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「フランチェスカ!仕事が終わった」
半日以上リカルドは、机に向かって黙々と仕事をしていた。
その姿にやれば出来るじゃない、とフランチェスカは少し感心した。
「お疲れ様です、殿下」
満面の笑みでこちらにきたリカルドを犬の様だ……と思い、フランチェスカは無意識に頭を撫でた。するとリカルドは、嬉々とする。
「フランチェスカ、もう一度してくれ」
一瞬何を言われたか分からなかったが、頭をこちらに傾けている姿に「あぁ……」となった。
なでなで。
「フランチェスカ、もう一度」
なでなで。
「もう一度」
いい加減、しつこいわね。本物の犬なら幾ら撫でてあげても構わないが……こんな、クズ犬いらないわ。
「フランチェスカ、約束通り仕事はした。さあ、私にご褒美を」
「あら、殿下。もうご褒美は終わりましたよ?」
その瞬間、リカルドは不思議そうな顔をした。
「頭撫で撫でしたではありませんか」
「は?ご褒美は、口付けだった筈だ!」
リカルドは、噛み付いてくるがフランチェスカは、笑顔で返した。
「あれだけ撫でる様に要求してきたのですから、ご褒美を変更させて頂きました。私そんなに奉仕精神を持ち合わせていないものでして」
「騙したのか⁉︎」
若干涙目になりながら訴えてくるリカルドの姿に、この人は本当に王子なのだろうかと疑いたくなる。まあ、騙したと言われればあながち間違ってはいないので、フランチェスカにも非はあるが。
「なんとでも仰って下さって構いません。本日の営業は終了しました。また、明日ご利用下さいませ」
フランチェスカは、ふふんと鼻を鳴らした。この台詞は以前買い物に出かけた侍女から聞いた言葉だ。店に着いたものの、誰もいなく代わりに入口にこの内容が貼り紙されていたそうだ。
まさか、使う日がくるとは思わなかった。
「また、明日だと?」
「はい。また明日、ですよ。ご褒美が欲しいなら、頑張ってお仕事なさって下さいね?殿下」
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仕事をしているリカルドを見て、フランチェスカは満足そうに笑みを浮かべた。
偉い、偉い。今日もちゃんと仕事してるわね。
初めはご褒美で釣って毎日仕事をするように仕向けたが、10日も経てばご褒美がなくとも習慣付いてそれがなくとも仕事をするようになった。
犬の躾の仕方と似ている……。
最初は餌で釣るが、その内餌がなくともお座りをしたり出来る様になる。まさに、それだ。
しかも、未だご褒美の口付けはしていない。あの後、次の日も次の日も頭を撫でて誤魔化し続けている内に、リカルドは諦めたのか言わなくなった。
だがその理由を後から知ったフランチェスカは、意外で驚いた。
「しつこくして、フランチェスカに嫌われたくない」
そう侍女に洩らしていたそうだ。侍女は、微笑ましそうに話していた。だがフランチェスカは、少し罪悪感を感じる。
今回は、私にも非があるし反省しないとね……。
仕事を懸命にこなしているリカルドを見て、フランチェスカは苦笑した。




