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あれから特に飼い主らしき人物は現れなかったので、結局あの子犬を、飼うことになった。
「ガブリエル」
……。
「ガブリエル?」
……。
どうしたのかしら。機嫌でも悪いのかしら……。
子犬ことガブリエルが屋敷に来てから3日。中々名前が決まらなくて、ようやく今日命名したのだが……反応が悪い。
「……殿下?」
ワンッ‼︎
何となくそう呼んでみたが……まさか反応するとは。
殿下は四六時中フランチェスカの後ろを付いて来た。食事、散歩、読書、ベッドの中にも入り込んで来る。無論可愛いのだが……。
谷間に顔を突っ込み寝る犬なんて、前代未聞だわ……将来クズ犬になりそうだ……。
「……」
フランチェスカは、殿下を確りと抱き締め眠りに就いた。
そんな日々がひと月程続いたある朝。
う~ん……なんかいつもより殿下の手触りが悪いような……。
フランチェスカは寝惚け眼で確認した。すると抱き締めている筈の殿下が、ベッドの下でヴゥ~と唸っている。
じゃあ、今私が抱き締めているのは……。
「きゃあ⁉︎で、で、殿下⁉︎」
「う~ん、フランチェスカ……」
むぎゅ。スリスリ。
このクズ犬が‼︎
「殿下……一体何をされていらっしゃるのですか」
怒りを堪えながらフランチェスカは、取り敢えず尋ねてみた。
「見れば分かるだろう。フランチェスカと一緒に寝ているんだ」
むぎゅ。スリスリ。
「そうではなく、何故殿下がこちらにいらっしゃるのですか」
「……ダメなのか」
普通に考えて、ダメですよね。拗ねた様にリカルドは口を尖らせた。
「ダメです」
「何故だ‼︎」
「……あのですね、殿下。陛下からお伺いになられていないんですか?」
「……」
リカルドは聞こえないフリをしてフランチェスカの胸元に顔を埋めていた。だが、その時。
ガブッ。
「っ……痛っ⁉︎」
殿下がリカルドの足を噛んだ。
ヴゥ~。
リカルドは勢いよく起き上がると、殿下と睨み合いを始めてしまう。
この光景……以前も見たような……。フランチェスカは思い出し、苦笑する。
にゃあ。
「あら、アレキサンドロス。貴方もいたのね」
リカルドと殿下ガブリエルが睨み合いをする中、横をすり抜けアレキサンドロスがフランチェスカの元へやって来た。ひょいと、アレキサンドロスを抱き上げ頭を撫でると嬉しそうに喉を鳴らした。
「なっ‼︎ずるいぞ‼︎」
キャンッ‼︎キャンッ‼︎
そっくりな反応を見せる1人と1匹に、フランチェスカは脱力した。
この面倒臭い感じ……懐かしいわね……。
ため息を吐いた。




