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21.初々しい反応

 初顔合わせと言うことで、緊張していたレイチェルも目を丸くして固まる。


 髪の色を銀色から黒へ変えたとしても、若い女の子達の視線を一身に浴びる眉目秀麗な美青年アレクシスは、正に乙女ゲーム続編のメインヒーローだと胸を張って言える存在感の持ち主。

 そんな美男子が執務途中のため、かっちりしたスーツ姿で登場したら見惚れてしまうのは仕方ない。



「えー、レイチェルさん? 此方は私の双子の兄のアレクです。仕事の合間に来てもらったから、一緒に居られるのはランチだけだけど」


 固まる二人を交互に見て、ラクジットはレイチェルへ声をかける。

 ハッと我に返ったレイチェルは、大きく体を揺らして立ち上がると、エプロンドレスを持ち淑女の礼をした。


「は、初めまして、レイチェル・サリマンと申します」

「初めまして、レイチェル嬢。ラクジットの兄、アレク・ローラントです」


 一瞬、ラクジットの方へ「どうなっている?」と言いたげな視線を寄越したアレクシスは、胸に手を当てて礼をする。

 アレクシスの反応から、学園祭でメイド服を着るということを伝え忘れていたと気付いたが、ドッキリのつもりだったと後で言っておこうと、ラクジット笑って誤魔化した。


「アレク様、この度は素敵なドレスまで用意してくださいましてありがとございます。お気を使わせてしまい申し訳ありません」

「いえ、貴女のような可愛らしい方と知り合うためなら、ドレスなどいくらでも用意いたしましょう」


 砂糖菓子の様に甘く囁いたアレクシスは、蕩けるようなやわらかな微笑みを返した。

 ツンデレ設定のデレだけを集めたメインヒーローの爽やかな微笑み。

 微笑まれたレイチェルの全身は、一気に真っ赤に染まった。

 効果音を付けるならボフンッという音がしただろう。


「か、可愛らしい、だなんて……そんな」


 動揺のあまり、涙目になったレイチェルは真っ赤な顔を見られた恥ずかしさから、目を伏せて俯いてしまった。


 二人の間で流れる甘ったるい雰囲気に、婚約者と学園祭を楽しんでくると言って別行動をしているオスカーがこの場に居なくて本当に良かったと、ラクジットは安堵の息を吐いた。

 チャラチャラしているオスカーが居たら、この甘酸っぱい雰囲気に堪えきれずに爆笑してしまい、カイルハルトの手で成敗されているだろうから。


 まだぎこちなさは抜けないものの、アレクシスとレイチェルはお互い好印象を抱いたようで、ランチも楽しんでくれているのが見ていて分かった。

 見た目は成熟しているレイチェルが見せた、思春期少女の可愛らしい反応に悶えつつ、アレクシスがエプロンで強調された彼女の胸元をガンガン見ていたのは……後で注意しておこう。




「そう言えば、カイルは私のエスコート役でいいの? 気になる子がいればその子を、」

「俺がエスコートしたいと思う相手は、ラクジット以外はいない。エスコート役は俺で良いだろう?」


「気になる子がいればその子をエスコートしていいよ」と、最後まで言わせてもらえなかったラクジットは、少し苛立ったカイルハルトの迫力に負けて、小さく「はい」と頷いたのだった。




 ***




 可愛い女子生徒がメイド姿で接客してくれサンドイッチも美味しい、と口コミで広まった2年B組のカフェは午後も大盛況で、閉幕時刻よりもずっと早く全メニュー完売という快挙を達成した。


 片付けを終え、今回友好を深めたクラスの女子全員で他のクラスの出し物を見学しに行き、ガールズトークに花を咲かせて楽しく過ごした。

 中庭のランチでのこと、主にアレクシスのことを聞かれた時は、レイチェルが真っ赤になってしまったのが可愛いかったなと、思い出したラクジットはにんまりと笑う。


 日が傾き外を茜色に染めた頃、学園祭昼の部は花火が打ち上げられて終了した。



 そして、辺りに夜の帳が下りると、夜の部、夜会が開始される。


 寮の自室へと戻ったラクジットは、メリッサとユリアに手伝ってもらい夜会用のドレスへ着替え、髪と化粧を整えてもらった。

 姿見に映る自分の姿に違和感があるのは黒髪焦げ茶色の瞳だからか、普段纏わない光沢のある深紅のイブニングドレスを着ているせいか。

 編み込みをアレンジして結い上げた黒髪に映えるよう、髪飾りは艶を消した金と石榴石のアクセサリー。

 化粧は大人っぽく艶やかな印象で、メリッサは元の色合いだと出来ない化粧が出来る、と言って楽しんで施していた。



 寮の建物から出ると、数人の男子生徒がパートナーの女子生徒を迎えに来ており、扉から出てきた私へ彼等の視線が一斉にラクジットへ注がれる。


 寮の扉の前へ立つラクジットへ燕尾服を着たカイルハルトが手を差し伸べると、男子達は一歩下がって道を開けた。


「お待たせ」

「いや……」


 微笑むラクジットを見て、すぐに横を向いたカイルハルトは片手で顔を覆う。

 ドレスが似合わないのかと心配になり、ラクジットはしょんぼりと眉尻を下げた。


「ラクジット、その、綺麗だ」


 繋いだ手からカイルハルトが緊張している感情が伝わってくる。

 どうしたのかと見上げれば、覆っていた手のひらを外したカイルハルトの顔はほんのりと赤く染まっていた。

 照れている時の顔だと気付き、ラクジットは笑顔になる。

 出会ったばかりの頃、遠慮ばかりしているカイルハルト初めて手を繋いだ時と同じ表情。


「ありがとう。カイルも凄く格好いいよ。次は、元の色で正装した姿を見せてね」


 黒髪に眼鏡のカイルハルトもクール男子で格好いいが、元の金髪での正装姿も見てみたい。騎士装束ではない、皇子としての正装姿。


「元の姿……」


 ラクジットの言葉に何か引っ掛かったのか、カイルハルトは目を伏せる。


「何でもない。行こう」


 カイルハルトの腕に掴まり、長いドレスの裾が階段で擦れないよう気を付けながら歩く。

 馬車を使う距離でもないとはいえ、徒歩だと会場まで行くのは時間がかかる。

 長いドレスの裾を汚さないよう慎重に歩いて行かなければならない。


(アレクシスはちゃんと迎えに言ったかな? あのドレスは胸を強調するから、胸ばっかり見ていなければいいけど)


「ぅきゃあっ!?」


 考え事をしていたラクジットの背中と膝の裏へ手を回され、ひょいっと抱き上げられた。

 所謂、お姫様抱っこをカイルハルトにされたのだ。


「こうした方が早い」


 しれっと言うカイルハルトは、何を言っても下ろしてはくれないだろう。

 このまま行くのは恥ずかしいが、仕方無いと諦めてラクジットはカイルハルトの首へ手を回した。


初顔合わせから夜会へと続きます。

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