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終了しました。
頭の中に、そんな言葉が浮かんだ。今目前にいる女性は、誰がどう見てもリカルドの愛人だろう。でなければ、こんな風に屋敷に乗り込んできて、形式上ではあるが妻のフランチェスカに、喧嘩を売りにはこない。
平和な日々が、終わってしまった……。
「貴女の様な女に、リカルド様の妻なんて務まる筈がないわ」
先程から続く暴言にうんざりしながらも、フランチェスカは至って冷静だった。お茶を啜りながら彼女の話を聞いている。その事で女性は更に腹を立てた様子で、テーブルクロスを引っ張りひっくり返した。
流石にこれでは、お茶どころではない。
全く、しょうもない。
フランチェスカの為に、焼いて貰った菓子は地面に落ち潰れた。
「私の事はどう非難して頂いても構いません。ですが、食べ物を粗末になさるのは頂けませんね。食材にも、作って下さった方にも失礼です」
「う、煩いわね!そんな事はどうでもいいのよ!兎に角、リカルド様と今直ぐ別れなさい‼︎」
女性の物言いに、フランチェスカは苛っとする。
こういうのは失礼だが、随分とお頭が弱そうな女性の様だ。
リカルド殿下は、この様な女性がお好みなのかしら……。
そんな事に興味もないし、どうでもいいがこちらに被害が出るなら話は別だ。
「あのですね。何処のどなたかは存じ上げませんが、挨拶も無しにいきなり人様の屋敷に上がり込んできて、挙句に暴れて暴言を吐くなど人としてあり得ません。そもそも、私と殿下は政略結婚ですので、私からは離縁など出来ません。故に、どうしても離縁しろと仰るなら、殿下ご本人に申して下さいますか?私の所に来られても、迷惑です」
フランチェスカはそれだけ言い切ると、地面に落ち潰れてしまった菓子を拾い籠に戻した。側で控えていた侍女達が慌てて、止めに入る。
「フランチェスカ様、お手が汚れます故……」
「大丈夫よ。それに折角作ってくれたのに、申し訳ないじゃない」
フランチェスカは、最後まで拾い終わると女性に向き直った。
「まだ、いらしたんですか?リカルド殿下に、お話し下さい」
「なら、リカルド様を出して!暫く私の所に来て下さってないのよ!ここにいるんでしょう⁉︎」
フランチェスカはここで、ピンときた。これはまさか……。
「兎に角、殿下は不在ですのでお引き取り下さい」
女性は、まだぎゃあぎゃあと騒いでいるが、使用人に引きずられる様にして連れて行かれた。
リカルド殿下は、今どちらにいるのかしら。