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01.注目の新人冒険者

3章開始です。

14歳になりました。

 エディオン国と隣国の国境、防衛の要となっていた砦がゴブリンの盗賊団に襲撃されたのは、もう五年前の事。


 たかがゴブリン、すぐに制圧して砦を取り返せる。そう高を括ったドルマン辺境伯は、五十人に満たない人数の私兵を砦へ送り込んだ。

 しかし、数日後、辺境伯が知らされたのは送り込んだ私兵が全滅したという知らせだった。

 盗賊団の頭は高レベルの魔法を繰り出す、ボブゴブリンだったのだ。

 その後、幾度と無く砦の奪回と盗賊団の殲滅のため辺境伯は私兵を送り込むも全て失敗に終わる。

 冒険者ギルドの力を借りたが、冒険達もまさか盗賊団の頭が魔力吸収魔法の使い手で、手下のゴブリンに強化魔法をかけて戦闘を行うとは思わず、何人もの冒険者達が敗北して命を失った。

 難攻不落の盗賊砦の攻略難易度は、今やAに近いBとなっていた。




「えっ、嘘、攻略したの!?」


 茶色の巻き髪と濃い化粧、胸元の空いたワンピースという派手な外見をした受付嬢は、目の前に立つ若い冒険者が持ってきたボスゴブリンを倒した証拠を受け取り、濃いアイシャドウに彩られた目を丸くした。


 高まる興奮を抑えつつ、証拠の品を念写で作られた照会資料と鑑定魔法を照らし合わせる。

 確かに、砦の奥で司令官の椅子に座ってふんぞり返っていたボスゴブリンの身に付けていた装飾品、砦の司令官が愛用していた名前入りの短剣、倒された魔術師の身に付けていた魔法の指輪に間違いない。


「本当にあの盗賊砦を三日で攻略しちまうとはなぁ」


 腕を組んでやり取りを見ていた金髪を短く刈り込んでタンクトップにハーフパンツという、如何にもファイターという筋骨粒々のギルドマスターの男性は、感嘆の声を漏らした。


「流石、陽光のお嬢と氷の王子だな」


 ギルドマスターから陽光のお嬢と評されたらしいラクジットはプッと吹き出した。


「なんですかそれ?」


 相方であるカイルハルトは、薄い金髪にアイスブルーの瞳を持った美少年だ。

 たとえ、某冒険ゲームの旅人の服みたいな簡素な装備でも、この一年で随分背も伸びて大人びてきた彼には生まれもった気品もあって氷の王子と評されても納得する。ギルドマスターの目には、ラクジットが太陽の様に光輝いて見えているのかと困惑した。


「お前さん達のギルド内での愛称だよ」


 がはははっ、腕組みしながら豪快に笑うギルドマスターの笑い声がギルド一階の酒場に響く。

 派手な受付嬢も「そうそう」と頷いた。


「二年前突然現れた、どんな高難度依頼も引き受けて必ず達成させる、可愛らしい少年少女だもんね」

「お前たちは瞬く間に冒険者ランクを上げていって、もうじきBランクになるだろ?」


 近くで酒を飲んでいた赤銅色の胸当てを纏った戦士が、グラス片手に上機嫌で会話に加わる。


「有名冒険者パーティーの引き抜きにも全く靡かない。この前なんか辺境伯の使者を氷の王子は追い払ったし、今やこのギルドの注目株でギルド一の働き頭なんだよ」


「カイル? 追い払ったの?」


 難易度の高い依頼を受けるようになってから、冒険者達の注目を浴びて「仲間に加わらないか」という誘いの声はよくかけられていたが、辺境伯の使者の件は知らない。

 隣に並ぶカイルハルトを見上げてみても、彼はそ知らぬ顔で僅かに眉を動かすのみで詳しく話す気は無いようだ。


「今の辺境伯は若くてイイ男って聞くわ。気に入られるかもしれないチャンスだったのに、勿体無いわねぇ」


 心底そう思っているらしい受付嬢に、ラクジットは苦笑いを返す。


「私達が冒険者をしているのは修行のためだからね。いずれ実家に戻らなきゃならないもの。辺境伯の御抱えにはなれないよ」

「えー!? ラクジュちゃんいなくなっちゃうのか? 時々会えるのが楽しみなのに」


 言い切る前に勢い良くグラスをギルドマスターへ押し付けた戦士は、がばっと筋肉質の両腕を開きラクジットに抱き付こうとした。


「ラクジュちゃーっ!?」


 戦士が抱き締める直前、彼は笑顔を貼り付けたままの表情で後方へと吹っ飛んだ。


 ドカッ! バキィッ!


