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ローカル航路エプリオン線の嗟嘆  作者: 紫 和春


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第17話 配属

 翌日には、目的の場所に到着していた。

 第13艦隊司令部。この艦隊が管轄する宙域は、隣国ラサイド連邦が存在している。

 かつて、ロクシン共和国とラサイド連邦は、銀河戦争で戦った敵同士だ。

 ロクシン共和国はギャリオ帝国と軍事同盟を結んでいたため、ラサイド連邦との戦いでは優位に進めることが出来た。その優位性は今も続いている。

 しかし、国家自体は解体されなかった。そのため、ラサイド連邦の残党が息を潜めている可能性が捨てきれない。よって国境付近には、相当の戦力を割いているのだ。

 そういった意味では、銀河中心部にある謎の組織も見過ごせない。彼らは自らを「亡命国家」と自称しているが、その規模や組織形態はよく分かっていない。

 どちらにせよ、憂慮すべき敵がそばにいるのは気分のいいことではないだろう。そのため、前線と称される第13艦隊や、その他の部隊は錬度が高いことで有名だったりする。


(そんな化け物みたいな場所に行くんだ……。しっかりしなきゃ、アタシ!)


 そう意気込んだフクオカは、第13艦隊第219巡航艦隊司令部作戦課の部署に向かう。

 そこには、綺麗なオフィスと整然と並べられたパソコンがあった。


「おや、君がアリサ・フクオカ君だね?」

「は、はい!よろしくお願いします」

「早速だけど、仕事が入ってるんだ。よろしく頼むよ」


 そういって、フクオカは奥のほうの部屋に通される。


「ここが会議室。何か重要な案件が入ってきた時に、皆で作戦を立案したりする。君は主に過去の作戦の問題点をピックアップして、修正するという作業にはいってもらう。まずはこれが見本だ。静かに相手するのは当たり前だが、他の人の迷惑にならないようにな」


 そして会議室の中心には、資料の束が大量に入ってた段ボールがあった。


「これ、全部目を通さないといけないわけか……」


 フクオカの資料をまとめる能力というのは、はっきり言えば平均といったところだろう。良くもなく、悪くもない。

 とにかく、資料をまとめるようなことは、学生時代にやってきていた通りの結果出そうと考える。


「えぇと、この資料はこんな感じではなかったと思うんだけど……」


 それからのフクオカは、資料の片付けや整理、そして作戦群の戦闘記録等を次々と読んでいく。


「あれっ……?ここってこれで合ってたっけ……?」


 軽く読み流していても、そんなふとした疑問が浮かび上がってくる。

 結局の所、この日の進捗はそんなに進まずに終わってしまった。

 翌日も、資料の読み進めを続ける。


「えぇと……、アレがこっちの奴で、コレがそっちだっけ?」


 だんだんと混乱してくるフクオカ。

 その影響か、時間だけはどんどん過ぎ去っていく。

 途中、作戦課の人間が見に来る事もあった。


「どうだい?進捗のほうは」

「えーと、正直に言って、全然進んでないです……」

「はっはっは!最初は誰でもそうだからね。ま、あんまり気を揉まずに気楽に構えた方がいいよ」

「はぁ……」


 アドバイスなのかどうか分からないような、そんな言葉を貰いつつ、フクオカは必死になって、自分へ出された仕事を懸命にこなす。


(けどこういう戦記って、大抵専門家がいて、その人たちが研究とかに編纂してるんじゃないのかな?)


 そんな純粋な疑問が生じるフクオカ。

 しかし、目の前に存在する膨大な資料の山は、その思考すらも与えてはくれなかった。

 とにかく、フクオカは資料を片づけることに専念する。

 そして、そのまま1週間が終わろうとしていた。


「もう……、ダメ……。全然終わんない……」


 そういって、資料に覆いかぶさるように、机に伏す。

 もともと、会議室の机を占領するように置かれていた資料は、一人では捌ききれないほどの量であるのは明白だろう。

 これを仕事と称して新人に振る作戦課の人間も大概ではあるが、それを真面目に受け取るフクオカも異常だろう。

 そうして自分一人では抱えきれないほどの仕事を担いで、そのまま自滅する人も多いはずだ。

 しかし、仕事ならばキッチリとやらなければならない。そういう考えがフクオカの中に存在していた。

 その時である。

 会議室に大勢の人間が入ってきたのだ。


「それでだな……。おっと、誰かいたようだ」


 フクオカがその人たちに顔を向けると、その徽章(きしょう)は自分の上官である事を示してた。

 フクオカは思わず席を立ち上がり、彼らに挨拶する。


「ははは、初めまして!先週より配属となりましたアリサ・フクオカです!」

「あぁ、君が新人か。よりにもよって、一番キツい通例行事を受けることになるなんて、君も運がないね」

「通例行事、ですか?」

「そう。君が仕事として割り振られた戦役に関わる資料整理。これは、君が作戦課の業務にどれだけ耐えられるかを測るための、ダミーの仕事さ」

「ダミーの……仕事……!?」

「その様子から察するに、この1週間、真面目に仕事を取り組んでいたようだね。資料が片付いているのが、その証拠だ」

「……という事は、この1週間の努力は無駄だったって事ですか……?」

「悪く言うとそうなる。だが安心してほしい。これによって、君は正式に作戦課へと配属されるんだ」


 フクオカの心情としては、複雑な思いであった。

 これ以上この資料整理をしなくてもいいという安心感と、なんのための仕事だったのかという怒り、そして1週間の努力が水の泡になったという喪失感。

 これらが混ざりあったような気分であった。


「君の言いたい事も分からなくはない。しかし、これからの業務にあたって、相当ストレスになることもあるだろう。それを試すには持ってこいの方法なんだ」


 彼は諭すように、フクオカに語りかける。


「時には、このような不条理な事もある。それに耐えられるかどうか、知りたかっただけなんだ」


 確かに、彼のいう通りかもしれない。

 何も知らずに、ただ普通に作戦課に配属されていたならば、その残酷さに己を見失っていたかもしれない。

 そう考えれば、少しは有益なことをしたのだろう。


「とにかく、第13艦隊司令部所属第219巡航艦隊作戦課へようこそ。我々は君を歓迎しよう」


 そういってフクオカは無事に、正式な配属となった。

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