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フランチェスカは、暫く放心状態だったが我に返った。
え?これは、何?一体何が起きているのだろうか……。
戸惑いながらリカルドへ視線を向けた。すると彼は、いかにも満足そうな顔をしている。
「あの、リカルド殿下……1つ、お伺いしても宜しいでしょうか」
そして今、もの凄く気になっている事がある。
「なんだ」
「何故、手紙なんでしょうか……」
目の前にいるにも関わらず何故手紙を……謎過ぎる。回りくどい事が好きじゃないと言っている割には、既に回りくどい。直接渡すなら、直接お話し下さい。面倒臭い。
「私は優しいんだ」
いきなり自画自賛するリカルドに、フランチェスカの顔は引き攣る。
「それはどのような意味で……」
「直接、申したら君が傷付くだろう。故に、わざわざ手紙に認めたんだ」
それはまた、お気遣い痛み入ります……なんて、誰が言うと思うんですか!寧ろ普通に考えて、形が残る手紙の方が傷が深くなります。まあ、私は貴方に興味ありませんのでどちらでも構いませんが……全く、どんな理屈ですか。呆れてしまう。
これまでリカルドとは、挨拶を交わした程度しかない。故に彼がどの様な人柄かは知らなかった。まさか、この様な人物だったとは……。
これは政略結婚なのだ。別に彼が他所で女性をいくら囲った所でフランチェスカは何とも思わない。愛妾の1人や2人、貴族なら珍しくもない。だが、それを堂々と……いや、少し遠慮はしているが。
兎に角、わざわざ相手に伝えるのは如何なものかと思う。
素直なのか純粋なのか、はたまたお莫迦なのかは、分からないが。兎に角、面倒ごとには巻き込まないで欲しい。
「それはまた、私などに殿下のお心を砕いて下さり痛み入ります」
先程は、いう筈がないと思ったが、口を突いて出たのは我ながら陳腐な言葉だった。
「君が、物分かりが良くて助かる。私の事はいないものと考えてくれ。何でも、好きにしてくれて構わない。ただし、私の事には一切の干渉を許さない」
それからリカルドは暫く屋敷に姿を見せる事はなかった。
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平和だわ。
嫁ぐ事が決まった時は、どうなるかと思ったけど……まさか、こんな穏やかな生活が出来るなんて。
フランチェスカは優雅にお茶を啜る。手入れの行き届いた中庭で、本を読みながら過ごすのが日課になっていた。
こうしていると自分が結婚している事など忘れてしまいそうだ。
だがこの平和な時間に、突如終わりを告げる事になる。
いつも静かな屋敷内が急に騒がしくなった。バタバタと足音が聞こえ、使用人達が騒ぐ声がする。
「お待ち下さい!」
一際声が大きく響いた時だった。
「貴女ね⁉︎リカルド様の妻は」
見知らぬ女性が、フランチェスカの前に現れた。