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「フランチェスカ、フランチェスカ⁉︎どこだ⁉︎フランチェスカ‼︎」
朝目が覚めるとフランチェスカの姿がなかった。どうせ早く目が覚めてしまい読書でもしているのだと、いつもならそう思うだろう。だが、今朝は違った。
何故か心臓が煩い。嫌な感じがする。リカルドは屋敷中を探し回るが、何処にもいない。
使用人達に訪ねても皆一様に首を横に振るだけで役に立たない。
その後、どんなに探しても彼女はいなかった。リカルドはその場に崩れ落ちた……。
「フラン、チェスカ……」
にゃあ……。
アレキサンドロスがリカルドに擦り寄ってきて、寂しそうに鳴いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
フランチェスカは馬車に揺られ、窓の外をただ眺めていた。今向かっている先は郊外にある小さな町で、王都からは随分と離れた場所だ。
もうリカルドとも会う事はないだろう。
町外れに聳え立つ屋敷に到着し中へと入ると、一足先に到着していた使用人達に出迎えられた。
これからは、隠居生活だ。のんびりと穏やかに暮らせる。
国王陛下からも多大な謝礼を頂いている故、生涯経済的に困る事もない。その際に嫁ぎ先も紹介すると言われたが、丁重に断った。再婚はしない。ずっと1人でいい……もう、面倒ごとは懲り懲りだ。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
なんだかんだで、町に来て半年が経った。フランチェスカは趣味の読書や、これまでする事の叶わなかった土弄りなどをして過ごしている。
母からは幼い頃から淑女たるもの……を常に叩き込まれてきた故に、叶わない事が多かった。土弄りもその一つだ。
「よしよし、綺麗に咲いてるわ」
綺麗に咲き誇る花々を見たフランチェスカからは、笑みが溢れた。
「……」
平和だ。ずっとこんな日々を望んでいた。自由で、何の柵もない生活を。
「……」
望んでいた筈なのに、この虚無感は一体何なんだろか……分からない。退屈というより、物足りない様なそんな感じがする。
ワンッ。
暫くぼうっとしてしゃがみ込んでいたフランチェスカの耳に、意外な声が聞こえてきた。
「犬……?」
フランチェスカは訝しげな表情を浮かべながらも声の方へと向かう。そして裏庭の植込みを掻き分けた。
ワンッ‼︎
目が合った……子犬と。真っ黒な毛並みの子犬はフランチェスカの存在を認識すると、ヨタヨタとしながら近寄って来る。迷い犬だろうか?
子犬は足に顔をスリスリとさせると、しゃがみ込んでいるフランチェスカの膝の上に乗ろうとしてくる。
キャンッ!キャンッ‼︎
子犬の短い足では、膝に上れなかったらしくフランチェスカを見上げて甘えた声を出す。まるで乗せろと言わんばかりだ……。
可愛い……可愛いのだが、ちょっと図々しい気が……。
「……」
つぶらな視線に耐えられずに、フランチェスカは子犬を持ち上げ膝に乗せてやった。すると、子犬は我が物顔で横になり足に顔をすりすりしながら寝てしまった……なんか、誰かに似ている気が……。
やはり、図々しい……。
フランチェスカはどうしたものかと悩んだが、子犬を抱き上げると屋敷の中へと入って行った。




