解(りかい)出来(でき)なかった甲示(しんじ)

結局(けっきょく)分量(ぶんりょう)(どお)りのお()使用(しよう)し、(かた)さの調整(ちょうせい)問題(もんだい)ない(こと)にして(つぎ)作業(さぎょう)(うつ)(こと)にしました。

「えーっと……。あとは一塊(ひとかたまり)(まる)めて(かわ)かないようにラップをする」

生地(きじ)(づく)りの工程(こうてい)完了(かんりょう)

(つぎ)中身(なかみ)(あん)(づく)りの作業(さぎょう)開始(さいかい)します。

(みず)砂糖(さとう)、ココナッツ、カルダモンを()()たせる……」

材料(ざいりょう)(なべ)()れ、()にかけます。

(なべ)中身(なかみ)がグツグツと()()(はじ)め、(いろ)徐々(じょじょ)透明(とうめい)から茶色(ちゃいろ)変化(へんか)

(たし)写真(しゃしん)ではもっと(くろ)くなるまでだった()が……。プリンのカラメルの(いろ)より(すこ)(くろ)かったような……」

検索時(けんさくじ)()画像(がぞう)記憶(きおく)(たよ)りに(なべ)(かた)けたり(まわ)したりしながら(あん)色合(いろあ)いを調整(ちょうせい)

まだ煮詰(につ)めるのに時間(じかん)()かると予想(よそう)した甲示(しんじ)はメモを()作業工程(さぎょうこうてい)再確認(さいかくにん)します。

「この(この)は……。沸騰(ふっとう)して(あわ)が大きくなったら弱火(よわび)()げないようにヘラなどで()ぜ、とろみが()てきたら()()荒熱(あらねつ)()って完成(かんせい)か……」

メモをテーブルに()きコンロの(ほう)()(なお)甲示(しんじ)視線(しせん)(さき)にあったものは……。

(なべ)から()(のぼ)黒煙(こくえん)!!

甲示(しんじ)終始(しゅうし)から強火(つよび)(あん)煮立(にた)て、メモにも沸騰(ふっとう)したら弱火(よわび)()いてあったにもかかわらず強火(つよび)のまま放置(ほうち)

(さら)には(あん)()()わせもせず、途中(とちゅう)でメモを確認(かくにん)する(ため)()(はな)始末(しまつ)……。

「あわわわわわ……」

黒煙(こくえん)()甲示(しんじ)(あわ)てた様子(ようす)でコンロの()()します。

()()した(あと)(なべ)から黒煙(こくえん)()(のぼ)(つづ)けます。

()()(とき)(すこ)黒煙(こくえん)()()()()甲示(しんじ)

換気扇(かんきせん)換気(かんき)だけでは()()わないと(かん)じ、(まど)全開(ぜんかい)にします。


(しばら)くすると(なべ)からの黒煙(こくえん)()み、台所内(だいどころない)(けむ)たい空気(くうき)換気(かんき)をし()一安心(ひとあんしん)

失敗(しっぱい)した(なべ)(あら)おうとシンクに移動(いどう)をさせ、(みず)(なが)()みます。

……しかし、粗熱(あらねつ)()れた(あん)鍋底(なべぞこ)にこびりつき、一筋縄(ひとすじなわ)では()とせそうにない状況(じょうきょう)

(かめ)()たわしに()()え、ゴシゴシと(ちから)()れて(あら)うも表面(ひょうめん)(あん)(けず)()ちるのみ。

残念(ざんねん)ながら()()いた部分(ぶぶん)にまでは(とど)いていない様子(ようす)です。

「……(あと)でゆっくりやろう」

ポツリと(つぶ)くと甲示(しんじ)()げとの(たたか)いを一旦(いったん)(あきら)め、(べつ)(なべ)()()します。

沸騰(ふっとう)したら弱火(よわび)出来上(できあ)がるまで()(はな)さない……」

餡作(あんづく)りの部分(ぶぶん)再度(さいど)熟読(じゅくどく)

(おな)失敗(しっぱい)()(かえ)さないように重要(じゅうよう)(こと)をブツブツと(つぶや)きながらイメージトレーニング。

工程(こうてい)暗記(あんき)()え、再度(さいど)餡作(あんづく)りに挑戦(ちょうせん)します。


(おな)(てつ)()まないよう、()調整(ちょうせい)をしっかりとしながら(あん)をかき()ぜます。

程無(ほどな)くして(あん)(いろ)(すこ)()いめの茶色(ちゃいろ)になり、粘度(ねんど)()(かん)じのトロトロ(かん)

しかし、()(かた)(むら)があったり、()調整(ちょうせい)(ざつ)だったりで多少(たしょう)()げらしき(くろ)粒々(つぶつぶ)()(かく)れしています。

……が、今回(こんかい)(はじ)めての作業(さぎょう)

ギリギリ及第点(きゅうだいてん)()える出来(でき)でしょう。

「よしっ。あとは荒熱(あらねつ)()って完成(かんせい)。……(いま)のうちに(かわ)(つく)ろう」

粗熱(あらねつ)()(ため)一時的(いちじてき)(あん)放置(ほうち)

まな(まな)をテーブルの(うえ)にセットし、生地(きじ)棒状(ぼうじょう)()ばします。

そして、()ばした生地(きじ)適当(てきとう)(おお)きさに()()けます。

「えーっと。()()をして()ばす……。()()って(たし)生地(きじ)がくっつかないようにするアレだよね?レシピに()いてなかったから米粉(こめこ)しか()ってないけど米粉(こめこ)大丈夫(だいじょうぶ)かな?」

メモを()(うつ)していた(とき)には(なん)疑問(ぎもん)()たなかった一文(いちぶん)戸惑(とまど)甲示(しんじ)

