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何か静かだわ。リカルドがいないと、こんなにも平穏なのかと改めて噛み締めてる。
彼が不在、3日目の事。朝方、まだ外は薄暗いというのに屋敷内が騒がしい。流石のフランチェスカも、まだ眠っている時間だ。
「フランチェスカ‼︎」
不意に廊下から、明らかに自分の名を叫ぶ声が聞こえた。睡魔に負けたフランチェスカは、聞こえなかった事にして寝直す事にする。
聞こえない、聞こえない……。
幻聴だわ……こんな朝から、不在であるリカルドが廊下で自分の名を叫んでいる筈がない。いや、あって欲しくない……。
「フランチェスカ‼︎」
無視を決め込んだ矢先から、扉は勢いよく開け放たれた。せめて、ノックくらいして欲しい。まあ、されても返事などしないが。
「……」
フランチェスカは、シーツを頭から被り寝たフリを決め込んだ。
「フランチェスカ」
「……」
無反応でいると、まさかのベッドに潜り込んできた。
余りの事に声を上げそうになるが、寝たフリをしていたのがバレる……。寝返りを装ってリカルドから遠ざかるが、背中から抱き締められた。
「⁉︎」
これ、どういう状況なわけ⁉︎
「フランチェスカ……」
暫くフランチェスカが、硬直していると背後から寝息が聞こえてきた。まさか、この状態で寝たの……?
彼を起こさない様に、身体を反転させると本当に寝てた。
日も登りきらないという時間に、まさか帰宅するなんて……しかも、今日はまだ3日目の朝だ。実質2日間程しか経っていない。
何か、あったのかしら……愛妾の内の誰かと仲違いでもした、とか?
確りと自分を抱き締めて眠りに就いているリカルドの所為で、フランチェスカは起き上がる事も、気になってしまい、寝直す事も出来ずそのまま数刻過ごす羽目になった。
暇すぎる……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「殿下、如何なさったのですか」
「何がだ」
彼はあの後起きたかと思ったら、何事もなかった様に食堂に直行し、食事をしている。
「いえ、まだ2日程しか経ちませんのに……お帰りになられたので」
「……ここは私の屋敷だ。いつ何時戻ろうと構うまい」
いや、構います!せめて常識的な範囲の時間内でお願いしたいのですが⁉︎
「まあ、そうですね……。それで殿下、愛妾の方々と仲違いでもされたのですか」
そうでなければこんなに早く戻って来る理由がない。何しろ13人もいるのだ。5日間では、足らない事はあっても、余る事はないだろう。
「いや、特別何もない。何故だ」
リカルドの意外な言葉に、フランチェスカは目を丸くした。
「いえ、随分とお早いお戻りでしたので……」
折角のんびり過ごしていたのに、私の休息が……内心項垂れるフランチェスカをよそに、リカルドはしれっとしている。
「つまらなかったんだ」
「……はい?」
彼の意外過ぎる言葉に、フランチェスカは更に目を丸くする。
「だから、つまらなかったと申しているんだ。どうせなら少しずつ顔を出そうと思い、この2日余り愛妾の屋敷を渡り歩いていた」
なんと欲張りな……。
「だが、誰を抱いても、つまらないとしか感じなかった」
殿下、今まだ朝なのですが……そんな堂々と……しかも発言が、クズ過ぎる。
「これまでは、そんな風に感じた事がなかったんだ……さ、最後までした事はないが、それなりに興奮はして、愉しめていたんだ」
何故私は、朝食を摂りながら彼の閨の話を聞かされているのだろうか……そうでなくとも早くに起こされ怠いというのに。
ついでに「最後までした事はない」の部分だけ、やたら小声だった。気にしているのね……。
「だが昨夜、ニーナを抱いている時、つまらな過ぎて我慢できなくなった」
それはまた、かなりお相手に失礼な話ですね。
「ふと頭に、君の事が過ぎったんだ」
「え……」
不意打ちに、フランチェスカは思わず頬を赤く染めた。
「何故か、君から頭突きをされた時の事が頭からはなれなくなった……」
それはまた、何故でしょうね~不思議です、本当に!
今この場でもう1度お見舞い致しましょうか?オホホ。
フランチェスカは引き攣った笑顔で、リカルドを見ていた。




