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「殿下⁉︎」
あれからフランチェスカ、リカルド、レアンドルで話をしていたが暫くするとリカルドは席を立ち、無言で部屋を出て行ってしまった。
フランチェスカは、レアンドルを見た。彼は動じる事はなく優雅にお茶を飲んでいる。
ここに来てフランチェスカは、この兄弟の関係性を理解した。
なるほどね。
「出来の悪い弟で申し訳ないね」
口では謝罪しているが、明らかに愉しそうに見える。彼とはこれまで挨拶程度しか関わりがなかったが、まさかこんな性根が悪いとは。
あれだけ嫌味や見下された発言をされたら、誰だって嫌になるに決まっている。とんだ食わせ者だ。
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「リカルドは、いつもあんな感じなの?」
次の日、フランチェスカが読書をしていると不意にレアンドルからそう聞かれた。彼を見るとかなり寛いだ様子で、長椅子に座ってお茶を飲んでいる。
リカルドとは違う意味の苛々感がある。
「まあ、そうですね」
「ふ~ん。……全く、いい年して情けない弟だよ」
レアンドルは大袈裟に、ワザとらしく肩をすくめる。
「少し度は過ぎますが、夫婦ですから……時には甘えるのもいいと、私は思います」
時にはではなく、毎日だが。そこは伏せておく。レアンドルに話せば嬉々とするだろうが、これ以上話を広げたくない。面倒臭い。
それに、いい年してと言うが……レアンドルもフランチェスカからしたら、リカルドと同じ様なものだ。
いくら弟の屋敷とはいえ、よくまあ人様の屋敷でここまで寛げるものだと逆に感心してしまう。長椅子に寝転び足を組み、お茶のお代わりまで要求してくる始末だ。
貴方もいい年して、礼儀がなっていないのでは⁉︎と思うが言えない。
「フランチェスカ、肩を揉んでくれ」
ブッ飛ばす……あら、やだ私ったら、オホホ。
だが相手が王太子じゃ無かったら絶対にやっている所だ。
平常心、平常心。相手はこの国の第一王子で王太子殿下で、しかも一応夫の兄で義兄だ。肩を揉むくらいするのが普通……ではないが、断れば角が立つ。
「承知致しました」
フランチェスカはぐっと堪えると、諦めてレアンドルの肩を揉み始めた。
「フランチェスカ」
先程から気になっているが、何故呼び捨てにされないといけないのか。レアンドルにとってフランチェスカは義妹ではあるが、弟の妻を呼び捨てにするなど不謹慎だ。
「リカルドとは、夜はどうしてるの?」
この人は一体どういうつもりなのか。こんな真っ昼間からする話ではないし、やはり弟の妻にする話でもない。
「嫌ですわ、殿下。その様な無粋な事女性になさるものではあまりませんよ」
ここは適当に受け流すのが正解だ。
「つれないな。僕は君とそういう話をしたいんだけど……フランチェスカ」
レアンドルは振り返ると、徐にフランチェスカの腕を掴んだ。そして勢いよく彼の方へと引かれた。
「きゃっ⁉︎」
予想外の事態にフランチェスカは体勢を崩し、レアンドルに抱きつく形で倒れ込む。
「フランチェスカ、君は知らないかも知れないけど……本当は、君を僕の妻に迎えるつもりだった。だが、余計な邪魔が入ってマグリットを妻に迎える事になってしまってね」
マグリット、現王太子妃だ。以前舞踏会で見かけた事があるが、彼女は身体が弱く余り社交の場には姿を現さないのでフランチェスカはそれ以上は知らない。
「王太子殿下、お戯れが過ぎます」
フランチェスカは、レアンドルから離れようとするが中々離してくれない。
「嘘じゃない。僕は君が欲しい。聡明で美しく、何者にも屈しない程の強い瞳……ずっと、僕が狙ってたのに。まさか、あの出来損ないに取られるなんて予想外だったよ」