今更(いまさら)強力粉(きょうりきこ)などを()いに()(こと)出来(でき)ず、米粉(こめこ)での代用(だいよう)(こころ)みます。

まな(いた)(うえ)米粉(こめこ)(うす)(ひろ)げ、()()けた生地(きじ)を1つ()き、()(ひら)()(つぶ)すように()ばします。

()(はな)してみるとまな(いた)には()かず、甲示(しんじ)()生地(きじ)()きます。

大丈夫(だいじょうぶ)っぽい」

()()効果(こうか)実感(じっかん)した甲示(しんじ)はレシピ(どお)周囲(しゅうい)より中央(ちゅうおう)(すこ)(あつ)めにしつつ生地(きじ)()ばしていきます。

程無(ほどな)くして1つ()生地(きじ)完成(かんせい)

()()ばすのって(すこ)面倒(めんどう)……。麺棒(めんぼう)みたいな(もの)があれば()いんだけどな……」

甲示(しんじ)台所(だいどころ)見渡(みわた)します。

……ですが、めぼしい道具(どうぐ)はありません。

「うーん……。菜箸(さいばし)とかは(ころ)がらないように(かど)があるし、ペンとかは使(つか)えそうだけど……。衛生面(えいせいめん)がな~……」

色々(いろいろ)(かんが)えた挙句(あげく)道具(どうぐ)使用(しよう)(あきら)めます。


(のこ)りの(かわ)(のば)ばし()え、(あん)()める作業(さぎょう)(うつ)ります。

中央(ちゅうおう)(あん)()(つつ)む……?どう(つつ)むんだろう?()()(にく)まんとか小籠包(しょうろんぽう)みたいな(かん)じだったけど、そもそもアレってどう(つつ)んでるんだろう?」

メモを()っていた(とき)には()にならなかった(こと)

実践(じっせん)して(はじ)めて()()疑問(ぎもん)

しかし、(かわ)(あん)(つく)()わっている状況(じょうきょう)です。(すす)める(ほか)ありません。

甲示(しんじ)(なや)んだ挙句(あげく)(ざつ)餃子(ぎょうざ)(つつ)(かた)(よう)(かん)じで(つつ)(こと)にしました。

(かわ)中央(ちゅうおう)(あん)()せ、半分(はんぶん)()半月状(はんげつじょう)にし、見様見真似(みようみまね)でひだを4つ(つく)り、(ちから)()無理矢理(むりやり)圧着(あっちゃく)

「よしっ!」

(まった)()くありません……。

何故(なぜ)満足気(まんぞくげ)に1つめのモーダカ(()(まえ))を完成(かんせい)させた甲示(しんじ)

同様(どうよう)方法(ほうほう)(のこ)りの(かわ)(あん)()めていきます。


そして、最後(さいご)の1つ……。

(すこ)(おお)いけど大丈夫(だいじょうぶ)かな」

(あん)配分(はいぶん)見誤(みあやま)った甲示(しんじ)

(いま)まで()めた(りょう)(ばい)(ちか)(りょう)(あん)(かわ)中央(ちゅうおう)()せ、(つつ)もうと(こころ)みます。

……ですが、(かわ)半分(はんぶん)()った時点(じてん)(りょう)サイドから(あふ)()(あん)

「うわっ」

(あふ)()(あん)()()き、(おも)わず(こえ)()てしまいました。

しかし、(こえ)()した(ところ)でどうする(こと)出来(でき)ず、そのまま無理矢理(むりやり)(かわ)(くち)()じます。

一応(いちおう)(すべ)ての(あん)(つつ)工程(こうてい)完了(かんりょう)

(あん)所為(せい)(すこ)しべとつく()(あら)最終工程(さいりゅうこうてい)(うつ)ります。

「あとは中火(ちゅうび)()して完成(かんせい)っと」

()(あら)()えた甲示(しんじ)(さら)(なべ)用意(ようい)

生前(せいぜん)母親(ははおや)使用(しよう)していた()(たた)(しき)()()をセットします。

(みず)()りモーダカを()せ、(ふた)をして着火(ちゃっか)

キッチンタイマーをセットし、あとは()しあがるのを()つのみ……。


()(こと)(やく)20(ぷん)

ピピピピッピピピピッピピピピッ

指定時間(していじかん)経過(けいか)した(こと)()げるタイマー(おん)()(ひび)きます。

タイマーを()り、()()め、(ふた)()中身(なかみ)確認(かくにん)

(しろ)湯気(ゆげ)()()一瞬(いっしゅん)甲示(しんじ)視界(しかい)(うば)います。

湯気(ゆげ)霧散(むさん)し、(なべ)中身(なかみ)(あら)わになります。

出来(でき)たのかな?」

菜箸(さいばし)を持ちモーダカを軽くつついてみます。

「……分からない」

実物(じつぶつ)()(こと)()いので()たり(まえ)です。

(すこ)(なや)んだ(すえ)甲示(しんじ)完成(かんせい)したモーダカをタッパーに()めます。

「まあ、もしもの(とき)余熱(よねつ)?で()(とお)るでしょ」

勝手(かって)なアレンジ。()調整(ちょうせい)下手(へた)味見(あじみ)をしない。などなど料理初心者(りょうりしょしんしゃ)がやりがちな(あやま)ちを一通(ひととお)(おか)しながら、なんとかモーダカを完成(かんせい)(?)させる(こと)出来(でき)ました。

そして、楽観的(らっかんてき)(かんが)えでタッパーに()()えた甲示(しんじ)はチラリと視線(しせん)(うつ)時計(とけい)確認(かくにん)

