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リカルドが屋敷に滞在して10日目。
フランチェスカは難航していた。思うようにリカルドの教育が進まない。
予想以上に手強い……。
この10日間で進歩した事と言えば、リカルドから謎に懐かれている事だけだ。
今も勝手に部屋に入って来たかと思ったら、膝に頭を置いてきた。悪い傾向に向かっている気がしてならない。
「……殿下、そろそろ準備なさって下さい。今夜は舞踏会です」
「……面倒だ。欠席する」
いやいや、あり得ませんから!そんな選択肢は用意されておりません‼︎
「いけませんよ、殿下。今夜は、一応殿下の妻としての私のお披露目なのですから」
主役不在など許されない。しかも理由が面倒……クズ過ぎる。
「それに舞踏会には、殿下が大好きな愛妾の方々も出席されるのではないのですか?久々にお会い出来ますよ?」
兎に角、行く気にさせなければ。まさか、大の大人を引きずって行く訳にはいかない。餌を吊るせば、やる気が出るかも知れない。
「……そうか」
あら、反応した。今正に、餌に食いついた状態だ。
「なんなら、そのまま何方かのお屋敷にお泊まりになられても宜しいですよ、オホホ」
10日、我慢させた。かなり色々と溜まっているだろう。この辺りで一度発散させた方がいい。また変な気を起こされても面倒だ。
「但し、5日間だけです。それまでに屋敷にお戻り下さい」
リカルドは急にやる気になり、いそいそと準備を始めた。まるで催しごとの前の子供の様だ。
全く、手の掛かる事だ……。フランチェスカは、ため息を吐いた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
挨拶、紹介、ファーストダンスとこなして、ようやく落ち着いた。フランチェスカは横目でリカルドを見遣る。
普通だ。
屋敷でのリカルドの面影などまるでない。極一般的に称される紳士そのものだ。
立ち居振る舞い、話し方まで全てが彼じゃないみたいだ。あの5歳児以下は、一体どこへ……。
確かにこんな場所で、あんな風に振る舞われたら周囲は唖然となるだろう。一応、彼なりに使い分けているわけだ。
なるほど……表の顔はこんな感じなのね。
もう2人でいる必要もない故、フランチェスカはリカルドからは離れ壁際に避難する。程なくして、彼が御令嬢達にとり囲まれているのが見えた。
あの令嬢達が彼の裏の顔を知っても尚も、あんな風に話し掛けてくるのか……答えは否だろう。そう考えると滑稽に見えてしまう。
フランチェスカは、思わず苦笑した。
彼はずっとああやってやり過ごしてきたのだろうか……。
だがそうなると、愛妾達にはどちらの顔を見せているのかが気になってくる。
「……まあ、私には関係ないわね」
フランチェスカは、それから暫くして舞踏会を1人後にして、屋敷に帰ってきた。
帰り際、彼と女性が2人きりで中庭にいるのが視界に入った。愛妾の1人だろうか……きっと、今夜は彼女の屋敷に行くのだろう。
リカルドは数日は屋敷に帰らない。5日間と提示したが、口約束に過ぎない故実際はいつ戻ることやら。
彼が戻り次第、また教育を再開しなくてはならない。新たな戦略を考えないと……自分の身の為に。
フランチェスカは、最近異様に疲労していた。理由は明白だ。
暫く元凶がいない間に、確りと身体を休ませましょう……。
フランチェスカは、1人ベッドで眠りに就いた。




