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08.筋書通りの役割

途中で視点が変わります。

 決意を込めて言った宣言を、暗黒竜は愉快そうに全身を震わせながら嗤った。


 巨体から放たれる笑い声でホール全体が細かく振動し、砂埃が天井から降ってくる。

 一頻り嗤った後、真紅の瞳がギョロリと動いてラクジットを見下ろした。


 《足掻く、だと? お前の存在意義は我の糧となることだ。だが、ここまで我の魂と馴染みがよい魔力ならば、お前を次代の器としてもよいな》

「私は糧にも器にもならない。私もアレクシスも、今ここで貴方から解放されるのよ!!」

 《くくく、解放だと? まぁよい、目覚めの運動がてら可愛い娘の茶番に付き合ってやろうではないか》


 口元と目を歪めて嗤い、三日月状になった瞳を一回瞬きした次の瞬間、暗黒竜の目前に二つの魔方陣が出現した。


「魔法を同時に!?」


 無詠唱で発動させた魔方陣から同時に放たれたのは、氷結魔法と火炎魔法。

 相反する属性の魔法は、左右からラクジットへ向かって襲い掛かった。

 灼熱の炎は咄嗟に張った防御壁で防ぎ、鋭く尖った十数本もの氷柱は身を捻ってかわし、残りは幻夢を振るって斬り落とす。


「同時に魔法を放つなんて反則じゃない!」


 バシンッ!


 長い尻尾が振り落とされて、ラクジットがたった今まで立っていた床が大きく抉れた。

 間一髪、飛び退いて避けたラクジットの体に硬い床の破片が当たり、防御力が高いワンピースを破って肌に細かい傷をつける。


「いぃっ!?」


 体勢を立て直して反撃を仕掛けようと暗黒竜を睨んで、思わずすっとんきょうな声を上げてしまった。


 首を動かした暗黒竜の口元に新たな魔方陣が出没したのだ。

 首を下方へ動かすだけで魔法は発動し、複数の赤い光線がラクジットへと降り注ぐ。

 高熱の光線に僅かでも貫かれたら体に穴が開くどころじゃなく、高温を浴びせられて身体中の水分が蒸発して墨になる。


(流石ラスボス! 超高難度魔法を連発するなんて、とんでもないわ!)


 感服したといっても、攻撃を受けるわけにはいかない。

 下唇をきつく噛み、ラクジットは使える中でも最高レベルの防御壁を展開した。


 ヂヂヂヂッ! パリーン!!


 赤い光線は防御壁で防ぎきったが、防御壁も硝子が割れるように砕け散る。


 今の攻撃は何とか凌いだとはいえ、高レベルの攻撃魔法は何度も防げない。

 こちらは息を切らしているというのに、余裕綽々な暗黒竜は準備運動にすらなっていないのだろう。

 その証拠に繭から降り立った場所から、暗黒竜は一歩も動いていないのだ。


 圧倒的な魔力と体力の差を感じてラクジットは顔を歪めた。

 人と竜の差は埋めようもないとはいえ、このままではラクジットの体力がもたない。

 そもそも、ラスボスに一人で喧嘩を売ること事態が間違っているのだ。

 ゲームのヒロインは麗しい男性にがっちり守られて戦っていたのに、ラクジット一人で倒せるわけない。

 ヒロイン達はどうやって目の前に君臨するラスボスを倒したのか。思い出そうとしても、そこだけは何故か靄がかかったように霞んでモニター画面が見えないのだ。



「これじゃ近付けないっ! あーもうっ!」


 ハァハァと荒い息を吐くラクジットに、暗黒竜は口元を歪めた。


 《娘、この程度の力しか出せぬか?》


 嘲る言い方をされ、苛立っていたラクジットの頭が瞬時に沸騰する。


「トライアイシクルエッジ!」


 力ある言葉に、暗黒竜の足元から3本の巨大な氷柱が出現し一斉に巨体を突き刺した。

 氷柱はバリバリ音を立て巨体を覆いつくし、暗黒竜は氷付けとなる。


「次っ!」


 メリメリ……バリィーン!!


 次の攻撃を仕掛けようと魔力を練ろうとラクジットが動く直前、派手な音と共にいとも簡単に氷は砕け散った。


 《くくくく……愉しませてくれるな。だが、お前の魔力は我には効かぬ。我と似通った魔力は糧となるだけだ》


 ニヤリと嗤う暗黒竜は、長い舌を伸ばして舌舐めずりをする。

 氷の欠片がしゅうしゅうと湯気を立ち上らせ、次々と黒光りする鱗に吸収されていった。


 同じ竜の血を持つからか、ラクジットが暗黒竜と似た性質の魔力を持つためか、魔法攻撃は逆効果だったとは。

 目元と口元を歪ませて、ラクジットは悔しくて下唇を噛んだ。


 《次は我の番だな》


 全ての氷を吸収し終えた暗黒竜は、ぐあっと大きく口を開く。

 牙のびっしり生えた口腔内に紅蓮の炎が発生した。


「炎を吐かれる」と気付いた時には遅く、防御壁も幻夢による防御も間に合わない。

 襲い掛かる熱と痛みを覚悟して、ラクジットは両手を交差させて倒れないように両足に力を入れた。





 ズンッ!