時計(とけい)(はり)は15()52(ふん)(しめ)しています。

微妙(びみょう)時間(じかん)……。モーダカって日持(ひも)ちするのかな?」

どうやら甲示(しんじ)はモーダカを隠世(かくりよ)()って()くべきかを(なや)んでいるようです。

甲示(しんじ)手元(てもと)にあるモーダカの出来(でき)には満足(まんぞく)している様子(ようす)ですが、第三者(だいさんしゃ)からすると()(あらた)めて(つく)(なお)した(ほう)()いと(おも)わせる出来栄(できば)え……。

「なーくんの食事(しょくじ)時間(じかん)には()()()がするし……。出来立(できた)ての(ほう)()いよね」

隠世(かくりよ)()(こと)決意(けつい)した甲示(しんじ)はリュックにモーダカを()(やま)(ほこら)目指(めざ)します。


(やま)(ほこら)(まえ)

(すこ)(いそ)いだ(ほう)()いかも……」

(あか)()まり(はじ)めた(そら)斜陽(しゃよう)()甲示(しんじ)はポツリと(つぶや)き、隠世(かくりよ)移動(いどう)します。


有珠邸(ゆずてい)

「ごめんくださーい」

「おや?甲示君(しんじくん)(なに)かあったのかい?」

甲示(しんじ)声掛(こえか)けに対応(たいおう)したヘルメス。

甲示(しんじ)予想外(よそうがい)訪問(ほうもん)疑問(ぎもん)()げかけます。

「はい。ガネーシャ(さま)()きな()(もの)をお()ちしました。ガネーシャ(さま)(もど)られていますか?」

「もう正解(せいかい)辿(たど)()いたの?予想以上(よそういじょう)(はや)かったね♪ガーくんなら(もど)ってきてるよ♪それに、(いま)(しん)アイテムの試験中(しけんちゅう)だから丁度(ちょうど)()いかも♪」

(しん)アイテム?」

「まあまあ()がって♪()れば()かるよ♪」

ヘルメスに(うなが)されるまま(いえ)()がり部屋(へや)移動(いどう)します。


部屋(へや)(はい)ると有珠(ゆず)とガネーシャの姿(すがた)確認(かくにん)

有珠(ゆず)普段通(ふだんどお)りですが、ガネーシャは前回(ぜんかい)とは(ちが)(おお)きな看板(かんばん)()にしています。

「ガネーシャ(さま)、お()たせしました。先程(さきほど)はなーくんがご迷惑(めいわく)をおかけしました。それと、()()れしく『ガーくん』とお()びしてしまい(もう)(わけ)ありませんでした」

甲示(しんじ)()ずガネーシャの(がり)()謝罪(しゃざい)をします。

問題(もんだい)ない】

ガネーシャが()にしている看板(かんばん)文字(もじ)表示(ひょうじ)されました。

「ほぇ?」

看板(かんばん)変化(へんか)()()いた甲示(しんじ)()頓狂(とんきょう)(こえ)()反応(はんのう)

「それがさっき()ってた(しん)アイテムだよ♪()にしている(もの)相手(あいて)(おも)っている(こと)(つた)える(こと)出来(でき)るアイテムだよ♪」

「す、(すご)い!!じゃあ、ガネーシャ(さま)はなーくんが迷惑(めいわく)をかけた(こと)問題(もんだい)がないと(おも)っていると()(こと)なんですね?」

【それもある】

「それも?」

【ガーくんで問題(もんだい)ない】

変換(へんかん)(にく)単語(たんご)存在(そんざい)するのが(たま)(きず)じゃが、(いま)(ところ)問題(もんだい)なく(うご)いとるようじゃのぅ」

性能(きのう)()ての(とお)り。

有珠(ゆず)もヘルメスも(くわ)しく説明(せつめい)する必要(ひつよう)はないと(かんが)えているのか、説明(せつめい)する素振(そぶ)りを()せません。

()ってみても大丈夫(だいじょうぶ)ですか?」

大丈夫(だいじょうぶ)だよ♪」

「ガネーシャ(さま)(もう)(わけ)ありませんが(すこ)しお()りしてもよろしいでしょうか?」

【ガーくん】

「いや、流石(さすが)にそれは……」

【ガーくん】

遠慮(えんりょ)する甲示(しんじ)(ゆず)ろうとしないガネーシャ。

(おお)きな看板風(かんばんふう)のアイテムを()りようと()()ばした甲示(しんじ)ですが、ガネーシャは先程(さきほど)まで片手(かたて)()っていた看板(かんばん)両手(りょうて)(かか)()むように()()えます。

(さら)(あま)っている2(ほん)(うで)甲示(しんじ)()れようとするのを阻止(そし)しながら表示(ひょうじ)されている『ガーくん』の文字(もじ)甲示(しんじ)視界(しかい)(はい)るよう移動(いどう)させたり角度(かくど)()えたりしながら(あつ)()けます。


────甲示(しんじ)とガネーシャ、(しばら)(あいだ)攻防戦(こうぼうせん)


「ガーくん……。お()りしてもよろしいでしょうか?」

根負(こんま)けしたのは甲示(しんじ)でした。

甲示(しんじ)発言(はつげん)()き、満足(まんぞく)した様子(ようす)看板(かんばん)手渡(てわた)すガネーシャ。

看板(かんばん)には『ため(ぐち)でも()いよ』と表示(ひょうじ)されていますが、甲示(しんじ)()なかった(こと)にして看板(かんばん)()にします。

(おも)っ……」

看板(かんばん)(おお)きさは横幅(よこはば)(やく)100cm、縦幅(たてはば)(やく)70cm。

()()部分(ぶぶん)(ふく)めると(たか)さは甲示(しんじ)身長(しんちょう)よりも(すこ)(たか)程度(ていど)なので170cmと()った(ところ)でしょう。

