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04.私と王子様のカテゴリー

 アレクシス・ローラント・イシュバーン


 恋と駆け引きの方程式~魔術師女子高生~2のメインヒーローである。

 日本からトリップをして異世界へとやって来てしまった女子高生ヒロインが、1の舞台である国立学園を無事卒業して、魔術師団の新米魔術師として勤め始めたある日、瀕死の重症を負い倒れていたアレクシスと出会うところから物語が始まる。


 甲斐甲斐しく世話をやくヒロインの優しさで、凍りついていたアレクシスの心は徐々に溶けていく。

 そうして、自分はイシュバーン王国の王子という事、暗黒竜である国王に体を乗っ取られるのを防ぐため、逃亡していた事を明かすのだった。


 イシュバーン王国王子アレクシスの境遇を知り、ヒロインは彼を助けることを決意する。

 学生時代に親交を深めた仲間、皇太子やら宰相の息子、騎士団長の息子、魔術師団長の息子、神官長の息子という攻略対象キャラ達とともに、イシュバーン王国とアレクシスを救うための旅へ出るのだ。




「双子? えっ?」


 えっ? えっ? としか口から出てこない。

 口が壊れてしまったように、ラクジットは何度も繰り返し彼に問う。


 記憶を探ってもラクジットに兄弟はいない。どういうことなのか分からなくなり、混乱のあまりこの場から逃げたくなった。

 眩暈がしてきて視線を彷徨わせるラクジットの右手を、アレクシスは両手で強く握りしめた。


「最近、ちょっとした切っ掛けから俺が双子で、妹がいることを知ったんだ。それで……色々手を回して探して、ラクジットを見付けたから、会いに来た」


 真剣な表情で話すアレクシスはラクジットとよく似た顔立ちをしているのに、彼の瞳は意思の強さが表れているのか、全く違う蒼色に見えた。


「双子ってどういうこと? 兄がいるなんて聞いたことがないわよ」


 前世の知識、ゲームの展開にもファンブックにもアレクシスが双子で妹がいるという説明は無かった。

 ブックブックに載っていた製作陣の裏話インタビューページにもそんな話はなかったし、ネット上でもそんな裏話は無かったと記憶している。


「私達が他人のそら似にしては似すぎているのは見た目で分かるけど、双子ってどういうことなの? 貴方は王子様でしょ? じゃあ、私は……」


 そこまで口にして、ラクジットはハッと目を見開いた。


(あれ? 双子の片割れが王子様なら、私は実はお姫様だったの?)


「そう、この国の王女様だよ」


 あっさり肯定されて、ラクジットの心臓は大きく脈打った。

 前世の記憶が甦ったばかりで、脳の許容量と処理能力が壊れかけていたのに、これ以上のとんでも事実があったら容量の限界で思考停止しそうだ。


「こ、この国に王女がいたって聞いたことがないよ?」

「王女が生まれたのは三百年ぶりみたいだし、君の事は隠されていたから知らないのは当然だよ」

「なにそれっ」


 声を荒げかけたラクジットの唇に、アレクシスの人差し指が当てられる。


「頼むから、大声はださないで。国王と黒騎士にバレたら危険なんだ」


 真剣なアレクシスに圧されてラクジットは頷いた。

 自分とよく似た顔なのに、アレクシスの顔の方が可愛いいと感じるのは何故だろうか。


 それにしても、髪と瞳の色から貴族の子女だろうと思って自分が王女だったとは。ラクジットの事を「姫様」と呼ぶ、メリッサとヴァルンレッドはおそらく知っていたのだろう。


「王の子は代々男子しか生まれなかったのに、男女の双子が生まれたのは前代未聞だったって。男女の双子は不吉だと言われて、王女ラクジットは殺されるか他国へ同盟の証として売られかけたけど、魔力の強さから助かった。今の王の花嫁とするために、その存在を知られないよう離宮で育てられる事になったんだ」

「それなら他国に売られた方が良かったな。離宮に閉じ込められて、国王の花嫁になるのは嫌だもの」


 生まれてすぐに他国へ売られていたら前世の記憶は蘇らずに、王の花嫁という死亡フラグを回避したいと苦悩しなくてもすんだのかもしれない。

 正直に思ったことを言えばアレクシスは苦笑した。


「ラクジット、このまま此処に居たら、君は王に殺されてしまう。俺達の母のように」

「母? お母様?」


 勢いよくラクジットは俯きかけていた顔を上げた。

 アレクシスの母親ということは前王の妃で、出産後すぐに亡くなったラクジットの母親でもある。


「俺達の母は、伯爵家の令嬢だったって。婚姻式直前で花婿が自殺したせいで、決まっていた結婚を破棄され無理矢理前国王の妃にされたんだ。そして、俺達を生んで前王に殺された。当時の事を知っている者達や、俺の乳母に精神魔法をかけて吐かせたから、これは嘘偽り無い事実だ」