 派手な音を立てて吹っ飛んだ戦士はテーブルと椅子を薙ぎ倒し、そのまま仰向けに昏倒する。

 戦士の左肩を掴み、後頭部へ手刀の一撃を落とし後方へ投げ飛ばすという、強烈な攻撃をしたカイルハルトへラクジットはやり過ぎだと睨む。

 自分で対応出来たのに、最近のカイルハルトは思春期へ入ったせいで口数は少なくなり、口に出す前に行動するようになっていた。


「……報酬を受け取って帰るぞ」

「カイル、やり過ぎだよ」

「あれくらいじゃ死なないだろ」


 昏倒している戦士を周りに居る仲間達は面白がって小突き。中には軽く蹴っている男もいた。

 ギルドマスター曰く、王都のお上品なギルドより治安が悪いミンシアのギルドには、下品で豪快な愉快な冒険者が多い。

 これくらい、酔った冒険者達にとっては日常茶飯事な事で揉め事にも入らないという。


「王子っていうよりはお姫様を護る騎士みたいだなぁ。ラクジュちゃんに求婚まがいな告白した奴も即沈められていたし。カイルは騎士より番犬か?」


 豪快に笑うギルドマスターに背中を叩かれたカイルハルトは、殺気を込めた瞳で冷たく彼を睨む。


「ああっと、悪い悪い」


 背中から手を離したギルドマスターは、低レベルの者は身が竦んで動けなくなるほど強烈なカイルハルトの殺気を軽く受け流し、苦笑いした。


「無愛想でごめんなさい」


 ギルドマスターに頭を下げ、ラクジットは受付嬢から報酬金を受け取った。

 硬貨が入った重たい麻の袋を手にして、メリッサへのお土産に何を買おうかとラクジットは考えを巡らす。


「ラクジット、少しは自覚してくれ」

「自覚? 何を?」


 受け取った報酬金を上着の内ポケットへしまったカイルハルトは、ラクジットを見下ろして残念な物を見る様に溜め息を吐いた。




 ギルドから出ると、吹き抜けた乾燥した風によって肩上で切り揃えたで黒髪が舞う。

 二年前は違和感あった黒髪も、もう慣れてしまった。

 隣を歩くカイルハルトの手が、風で乱れたラクジットの髪を手櫛で整える。


 ラクジットより半年早く誕生日を迎え、カイルハルトはもう15歳。

 出会った頃は同じくらいだった身長はとっくに追い抜かされ、横に並ばれると彼の顔を見るためには首を傾けて見上げなければならない。


 二年前からギルドに冒険者として登録し、ラクジットとカイルハルトは魔物退治を請け負っていた。

 冒険者として実戦経験を積むように指示を出したのは、鬼師匠ことエルネストだった。

 何だかんだ言っても甘いヴァルンレッドとメリッサは大反対したが、実戦経験をしたいというラクジットの意思を二人は尊重してくれたのだ。


 ギルドからの高難度の依頼をあえて受けている内に、いつの間にか冒険者のランクは上がっていた。

 あくまでも責任感や報酬金のために依頼を受けているのではなく、力試しのつもりだったラクジットにとって「注目株」とギルドマスターから言われても困惑する。

 高難度の依頼を受けても、この国にはヴァルンレッドとエルネストより強い魔物が存在しない。

 実戦経験を積めば積むほど、ヴァルンレッドとエルネストの強さは規格外なんだと実感した。


 イシュバーン国王から与えられたラクジットの自由は15歳の誕生日まで。

残された時間は数か月しかない。

 未だに鍛錬でエルネストには勝てず、このままでは国王はおろか黒騎士にすら勝利することは難しいと、焦りを感じていた。


カイルハルトは思春期男子へ成長しました。

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