重量(じゅうりょう)もそれ相応(そうおう)にあり、10kg~15kgと予想(よそう)されます。

ガネーシャが軽々(かるがる)(あつか)っていたので甲示(しんじ)油断(ゆだん)していたようです。

()()()れている(もの)思考(しこう)()()表示(ひょうじ)するアイテムじゃ。名付(なづ)けて『考察(こうさつ)高察(こうさつ)する高札(こうさつ)』じゃ」

「また(なが)名前(なまえ)……。しかもダジャレ……。『プチ()小槌(こづち)』の(よう)なスマートな(かん)じが()びやすいのに……」

有珠(ゆず)名付(なづ)けに不満気(ふまんげ)甲示(しんじ)

ついつい本音(ほんね)をポロリと(つぶ)いてしまいます。

「あれは大黒(だいこく)名付(なづ)けたものじゃ」

「だから()ったじゃないですか♪もっと普通(ふつう)名付(なづ)けましょうって♪(わたし)提案(ていあん)した『トランスレ(いた)』の(ほう)()かったんですって♪」

【ヘルメス(さま)名付(なづ)けも微妙(びみょう)団栗(どんぐり)背比(せいくら)べ。でもヘルメス(さま)(ほう)(みじか)いから若干(じゃっかん)()いかも】

甲示(しんじ)(こころ)(こえ)看板(かんばん)反映(はんえい)表示(ひょうじ)されます。

甲示君(しんじくん)……。(わたし)はショックです」

ヘルメスが(なに)()っているのか理解(りかい)出来(でき)ていない甲示(しんじ)

甲示(しんじ)看板(かんばん)自分(じぶん)(こころ)(こえ)表示(ひょうじ)されている(こと)()()いていないようです。

考察(こうさつ)高察(こうさつ)する高札(こうさつ)()てみるのじゃ」

有珠(ゆず)(うなが)され看板(かんばん)正面(しょうめん)(のぞ)()むようにして確認(かくにん)します。

そこには甲示(しんじ)(こころ)(こえ)が……。

「あわわわわわ……」

(おどろ)いた拍子(ひょうし)看板(かんばん)手放(てばな)甲示(しんじ)

看板(しんじ)がバランスを(くず)(たお)れかけますが、ガネーシャが()()ばし(ささ)える(こと)(なん)(のが)れました。

「すみません」

有珠(ゆず)とヘルメスに(たい)する謝罪(しゃざい)なのかガネーシャに(たい)する感謝(かんしゃ)なのか微妙(びみょう)なニュアンス。

()にしないで大丈夫(だいじょうぶ)

一番(いちばん)(はや)反応(はんのう)したのはガネーシャの(こころ)(こえ)でした。

「ありがとうございます。……有珠様(ゆずさま)、1つお()きしたいのですが、これは日本語(にほんご)にしか対応(たいおう)してないのでしょうか?」

看板(かんばん)()ていた甲示(しんじ)素朴(そぼく)疑問(ぎもん)有珠(ゆず)()げかけます。

「そんな(こと)はないのじゃ。甲示(しんじ)よ、それを使(つか)ってガネーシャに(なん)でも()いから(はな)しかけてみるのじゃ」

「はい」

ガネーシャに(ささ)えてもらっていた看板(かんばん)()()りガネーシャに(はな)しかけたい(こと)(おも)()かべます。

看板(かんばん)には【モーダカをお()ちしました】と表示(ひょうじ)されています。

「ガネーシャよ。そこに()かれている文字(もじ)をこれに()(うつ)してみるのじゃ」

有珠(ゆず)はガネーシャに(かみ)(わた)しながら指示(しじ)()します。

ガネーシャは(かる)(うなず)き、(かみ)文字(もじ)()()します。

【मैं मोडैक लाया】

「あれ?」

甲示(しんじ)看板(かんばん)()かれている内容(ないよう)再確認(さいかくにん)します。

日本語(にほんご)()かれているのに……?」

()(もの)(あつか)言語(げんご)によって()(かた)変化(へんか)するのじゃ」

「おぉ!!」

これ以上(いじょう)ない素晴(すばら)らしい機能(きのう)歓喜(かんき)(こえ)()れてしまいます。

「でも、文字(もじ)使(つか)わない相手(あいて)場合(ばあい)はどうなるんですか?」

「それは……」

「それは?」

使(つか)えんのぅ」

有珠(ゆず)回答(かいとう)(おも)わずズコーッとベタな反応(はんのう)()せる甲示(しんじ)

「まあ、それは仕方(しかた)ないですね……。でも、とっても便利(べんり)!!」

「でも(ぎゃく)(こと)出来(でき)るよ♪」

(ぎゃく)……ですか?」

ヘルメスが手短(てみじか)補足(ほそく)をするものの甲示(しんじ)理解(りかい)出来(でき)ていない様子(ようす)

(くび)(かし)げ、疑問(ぎもん)(くち)にします。

「うん♪(たと)えば、甲示君(しんじくん)がなーくんに(つた)える(こと)出来(でき)ないけど、なーくんが甲示君(しんじくん)(なに)かを(つた)える(こと)出来(でき)るって(こと)だよ♪」

(おも)いを文字(もじ)変換(へんかん)して相手(あいて)(つた)えると()(こと)(つた)えるべき相手(あいて)文字(もじ)使用(しよう)出来(でき)るか(いな)かが唯一(ゆいいつ)条件(じょうけん)なのでしょう。

つまり、看板(かんばん)機能(きのう)使用(しよう)出来(でき)るか(いな)かは(つた)えるべき相手次第(あいてしだい)使用者(しようしゃ)条件(じょうけん)()し。

「なるほど」

ヘルメスの説明(せつめい)()納得(なっとく)する甲示(しんじ)

【それで甲示(しんじ)()ってきたものは?】

ガネーシャの()看板(かんばん)文字(もじ)変化(へんか)

