8
リカルドが、屋敷に滞在して5日目。
「フランチェスカ、足らない」
フランチェスカは、笑顔を引き攣らせた。手にしていたフォークにも力が入る。
これは、明らかに食べさせてくれるのを待っている。
「殿下、殿下はもう立派な大人なのですからご自身で召し上がらないといけませんよ?」
あくまで、優しく、優~しく諭す。
「嫌だ」
方向性を。間違えたかも知れない。甘やかし過ぎた。このままではまずいわ。軌道修正しないと……。
機嫌をとるために、仕方なしにスコーンを食べさせてから癖がついてしまった。
何か対策を考えないと。
フランチェスカは、フォークに刺したトマトをリカルドの口に押し込んだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ドカッと音を立てて、机が揺れた。その事にリカルドは、一瞬ビクッとする。
「さあ、殿下。私と一緒に読書致しましょう」
机には山積みの本が置かれている。彼が興味を示しそうなものか分からなかったので、取り敢えず片っ端から本を用意してみた。
「読書は、好かない」
でしょうね。何となく予想はしていた。何しろ5歳児以下ですから!でもだからといって、引き下がる訳にはいかない。
またしても、そっぽを向くリカルドに、苛々しつつフランチェスカは耐える。
「そんな事仰らずに、私と一緒に読書致しましょう?ほら、殿下~?この経済学書とかどうですか?タメになりますよ~?」
「……」
やはり、ダメか。流石に難し過ぎたかも知れない。
「では、戦術書……いえ、心理学……夢と冒険とワンちゃん物語!」
これも、ダメか……最後のはいけると思ったのに。意外と食いつかない。
フランチェスカは一冊ずつ、リカルドに見せていくがどれも反応しない。面倒ね……さっさと選んでくれないかしら。
「愛欲に溺れた娘……」
は⁉︎何よ、これ⁉︎
書室から、棚ごとに種別された物をそれぞれ一冊ずつ拝借してきたが……まさか、艶本の棚があるなんて……。
「それがいい」
いい訳ないでしょうが⁉︎しれっとして、即答するリカルドにフランチェスカは震える。そもそも、書室の一角の棚が艶本などとあり得ない。しかも、堂々と他の本と一緒に並べられている。
本当に、クズねっ。
「殿下ったら、またご冗談を……オホホ」
「……冗談じゃない。なんなら今から、その本の様に君を可愛がってやってもいい」
リカルドは、立ち上がりフランチェスカをジリジリと追い詰めてくる。
普段は無気力の癖に、こういう事だけはやる気があるみたいね……クズ過ぎる。
コツッと背が壁に当たる。これ以上は当たり前だが、下がれない。頭が5歳児以下でも、力は大人の男だ。抵抗したところで、限界がある。
彼は両腕を壁につきフランチェスカの逃げ場をなくすと、顔を近づけてきた。
5日も我慢させていたから、この際誰でもいいってわけ⁉︎
フランチェスカは目を瞑り、身体を強張らせた。