プロローグ
侯爵令嬢のフランチェスカは、政略結婚をしてこの国の第三王子のリカルドに嫁ぐ事になった。
リカルドの屋敷の前で馬車は止まる。
程なくして、馬車の扉は開かれ執事の恰好をした男がフランチェスカを出迎えてくれた。
執事に案内され、客間に通された。
「暫くお待ち下さい」
そう執事から言われ、フランチェスカは長椅子に腰を下ろす。
執事が部屋を出たのを確認すると、フランチェスカはため息を吐く。まさか、第三王子に嫁ぐ事になるとは。正直気乗りしない。
別にどこに嫁ぎたいなど希望があった訳ではないが、王族は論外だ。面倒ごとは性に合わない。
適当な貴族の家に嫁いで、可もなく不可もない生活で十分だったのに……。両親が勝手に話を進めてしまった。
『これで、貴女も王族の仲間入りよ』
母は嬉々としてそう話していた。
何が王族の仲間入りよ……下らない。
そんな事を考えていると、扉を叩く音がした。フランチェスカに緊張が走る。相手は何しろ第三王子だ。粗相があっては家名に傷がつく。
フランチェスカは、慌てて立ち上がると正式な礼をとる。
「フランチェスカ嬢」
いきなり名を呼ばれ、心臓が跳ねた。
「これを、受け取って欲しい」
その言葉に、フランチェスカは恐る恐る顔を上げリカルドを見た。彼は何やら封書の様な物をこちらに差し出している。
「……」
フランチェスカは、受け取って良いものか悩むが戸惑いながらそれを手にした。
これは……手紙?
「今直ぐに、中身を検めて欲しい」
深刻な面持ちの彼に、思わず喉を鳴らす。一体何が書かれているのだろうか……。開封するのが怖い。
しかし、王子殿下から言われては開封せざるを得ない。
「承知致しました。検めさせて頂きます」
挨拶もなしにいきなり封書を突き出してきて、これは余程の事に違いない。封を開けながら、フランチェスカの頭の中に様々な憶測が浮かんでくる。そして、中身を見た……。
『フランチェスカ嬢
僕は回りくどい事が好きではない。故に単刀直入に言わせて貰う。
君とは政略結婚で、仕方なしに夫婦になった。
だが今後、何があろうとも、君を愛する事は絶対にない、何故なら僕には愛する人がいるからだ。
リカルド』
フランチェスカは、硬直するしかなかった。