ガネーシャは看板(かんばん)(はなし)よりもお(だい)(たい)しての甲示(しんじ)回答(かいとう)出来(でき)(ほう)()になるようです。

「そうでした。これです!」

看板(かんばん)確認(かくにん)した甲示(しんじ)(すこ)(あわ)てた様子(ようす)でリュックからタッパーを()()します。

甲示(しんじ)はガネーシャに直接(ちょくせつ)手渡(てわた)すべきか(すこ)(なや)んだ(すえ)、テーブルに(おき)きました。

ガネーシャのみならず、有珠(ゆず)とヘルメスの評価(ひょうか)()しかったのかもしれません。

()けても()いかい?」

タッパーを指差(ゆびさ)し、ヘルメスが甲示(しんじ)質問(しつもん)をします。

「はい」

自信(じしん)()()返事(へんじ)をする甲示(しんじ)

甲示(しんじ)返答(へんとう)()き、この()()全員(ぜんいん)視線(しせん)がタッパーへと(あつ)まります。

全員(ぜんいん)甲示(しんじ)()ってきた回答(かいとう)興味津々(きょうみしんしん)のようです。

「ぎょう……ざ……?」

ヘルメスがタッパーの中身(なかみ)確認(かくにん)して困惑(こんわく)しながら感想(かんそう)()べます。

(あん)(つつ)(かた)()からなかった甲示(しんじ)見様見真似(みようみまね)餃子(ぎょうざ)(つつ)(かた)採用(さいよう)したのでヘルメスの感想(かんそう)(いた)(かた)ないでしょう。

(ちが)いますよ。モーダカですよ。モー・ダ・カ!」

「これが……?」

甲示(しんじ)返答(へんとう)()いて(なお)(しん)じられないと()表情(ひょうじょう)(かく)しきれないヘルメス。

()(まえ)にある『モーダカ』と主張(しゅちょう)された物体(ぶったい)(たと)餃子(ぎょうざ)だとしても(いびつ)(かたち)

()()段階(だんかい)不安材料(ふあんざいりょう)しかないのでヘルメスが半信半疑(はんしんはんぎ)()(なお)してしまうのも無理(むり)はない(こと)なのかもしれません。

()()はアレですけど、しっかりレシピ(どお)(つく)ったので(あじ)問題(もんだい)ないと(おも)います」

レシピ(どお)りとは……?と疑問(ぎもん)()ちたくなりますが甲示(しんじ)何故(なぜ)自信満々(じしんまんまん)表情(ひょうじょう)

タッパーをテーブルの中央(ちゅうおう)移動(いどう)させます。

「「「……」」」

テーブルの中央(ちゅうおう)()かれたモーダカを(なが)めながら()(だま)る3(にん)

()()(あじ)別物(べつもの)だとしても、眼前(がんぜん)にある禍々(まがまが)しいオーラを(はな)物体(ぶったい)はどう(かんが)えても()()(あじ)一致(いっち)していると予想(よそう)出来(でき)るほど(ひど)()()

全員(ぜんいん)(こころ)(なか)で『どう処理(しょり)すべきか?』と(なや)み、アイコンタクトで意思疎通(いしそつう)(こころ)みます。


「こ、今回(こんかい)はガーくんの依頼(いらい)なので~……」

「!?」

どうやらアイコンタクトでは解決(かいけつ)しなかったようです……。

ヘルメスの(おも)いもよらぬ一言(ひとこと)でギョッとした表情(ひょうじょう)()かべ、(こえ)にならない(こえ)()すガネーシャ。

味方(みかた)だと(おも)っていたヘルメスが伏兵(ふくへい)だったのです。

……いや、伏兵(ふくへい)()うよりは(ただ)裏切(うらぎ)り。

または保身(ほしん)(ため)にガネーシャを生贄(いけにえ)にして逃走(とうそう)したと表現(ひょうげん)しても()行為(こうい)

ガネーシャは(かる)くヘルメスを(にら)みつけますが、ヘルメスはサッと()(そむ)けます。

(なに)(たす)かる手立(ただ)てはないかと懇願(こんがん)するような眼差(まなざ)しで有珠(ゆず)()つめます。

……が有珠(ゆず)もヘルメス同様(どうよう)()()らし、(うつむ)いたまま微動(びどう)だにしません。

甲示(しんじ)(あつ)有珠(ゆず)とヘルメスの我関(われかん)せずを(つらぬ)(とお)そうとする(つよ)意志(いし)(かん)()ったガネーシャは(あきら)めます。

()(けっ)しタッパーからモーダカを1つ()()り、プルプルと(ふる)える()(おそ)(おそ)(くち)(はこ)びます。

「どうですか?」

甲示(しんじ)()われるが時間(じかん)(かせ)ぎの(ため)一生懸命(いっしょうけんめい)咀嚼(そしゃく)(つづ)けるガネーシャ。

正直(しょうじき)()もなく不可(ふか)もなく……。

いや、(むし)不可(ふか)

世辞(せじ)にも美味(おい)いとは()えない。

正直(しょうじき)マズイと(かん)じざるを()ない(あじ)

どう(かえ)すのが正解(せいかい)なのか……。

咀嚼(そしゃく)しながら(なや)むガネーシャ。

(しばら)()(つむ)りながら咀嚼(そしゃく)をして回答(かいとう)(かんが)えていたガネーシャですが、(うそ)をついて()めても甲示(しんじ)(ため)にならないと(おも)(いた)り、正直(しょうじき)自身(じしん)感想(かんそう)(つた)える(こと)にしました。

看板(かんばん)()()り、甲示(しんじ)への返答(へんとう)をします。

【40(てん)★2.5】

正直(しょうじき)に』と(かんが)えたものの、かなり(あま)めの採点(さいてん)