 重い物が動く音がして、床がぐらりと揺れる。


 身を焦がす炎の熱は一向に襲ってこず、代わりに嗅いだことがあるジャスミンに似た香水の香りがした。


「何とか、間に合ったな」


 何時もは余裕たっぷりの声なのに、彼が発した声は焦りが混じった余裕の無いもので。安堵からラクジットの体から力が抜けていった。


「大丈夫か? ラクジット!」


 心配する少年の声と肩に触れた彼の温もりで、彼等に助けられたことが分かったラクジットの瞳に涙の膜が貼っていく。


「カイル! エルネスト!」


 恐怖と孤独で潰れそうになっていたラクジットは、駆け付けてくれた彼等へ向かって震える両手を伸ばした。




 ***




 ドゥー……ン


 地の底から地響きが鳴り、次いでグラグラと地面が縦に揺れだす。


「うわぁ!?」

「きゃー!!」

「地震だー!?」

「逃げろっ!!」


 揺れは数秒間で収まるが、華やいだ生誕祭の会場だった広場に集まっていた民衆は、一転し混乱状態に陥ってしまった。

 広場の出入り口へは混乱した民衆が殺到し、我先に避難しようと小競り合いが始まる。



「これは……」


 テラスの手摺に捕まり揺れをやり過ごしたアレクシスは、広場の様子と地響きと同時に感じた魔力の迸りで王宮地下の異変を察知した。

 直ぐに立ち上がると、アレクシスは傍に控えているダリルへ目配せする。


「民を避難させろ」

「はっ」


 胸に手を当てたダリルはアレクシスへ頭を下げ、テラスの手摺に足をかけると広場へ向けて飛び降りた。


「ヴァルンレッド、リズリスも騎士達を動かして城の者達を避難させろ」


 無表情のまま頷くヴァルンレッドを横目にリズリスは一歩前へ出る。


「王子。陛下が眠りから覚醒されたのでしょう? 私は陛下をお迎えに向かいます」

「リズリス、民達を避難させることが優先だ。揺りかごの間には俺が行く」

「民など兵達に任せればよろしいでしょうに。そんなことよりも、お目覚めになられた陛下をお迎えに行かなければ」


 民より国王を優先するリズリスの反応は予想通りとはいえ、アレクシスは溜め息を吐いてしまった。

 とはいえ、今リズリスを国王のもとへ向かわせるわけにはいかない。


「……ヴァルンレッド、後は頼む」


 アレクシスはヴァルンレッドへ短く命じると、転移魔法陣を展開する。

 転移する瞬間、チラリとヴァルンレッドを一瞥してテラスから姿を消した。




「何のつもりだ?」


 国王よりも王子の命令を優先し、自分の行く手を遮るヴァルンレッドをリズリスは苛立ちのこもった目で睨んだ。


 殺気を込めて睨んでも全く動じず、表情ひとつ動かさないヴァルンレッドに、リズリスの苛立ちは高まっていく。

 ビシリッ、嫌な音を発し窓ガラスに亀裂が入る。


「陛下のもとへは行かせぬよ」

「何だと? 貴様っ!」


 声を荒らげ剣の柄へ手を伸ばしたリズリスは、強力な魔力が地階から放出されたのを感じて動きを止めた。

 国王とよく似た、しかし異なる魔力を感じて高ぶっていたリズリスの苛立ちは霧散する。


「まさか、目覚めさせたのは王女か?」


 思わず「馬鹿な」と小さく呟いた。

 生意気で淑女とは言い難く強い意思を秘めた娘が、自ら贄になるために国王を目覚めさせるとは思えない。

 揺りかごの間までは、解錠が出来る協力者がいなければ辿り着けない。

 その協力者とは……答えを導きだしてリズリスは自嘲の笑みを浮かべた。


「ヴァルンレッド、何を企んでいる?」


 スラリと腰に挿した長剣を引き抜いたリズリスは、王女を唆したであろうヴァルンレッドへ剣の切っ先を向けた。


「陛下はラクジット様が目覚めさせた。目覚めた陛下のお迎えは王子の役目。そしてダリルは騎士団への指示役。私の役目は、お前の足止めだ」


 あくまでも淡々と表情を変えずに、ヴァルンレッドは腰に挿した剣を抜き放った。


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