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ガタッ。
フランチェスカがゆっくりとクローゼットを押すと、意外にもすんなりと扉は開いた。そしてそこには、下に蹲り膝を抱えているリカルドの姿があった。本当に幼子の様だ。苦笑いせざるを得ない。
「でん……」
殿下……いつもの癖でそう呼ぼうとした時、部屋の扉が開く。
「リカルド、君いくつだっけ?」
そう言いながら中に入って来たのは、レアンドルだった。彼は底意地の悪そうな笑みを浮かべて、リカルドを見下ろす。
「まるで、幼児だな。情けない。それでも王子なの?本当、昔から1人だけ出来が悪いよね。要領が悪い、覚えも悪い、何をやらせても半端で役にも立たない。三兄弟の中で君だけだよ。……これじゃあ、王妃が君の事見捨てるのが分かるよ」
レアンドルは、鼻で笑った。
この人は、なんて事を言うのだろうか。それでも、血を分けた兄弟なのだろうか。フランチェスカは、言い知れぬ怒りが込み上げてくる。
「ねぇ、リカルド。君の妻のフランチェスカ、僕に頂戴?いいよね?君みたいな出来損ないに彼女は勿体ない」
フランチェスカは複雑な思いで、リカルドを見る。彼の顔は青ざめていて、言葉が出ないようだった。多分、レアンドルが怖いのだろう。僅かに身体が震えている……。
「まあ、君の許可なんて必要ないか。だって君は僕に逆らう事なんて出来やしないんだから」
ぐっと、フランチェスカは手に力を込めた。
いくら兄弟だろうと、例え王太子だろうと流石にこれ以上は黙って見ている事は出来ない。
ゲス過ぎる……。
だがここでリカルドを庇えば、王太子に楯突いたとフランチェスカが罰せられるかも知れない……首ちょんされたりして……。
「……」
フランチェスカはリカルドを、真っ直ぐに見遣る。
情けない。いい年した大人が震えて膝を抱えている。リカルドに耳と尻尾が付いていたら、完全に垂れ下がっていることだろう。
……こんな人が、自分の夫など正直恥ずかしい。
分かっている。こんなクズ犬の為に、自分の人生棒に振るなんてどうかしてる。普通に考えればこのままリカルドとは離縁して、レアンドルのいう通りに彼の側妃だろうが、愛妾だろうがなった方が賢いのだと、分かっている、分かってはいるが…………。
でも、性に合わないのよね……だって、離縁してまた嫁ぐなんて、面倒じゃない。
それに私、クズよりゲスの方が何百倍も大っ嫌いなの。
内心莫迦な自分に、笑ってしまった。
フランチェスカは、レアンドルに向き直ると口を開いた。




