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23.攻略対象キャラ同士の戦い

「レイチェル! これはどういうことだ!?」


 婚約者の自分にエスコートを断わられたレイチェルが、イヴァン以外の男を連れてくるとは思っていなかったため、レオンハルトは声を張り上げた。

 ホール内に響いたレオンハルトの大声に、生徒達は一斉に閉口し辺りは静まり返る。


「誰だお前は? 何故無関係な者が夜会に来ているのだ!?」


 生徒達が注目する中、足音高く歩いてレイチェルに詰め寄ったレオンハルトは、今にも掴みかかる勢いでアレクシスへ問う。

 横柄なレオンハルトの態度に、顔には出さなくてもアレクシスが苛立つのが分かり、ラクジットは仕方無いと溜め息を堪えて彼等の前へ進み出た。


「無関係な者ではなく私の兄、アレクと申します。エスコート役でなら家族の参加も可、と生徒会からの夜会の案内書にありましたよ」


 念のため持ってきた案内書をカイルハルトから受け取り、眉を吊り上げるレオンハルトへ手渡す。

 難癖つけたくとも、案内書は生徒会長レオンハルトのサイン入りなのだから言い逃れは出来まい。


「殿下がレイチェルさんのエスコート出来ない、ということを聞いたので学園祭へ来ていた私の兄に頼みました。前日の夜の連絡では、お兄様のイヴァン様のご都合はつきませんからね」


 案内書に書かれていることには何も違反はしておらず、逆に生徒達の前で婚約者を蔑ろにしたと遠回しに批判されたレオンハルトは小さく唸る。


「レオンハルト殿下」


 黙ってやり取りを見ていたアレクシスが口を開き、ラクジットは冷や汗が背中を伝うのを感じた。


「殿下にお答えしていただきたい。帝国では婚約者のエスコートをせず、他の女子をエスコートすることは何も問題は無いのですか?」


 先程までレイチェルへ向けていた甘い表情を取り払った冷たい表情で、アレクシスはレオンハルトを見据えた。


「貴様っ、何が言いたい」


 いくら魔具で魔力を抑えて髪色を変えていても、瞳の色を変えるまでは魔力を抑えていないアレクシスの苛立ちで彼の周囲が歪む。

 堕落していても皇子、本能で魔力の強さを感じとっているらしいレオンハルトは、声の威勢は良くても腰が引けている。


(外見も実力も勝てないのだから、あまりアレクシスを刺激しないでほしいわ)


 思わずラクジットは眉を寄せた。

 幼い頃、前世の記憶の擦り合わせをした時にアレクシスが言っていた一番苦手、嫌いなタイプの攻略対象キャラはレオンハルトだったのだ。


『どんな背景があっても、皇子に生まれた以上、生徒会長なら自制をして他の生徒の手本にならなきゃいけないのに、俺様我儘とか何様だよって思う。上に立つ者としての役目を全うしろって思う』


 一国の王子として、国民のために自分の命をかけて戦っていた幼いアレクシスは怒りを込めて話していた。


 俺様、我儘キャラは嫌いな上に、お気に入りのレイチェルを貶める相手ときたら、何かしら理由をつけてアレクシスはアイリとレオンハルトをボコボコにする気だろう。


「いえ? 俺はただ、明らかに政略上必要な婚約者を蔑ろにして、他の女を優先させているのが皇太子だということ、それを許している者達の常識を疑っただけだ。帝国では……皇子、皇太子は己を律し、国民の手本となる存在で無くともよいのだな」