 硬い表情になったアレクシスは、ははっと乾いた笑いを漏らす。

 苦し気な彼は、今にも泣き出しそうに見えた。

 無理矢理、妃とされて子を生まされて喰われた母は、国王と我が子達を憎みながら死んでいったのかもしれない。


「え、でもそれって。アレクシスは、国王の正体を知っているの?」

「知っている」


 震える声で言った問いに、顔を歪ませてアレクシスは頷く。


 ラクジットの全身から血の気が引く音が聞こえた。

 苦しそうに顔を歪ませるアレクシスが一番伝えたい事は、まさか。

 導き出した推測が事実ならば、もう鬼畜どころじゃない。

 国王は暗黒竜となって長い時を生きていくうちに、倫理観や道徳心という人として大事なものを消失してしまったのだ。


「国王は、外見は違っても中身は私の父親? 肉体を乗っ取って生き続けるだけでも受け入れられないのに。精神的近親相姦? 生まれた時に決められた結婚相手が、実は父親だったなんて最悪過ぎる」


 ゲームは全年齢対象ではなくて十五歳以上推奨だったが、ラクジットの設定だけ成人向け仕様だった。

 父親に貞操と尊厳と命を奪われるくらいなら死んだ方がマシな気がしてきた。


 足から力が抜けてよろめいたラクジットを、アレクシスが支えようとするが支えきれず二人揃って地面に膝を突く。


「ごめんね」

「いいって、大丈夫?」

「大丈夫じゃない……」


 尻もちをついて敷布の上へ座り込んだラクジットの隣にアレクシスは座る。


「そんな最悪な設定は無かったのに」

「設定?」


 ラクジットの呟きを耳にして、アレクシスは大きく目を見開く。そのままアレクシスはラクジットの両肩を掴んだ。


「ラクジット、君はもしかして前世の記憶があるの? 君はこの世界が何なのかを知っているのか?」


 掴まれた肩をガクガク揺さぶられ、ラクジットは目を白黒させた。


「ぜん、前世の記憶は、あるよ。この世界について、知識として知っているか知らないかなら、知ってるになるのかな。あれ? もしかして、アレクシスも一緒? って、痛い」


 肯定した途端、肩を摘まむ力が強まりラクジットは苦痛を訴える。


「ごめんっ」


 慌ててアレクシスは掴んでいた肩から手を外し、息を吐いた。


「俺も前世の記憶があって、此処がゲームの世界と瓜二つだってことも知っている。だから、ラクジットを探していたんだ」

「うそ」


 メインキャラと双子だっただけでも驚きなのに、双子が揃って前世の記憶を持っているとは。

 呆然とラクジットはアレクシスを見詰めた。


「前世の記憶が甦ったのは半年くらい前かな? 俺の護衛騎士をしているダリル、黒騎士の厳つい奴と剣術の稽古をしている時に、派手に転んで頭を打って気絶したんだ。その時に色々思い出した。最初は頭がおかしくなったのかって混乱したけど、冷静になっていくにつれて、此処が前世の妹がやっていたゲームの世界と一緒の世界観だって気付いた。因みに俺の出身は北海道で、大学生だった」


 この世界と異なる世界の懐かしい地名を耳にして、もう顔を思い出せない前世の夫と行った初夏の北海道の一面に広がるラベンダー畑の風景を思い出し、ラクジットは目を細めた。


「私は11歳の誕生日、国王に謁見している時に思い出したの。前世は首都出身の主婦だったよ」

「年上かぁ」

「年下かぁ」


 同時に発した声は重り、お互い顔を見合わせてしまった。


「でも今は、兄妹だ」

「うん、そうだね」


 瓜二つという程そっくりな訳ではないが、よく似た外見はした双子の片割れが同じ転生者というカテゴリーと分かり、互いに安堵の息を吐いていた。


(私は、一人じゃない)


 記憶にない双子の片割れ。懐かしさを覚えたのは前世の記憶を持った同志ではなく、ラクジットの魂が母親の胎内で一緒に育ったアレクシスの事を覚えているからか。


 繋いだままの手に力をこめれば、彼は同じ様に握り返してくれる。

 手の平から伝わる彼の熱に、目の奥が痛み出してラクジットの視界に涙の膜が貼っていった。


メインヒーローは双子の片割れでした。


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