ガネーシャの本心(ほんしん)としては30(てん)以下(いか)

しかし、お(だい)()してからのスピード(かん)などから熱心(かんしん)さを(かん)()っての加点(かてん)

()()はアレですが、意外(いがい)としっかりとしてるんですね♪」

ガネーシャの心許(こころばか)りの(やさ)しさ採点(さいてん)()()けたヘルメス。

ガネーシャを毒見係(どくみがかり)とし、ある程度(ていど)までの(あじ)保証(ほしょう)があると(おも)()んだヘルメスはモーダカを()()り、(くち)(ほう)()みます。

「……ッ!!」

()んだ瞬間(しゅんかん)(おとず)れる微妙(びみょう)(あま)み、(にが)みと(ほの)かに口内(こうない)(ひろ)がる独特(どくとく)(くさ)み。

(わる)意味(いみ)(あま)みと(にが)みが主張(しゅちょう)します。

(にが)みと独特(どくとく)(くさ)みの原因(げんいん)(あん)()げ。

完全(かんぜん)餡作(あんづく)りの(ざつ)さと味見(あじみ)をしなかった甲示(しんじ)()()です。

(くち)(ふく)んだモーダカの処理方法(しょりほうほう)困窮(こんきゅう)し、(あせ)(ほお)(つた)います。

(さて、どうしたものか……)

ヘルメスの場合(ばあい)、ガネーシャとは(ちが)咀嚼(そしゃく)するフリ。

モーダカ本体(ほんたい)中央(ちゅうおう)(のこ)し、(かわ)(はし)部分(ぶぶん)(かる)咀嚼(そしゃく)しながら口内(こうない)のモーダカの処理(しょり)(おも)いを(めぐ)らします。

「どうですか?」

部屋(へや)をこっそり()てから甲示(しんじ)()ていない(ところ)()()して処分(しょぶん)しようと()めた矢先(やさき)出来事(できごと)

テーブルに()をついて()()がろうとした瞬間(しゅんかん)甲示(しんじ)からの質問(しつもん)

甲示(しんじ)()われた(こと)でヘルメスは完全(かんぜん)()げるタイミングを(うしな)ってしまいました。

(はじ)めに()んだ部分(ぶぶん)基点(きてん)にし、モーダカを2分割(ぶんかつ)

(なか)無理矢理(むりやり)(かい)()()()みます。

「う、うん……。モーダカは(はじめ)めて()べたけど、想像(そうぞう)していたのと(ちが)って独特(どくとく)(あじ)だったよ……」

いつもの(かる)いノリとは(ちが)い、テンション(ひく)めに(こた)えるヘルメス。

独特(どくとく)』『個性的(こせいてき)』『独創的(どくそうてき)』などなど……。(あじ)評価(ひょうか)する(とき)は『マズイ』をオブラートに(つつ)んで使(つか)われる(こと)(おお)常套句(じょうとうく)です。

本当(ほんとう)ですか!?そう()ってもらえると頑張(がんば)った甲斐(かい)があります」

そんな(こと)とは露知(つゆし)らず、素直(すなお)()められたと勘違(かんちが)いをして歓喜(かんき)する甲示(しんじ)

甲示(しんじ)(よろこ)姿(すがた)()複雑(ふくざつ)気持(きも)ちになったヘルメスは原因(げんいん)一端(いったん)(にな)っているガネーシャを一睨(いちげい)

(だい)()した(こと)(かん)する責任(せきにん)はあるものの、その(ほか)行動(こうどう)はヘルメスの自己責任(じこせきにん)だと(かんが)えているガネーシャはヘルメスを無視(むし)します。

「じゃあ、報酬(ほうしゅう)(はなし)(うつ)ろうか……」

(いま)だにテンションの(ひく)いヘルメス。

モーダカの(はなし)から(ちが)(はなし)変更(へんこう)したいのか、強引(ごういん)報酬(ほうしゅう)(はなし)()()します。

相当(そうとう)衝撃的(しょうげきてき)(あじ)だったのでしょう。

(ちな)みにですが、一番(いちばん)()報酬(ほうしゅう)って(なに)予定(よてい)していたのでしょうか?」

【これ】

甲示(しんじ)()いに(こた)えるガネーシャ。

看板(かんばん)指差(ゆびさ)し、表示(ひょうじ)されている文字(もじ)甲示(しんじ)理解(りかい)します。

「なるほど……。(たし)かに()(しな)ですね」

甲示(しんじ)納得(なっとく)報酬(ほうしゅう)のようです。

しかし、今回(こんかい)採点(さいてん)は40(てん)

満額報酬(まんがくほうしゅう)とは(かんが)えられません。

「それで、今回(こんかい)報酬(ほうしゅう)はどうなりますか?」

【これ】

「へ?」

ガネーシャの(おも)わぬ返答(へんとう)()()けた(こえ)()甲示(しんじ)

(ただ)条件(じょうけん)がある】

条件(じょうけん)?」

【たまに美味(おい)しいモーダカ()ってきて】

(ぼく)(つく)ったので()いですか?」

甲示(しんじ)()いに暫時(ざんじ)(かた)まるガネーシャ。

正直(しょうじき)甲示(しんじ)手作(てづく)りモーダカでは不満(ふまん)なのでしょう。

【ガー、(あぶら)(きら)い。お(なか)(こわ)すから(あぶら)使(つか)わないで。中身(なかみ)()がさないで。しっかり(つつ)んで。もっと上手(じょうず)(つく)れるようになってね】

色々(いろいろ)とガネーシャからの注文(ちゅうもん)表示(ひょうじ)されます。

今回(こんかい)40(てん)になった原因(げんいん)一覧(いちらん)(かんが)えるのが妥当(だとう)でしょう。

甲示(しんじ)次回以降(じかいいこう)モーダカを(つく)(さい)改善点(かいぜんてん)一覧(いちらん)()()えられるガネーシャからの注文(ちゅうもん)