 一人称が余所行きの私から俺に戻っているし、言葉を区切って言うアレクシスはわざとレオンハルトを煽っている。

 後ろに控える側近が止めたくても、アレクシスから放たれる圧力に圧倒され、周囲の者達は何も口を挟めない。


「何だと!? 俺を、帝国を敵にまわしたいか!?」

「だからなんだ? 貴方が喧嘩を売りたいのなら、受けてやるよ」


 正に売り言葉に買い言葉。

 不穏な空気が流れ始め、アレクシスの後ろに控える側近から助けを求める視線を送られる。

 そろそろ止めるかとラクジットが動いた時、今にも掴みかからんばかりのレオンハルトの前へ、転移陣が展開されていった。


「盛り上がっているところ悪いけど、一時停戦してくれないかな。夜会の後、喧嘩したいなら止めないけど、喧嘩したら確実にレオンハルト殿下は死ぬよ。いいの?」


 呑気な声で喋りながら現れたのは、黒髪の少年、学園長だった。

 口元は笑みを形どっていても、冷たい光を宿した漆黒の瞳は真っ直ぐアレクシスを見ている。


「相手が悪すぎる。彼には喧嘩を売るな。と言うことで、レオンハルト殿下には夜会開始の挨拶をお願いします」


 有無を言わせない笑顔で、学園長は思考が追い付いていないレオンハルトの腕を掴んだ。



 学園長に引き摺られて壇上へ上がった生徒会長レオンハルトの夜会開始の挨拶により、学園お抱えの楽団が軽快な音楽を演奏し生徒たちはパートナーとダンスを始める。


 一曲だけレイチェルとダンスを踊ったアレクシスは、女子達からのダンスの誘いを軒並み断りながら、料理が並ぶテーブルへ向かった。

 さっさとあの場から逃げ出し、満面の笑みで旨そうに料理を食べている片割れに対して苛ついて眉間に皺が寄る。


 “今はコイツを見逃して欲しい。後々、君の望みを叶えるよう口添えをするから。素直に退いてくれたら、この後の多少の無茶も許そう”


 学園長だという魔族が現れた時、頭の中へ直接響いてきた声にも苛立ったが、もっと腹が立つのはレオンハルトと外見からヒロインだと思われる女子。

 学友に声をかけられたレイチェルが離れた途端、体をくねらせて近付き断りなくアレクシスの腕に自分の腕を絡ませてきた無礼なヒロインを撒くのは面倒だった。


『私とも踊ってくれますかぁ?』

『すまないが、私はレイチェル嬢としか踊るつもりはない。擦り寄るのなら、彼方で睨んでいるレオンハルト皇子にするんだな』


 瞳に込めた魔力でアイリの意識に干渉し、自分から離れさせた。

 離れさせただけにしたのは、遠くから感じたエルネストの視線に邪魔されたからだ。


 今だけは無茶を許すと学園長の許可も下りた。

 持ちつ持たれつで片割れにも協力してもらおうと、アレクシスはラクジットの気配を探った。


「ラクジット、探したよ」


 余所行きの笑みを浮かべたアレクシスが気配を消しながら声をかければ、吃驚したらしい片割れは食べていたタルトを吐き出しかけた。




 夜会開始直後、カイルハルトと一曲踊り、その後すぐに壁際の椅子へ移動して一口大のタルトを食べていたラクジットは、真っ直ぐ此方へ来るアレクシスの不機嫌な様子から嫌な予感がして口元をひきつらせる。

 飲み物をトレーへ乗せて配っていた給仕係から果実水入りのグラスを受け取り、戻って来たカイルハルトも何事かと顔を上げた。


「結界を張るから協力して欲しい」


 側に来た途端、アレクシスから言われたことの意味を一度では理解しきれず、頭の中で二度復唱してやっと理解した。


「えっ、何で? まさか、結界内でレオンハルトをボコボコにする気?」


 先程のやり取りでアレクシスはかなり苛立っていたし、結界内へレオンハルトを拉致して憂さ晴らしでもする気なのか。


「阿呆、今ボコボコにしたら国際問題になるだろうが。今はまだ殺らない。ヒロイン気取りの女と馬鹿皇太子の手の者がちょっかいかけてきたら嫌だから張るんだ。レイチェルと離れた途端に、あのヒロインが擦り寄ってきた。何なんだアイツは」


 完全に、目を潤ませてアレクシスを見ていたアイリを思い出して、早速接近していたのかとラクジットは苦笑いになる。


「えーっと、レイチェルに手は出さないよね? いくら手を出したら何でもマズイでしょ」


 結界を張るということは、二人きりになりたいということ。一応、まだレイチェルは皇太子の婚約者なのだ。

  皇太子の婚約者に手を出したら国際問題、面倒なことになる。

 つまりは手を出さない、優しい言葉をかける程度にしてもらいたい。


「は? 初対面同然の男が、いきなりがっついてきたら普通の女の子はドン引きする。そんなのに応じるような女は、ヒロイン脳のビッチくらいだろ。今後の話を、婚約を解消させる後押しをするだけだ」


 婚約者や恋人がいる相手に、アタックする女はビッチとしか思えないと言っていたアレクシスは、はっきりそう吐き捨てた。


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