エピローグ
「リカルド様、お疲れ様です。少し休憩なさいませんか」
フランチェスカの言葉にリカルドは、筆を置いた。
「フランチェスカ、抱っこしたい」
「はい、はい、どうぞ」
長椅子に腰掛けたリカルドの膝の上に座る。すると彼は嬉しそうに抱き締めて、笑った。
相変わらず2人の時は甘えん坊が直り切らないが、これでも公の場では確りとした領主をやっている。意外とも思えるが、領民達からの人気も高く慕われていた。
「フランチェスカ、聞きたかった事がある」
「なんでしょう」
リカルドは少し恨めしそうな拗ねたようなそんな顔をする。
「何故、ずっと殿下と呼んでいたんだ。私はずっと、寂しかった……」
ああ、そんな事かとフランチェスカは思わず笑った。
「私は、期間限定の妻でしたから……何れ、リカルド様の元を去る事は分かっていました。ですから、情が移らないようにと思いまして」
自分なりの線引きをしていた。フランチェスカだって人間だ。一時とはいえど、妻になり衣食住を共にすれば、情が移る事もあるかも知れない。故にせめて名前だけは意識的に呼ばない様にしていた。
「そういうものなのか」
「そういうものです」
にゃあ。
ワンッ!
「あら、アレキサンドロスと殿下」
フランチェスカの言葉にリカルドは複雑な顔をした。
「その、ガブリエルを殿下と呼ぶのはやめないか」
「どうしてですか?」
「何となく、落ち着かないし……何か、嫌だ」
その言葉に、フランチェスカは眉根を寄せる。
「ですが、ガブリエルったら殿下じゃないと反応してくれないんです」
ワンッ‼︎ワンッ!
「それに、ガブリエルはリカルド様にそっくりですし……殿下という愛称もいい気がしまして」
クズ犬同士で!
先日書斎の本棚を見ていたら、懲りずにまた他の本と同じように堂々と艶本が並べられていた。その事を彼に指摘すると……。
『これは、浮気したいとかではないからな!これはフランチェスカとする為に参考にしようとしただけだ!』
朝からそう叫ぶ彼はクズ以外の何者にも見えない。因みに、リカルドとフランチェスカは既に床を共にしている。彼の性癖はよく分からないが、全身舐められるのだけは勘弁して欲しい。そして、彼が物凄く気にしていた事だが……特に問題はなく、最後までする事が出来た。
『初めてだ!フランチェスカ!……本来はこんなに気持ちがいいものなんだな……フランチェスカ、もう1回したい‼︎もう1回‼︎』
かなり興奮した様子のリカルドは、フランチェスカにしつこく強請って来た。
クズ犬が、盛っている……これには、かなり引いた。だが一応承諾を得ようとするあたりだけは、褒めてあげない事もない。
それからというもの、クズ犬は嘘のように一晩で何度も何度も盛りに盛り……正直、身体がもたない……。最近は寝不足気味だ。
フランチェスカは、未だガブリエルと睨み合いをするリカルドを見遣る。
本当、しょうもない人……。
ふと、彼に嫁いだ日を思い出す。
『君を愛する事は絶対にない、何故なら僕には愛する人がいる』
初めて彼から貰った手紙。
そして今手にしているのは、こんな辺境の地まで追いかけて来て渡された手紙。
まさか、また手紙を手渡されるなんて思っても見なかった。いやそれ以前に、また彼と会う事があるなんて……思わなかった。
「フランチェスカ!ガブリエルとアレキサンドロスと私の中で誰を1番愛している⁉︎」
また、下らない事を……フランチェスカは、呆れ顔になる。
「はい、はい。そろそろ休憩はお終いです。リカルド様、お仕事にお戻り下さい」
不満そうな顔で文句を言うリカルドに、思わず笑ってしまう。彼といると物凄く面倒臭い事ばかりだ。だが退屈は絶対にしない。きっと、これかもずっと。
『君だけを愛する事を誓う、何故なら私には君しかいない』
私も、貴方を愛してます。
言わないけど。
お終い