「はい。今回(こんかい)()()わせの材料(ざいりょう)もあったので(つぎ)今回(こんかい)よりも美味(おい)しいモーダカを(つく)れるように頑張(がんば)ります」

完璧(かんぺき)』とは()っていたのものの甲示(しんじ)にも改善点(かいぜんてん)心当(こころあ)たりはあったようです。

甲示(しんじ)主張(しゅちょう)する改善点(かいぜんてん)以前(いぜん)問題(もんだい)山積(やまづ)みの(よう)()もしますが……。

「まあ、双方(そうほう)納得(なっとく)したならそれで()いのじゃ。今回(こんかい)依頼(いらい)無事(ぶじ)達成(たっせい)()(こと)にするかのぅ」

ガネーシャの依頼(いらい)(こな)し、報酬(ほうしゅう)として『考察(こうさつ)高察(こうさつ)する高札(こうさつ)』を入手(にゅうしゅ)

しかし、甲示(しんじ)には1つ疑問(ぎもん)があるようです。

有珠様(ゆずさま)、このアイテムを現世(うつしよ)()()条件(じょうけん)制限(せいげん)はありますか?」

それは、現世(うつしよ)ではオーバーテクノロジーになり()るアイテムに(たい)する制限(せいげん)

()うまでもなく今回(こんかい)のアイテムもその一種(いっしゅ)

現世(うつしよ)にも自動翻訳(じどうほんやく)する機械(きかい)などは一応(いちおう)あるものの、完璧(かんぺき)には程遠(ほどとお)く、誤訳(ごやく)なども(おお)状態(じょうたい)です。

しかし、今回(こんかい)のアイテムは(こころ)(こえ)相手(あいて)(あつか)言語(げんご)()()える(こと)出来(でき)るアイテム。

贔屓目(ひいきめ)()てもオーバーテクノロジーと()わざるを()ない代物(しろもの)

甲示(しんじ)疑問(ぎもん)(おも)うのも無理(むり)はありません。

今回(こんかい)制限(せいげん)()しじゃ」

「へっ?ほ、本当(ほんとう)ですか!?」

「うむ……。じゃが……」

「じゃが?」

制限(せいげん)はないものの、(ほか)問題(もんだい)がありそうな雰囲気(ふんいき)

有珠(ゆず)(すこ)()()き、(つづ)けます。

「それはガネーシャとお(ぬし)がコミュニケーションを()(ため)考案(こうあん)したアイテムじゃ。現世(うつしよ)()(かえ)るのは自由(じゆう)じゃが、毎回(まいかい)()ってくるかガネーシャとのコミュニケーションを(あきら)めるか(えら)必要(ひつよう)があるのじゃ」

「うーん……」

有珠(ゆず)言葉(ことば)()き、私生活(しせいかつ)での出来事(できごと)色々(いろいろ)(おも)()かべながら(なや)甲示(しんじ)

現世(うつしよ)()って(かえ)るべきなのか……?

隠世(かくりよ)(のこ)しておくべきなのか……?

(しばら)(なや)んだ(すえ)甲示(しんじ)()した(こた)えは……。

()かりました。()いておく(こと)にします。ガーくんに(あず)けておいても大丈夫(だいじょうぶ)ですか?」

問題(もんだい)ない】

本当(ほんとう)()って(かえ)らなくて大丈夫(だいじょうぶ)かい?」

「はい。現世(うつしよ)使()場面(ばめん)(おも)()かばなかったのと、(まん)(いち)使(つか)場面(ばめん)があったとしても何処(どこ)()()れたのかを()()められると(こま)るので」

ヘルメスの()いに素直(すなお)(こた)える甲示(しんじ)

その言葉(ことば)()いた(だれ)(くち)()(こと)()()()れます。

もしかすると全員(ぜんいん)考察(こうさつ)高察(こうさつ)する高札(こうさつ)』を()()してほしくなかったのかもしれません。

「お(ぬし)納得(なっとく)するなら(なん)でも()いのじゃ」

「ありがとうございます。……では、今日(きょう)はモーダカを()ってきただけなので失礼(しつれい)します」

(すこ)()つのじゃ」

今回(こんかい)用件(ようけん)()ませ退室(たいしつ)しようと()()がる甲示(しんじ)ですが、有珠(ゆず)()()められ中腰(ちゅうごし)状態(じょうたい)()まります。

「はい、(なん)でしょうか?」

「まだ(きゃく)()(こと)はないとは(おも)うが、ちょくちょく(かお)()せるのじゃ」

「そうですね♪何方(どなた)交易(こうえき)したい(かた)(あら)れるかもしれないので(たま)確認(かくにん)()てください♪店番(みせばん)(わたし)とガーくんがやっておきます♪当人(とうにん)()なくても伝言(でんごん)とかがあるかもしれませんので、その(あた)りの手配(てはい)はお(まか)せください♪」

了解(りょうかい)しました。ガーくんは()()みですか?(まか)せても大丈夫(だいじょうぶ)なんでしょうか?」

問題(もんだい)ない】

「ガーくんもこう主張(しゅちょう)してますし問題(もんだい)ないでしょう♪元々(もともと)マスコット(けん)従業員(じゅうぎょういん)として()てもらってますので♪」

「そうですか。では、よろしくお(おねが)いします」

【オーケー】

(ほか)(なに)かありますか?」

「それだけじゃ」

(ぼく)(とく)にないので失礼(しつれい)します」

甲示(しんじ)()()がり、一礼(いちれい)をして退室(たいしつ)


甲示(しんじ)玄関(げんかん)()(おと)()き、3(しゃ)同時(どうじ)にテーブル中央(ちゅうおう)のモーダカを(のぞ)()むように(うご)きます。

「……さて、どうしましょうか?」

甲示(しんじ)()ってきたモーダカ。

(のこ)り5つ……。

処理(しょり)(こま)る3(しゃ)

【ゆず()べてない】

「ワシには関係(かんけい)のない(はなし)じゃ!!」

「そうですね♪今回(こんかい)はガーくんの依頼(いらい)なので♪」

【!?】

【ヘルメスが勝手(かって)依頼(いらい)した。ヘルメスの責任(せきにん)重大(じゅうだい)

(なに)()っているのですか?……やはり、有珠様(ゆずさま)も1つは(しょく)してみた(ほう)()いと(おも)います♪」

【そうそう。それで(のこ)りは()ければ()い。ゆず2、ヘルメス2、ガー1】

「ヘルメスとガネーシャ、それぞれ2.5()ずつで問題(もんだい)ないのじゃ!!」

…………

……

その()(みにく)(あらそ)いは(つづ)くのであった……。


一方(いっぽう)現世(うつしよ)(もど)った甲示(しんじ)は……。

「ただいまー。なーくん(もど)ってるー?」

すっかり()(しず)み、街灯(がいとう)民家(みんか)などから()れる()かりが(まち)()らす(ころ)甲示(しんじ)自宅(じたく)到着(とうちゃく)しました。

帰宅(きたく)しているか不明(ふめい)のなーくんに()玄関(げんかん)から(こえ)()けます。

()ても()なくても基本的(きほんてき)返事(へんじ)はありません。

(ひと)(ごと)のように「ただいま」と(つぶや)くのを(きら)い、(なん)とは()しに(こえ)()けている(てい)()っているだけ。

甲示(しんじ)としてもなーくんからの返事(へんじ)期待(きたい)していません。

ただ、(たま)玄関(げんかん)まで(ある)いてきたり、(かお)(のぞ)かせてくれたり反応(はんのう)があると(うれ)しくなるのは否定(ひてい)出来(でき)ないのは事実(じじつ)

(たと)えそれがエサを強請(ねだ)(とき)だけだったとしても……。

そして、今日(きょう)もそれは(おな)じ。

()()れているとはいえ、まだ夕食(ゆうしょく)には(すこ)(はや)時間帯(じかんたい)

なーくんからの反応(はんのう)はありません。

甲示(しんじ)(こえ)(はっ)した(こと)満足(まんぞく)をし、夕食(ゆうしょく)やなーくんのエサを準備(じゅんび)する(ため)台所(だいどころ)(あし)(はこ)びます。

今日(きょう)色々(いろいろ)あって(つか)れたなー……」

(ひと)()ちながら台所(だいどころ)(とびら)()けた甲示(しんじ)硬直(こうちょく)します。

「な、なんじゃこりゃー!!」

(ゆか)(こな)(しろ)()まり、シンクには()げた(なべ)などの(やま)……。

そして、テーブルの(うえ)()らかり放題(ほうだい)

()()てた台所(だいどころ)姿(すがた)

そう、甲示(しんじ)はモーダカを(づく)()えた(こと)満足(まんぞく)し、そのまま隠世(かくりよ)()かっていました。

なーくんを(おどろ)かせてしまった一件(いっけん)から色々(いろいろ)失敗(しっぱい)後片付(あとかたづ)けをしていない(こと)……。

その(すべ)てを(いま)(いま)まで(あたま)から()けていた甲示(しんじ)

料理(りょうり)』と()()(いくさ)をする場所(ばしょ)

戦場(せんじょう)』と()した台所(だいどころ)(のこ)る『傷跡(きずあと)』は要所要所(ようしょようしょ)(ふか)(きざ)まれています。

「はぁ……。こんなに()らかしてたのか……。(ぼく)……」

戦場(せんじょう)()っていた(とき)には()()かなかった惨状(さんじょう)

一度(いちど)戦地(せんち)(はな)冷静(れいせい)になって(はじ)めて()()(こと)もあります。

甲示(しんじ)()(いき)をつき、ガックリと(かた)()としてしまいます。


洗面所(せんめんじょ)移動(いどう)をし、掃除道具(そうじどうぐ)一式(いっしき)()にして台所(だいどころ)帰還(きかん)

テーブルなどの(たか)位置(いち)(かた)づけを()まし、(のこ)すは(ゆか)とシンク(ない)(よご)(もの)のみ。

「なー」

そんな(おり)、なーくんが帰宅(きたく)しました。

「あっ、なーくんおかえりー」

雑巾(ぞうきん)片手(かたて)()つん()いの状態(じょうたい)でなーくんに(こえ)()ける甲示(しんじ)

「なー」

「ごはん?ちょっと()ってね。(いま)台所(だいどころ)掃除(そうじ)してるから()わってからね」

なーくんの夕食(ゆうしょく)準備(じゅんび)をせず、雑巾掛(ぞうきんが)けを(つづ)ける甲示(しんじ)

「……な゛ーーー!!」

一向(いっこう)食事(しょくじ)準備(じゅんび)をする気配(けはい)のない甲示(しんじ)になーくんは()()かります。

「ギャー!!イタイイタイ!!ゴメンって。(いま)準備(じゅんび)するからー!!」

こうして無事(ぶじ)下僕(げぼく)(しつけ)完了(かんりょう)し、食事(しょくじ)()()満足気(まんぞくげ)ななーくん。

それとは対照的(たいしょうてき)に、なーくんが(あば)(まわ)った(とき)()()めていた(こな)()らされ、掃除(そうじ)をし(なお)羽目(はめ)になり、()んだり()ったりの甲示(しんじ)なのであった……。


─ つ づ く ─

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