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01.旅は前途多難!?

2章になります。

 どうしてこうなったのだろうか。

 半ば混乱しながら、ラクジットは踏み固められた土の道を歩く。

 土地勘など全くない、初めて訪れた町で一人迷子になるなんて情けないやら心細くて、出そうになる涙をぐっと堪える。


(言われた通りに大人しくしていれば、メリッサの買い物が終わるのを待っていれば良かった)


 荷車を可愛らしい色で塗って改造した、果物とクリームをクレープ生地で巻いたクレープを販売している移動販売車に出会して、追いかけているうちに迷子になってしまったのだ。

 移動販売車を追いかけて買った苺クレープは、甘味と酸味が絶妙で美味しかった。でも、迷子になりメリッサに心配されてヴァルンレッドに怒られるのなら、追いかけなければよかったとラクジットは頭を抱えた。


 今更反省しても遅い。どうにか中心街へ向かおうと勘を頼りに歩いているうちに、どんどん薄暗い寂れた路地裏へ入り込んでいった。




 数百年前から、オディール国と隣国イシュバーン王国との交流の窓口となって栄えてきた歴史あるこの町、ウルスラは、古来より自国とイシュバーン王国からの物資や風習が入り交じり発展していった結果、独自の文化を築いてきた。

 国の文化財となっている建物も多く立ち並び、かといって封建的な町でも無く、近代的な建物も文化財の存在を壊さない様に建てられている不思議な町。


 小さな村から始まったウルスラの町は、長い年月を経て増設に増設を繰り返したためとても複雑な構造になってしまい、初めて訪れた旅行者は気を付けなければ迷子になってしまうという。

町の観光案内所で貰った町の案内図を広げて見ても、ラクジットには此処がどこなのか分からなかった。


「メリッサはきっと心配しているよね。中心街を目指していたのに、此所は……いったいどこだろう」


 きょろきょろと辺りを見渡すが、古い煉瓦で出来た壁に囲まれた道が四方に広がっているばかりで、自分が何処にいるのかも分からない。

 中心街周辺は整備された綺麗な町だという印象だったのに、今迷子になっている所は煤けた小汚い裏路地のような場所。

 遠くには、中心部の石造りの塔の先端が見えているというのに、いつまで歩いても辿り着けない。

 どうしてこの町はこうも道が入り組んでいるのだろうか。目の奥がツンとして、ラクジットの視界に涙の膜が張っていく。




「お嬢ちゃんどうしたの~? 泣きそうな顔しちゃってもしかして迷子?」

「えっ?」


 通路の先、前方の暗がりから若い男の声が聞こえ、ラクジットは俯いていた顔を上げた。

通路から現れたのは、だぶだぶズボンに黒ボーダーの一囚人服に似た上着を着て、首には小振りの鎖が連なったネックレスを付けて両耳と鼻に複数のピアスを付けた、いかにも素行が良いとは思えない男が胡散臭い笑みを浮かべながら近づいて来た。


「この街じゃ迷子になる人が多いからねー」

「俺たちが案内してやろうか?」


 ボーダー服の男の後ろから顔を出したのは、これまただぶだぶズボンを履いて筋肉質の体を強調するピッタリした半そで服を着たスキンヘッドの男と、同じ様なだぶだぶな服装で童顔なのに無理して髭を生やしていた男が続く。


「そうそう優しく案内してやるよ」


 まるで値踏みするように厭らしい目で見ながら、童顔の男はラクジットの後ろへ回り込んで退路を塞いだ。


(わぁ、初めてこういう人達は間近で見た。この世界にもこういうチンピラみたいな人もいるんだ。どうしよう)


 緊張感の欠片も無いことを考えている間に、男達に逃げられないように囲まれてしまいラクジットは周囲を見渡した。


「そんな怖がらないでよ。大人しくしてくれれば痛い事はしないからさ」


 どうやってこの場から逃げようかと、俯いて考えていたラクジットが怯えていると勘違いしたのか、男達はニヤリと厭らしく笑う。


「何で気付けなかったのかな……」


 今の状態に焦る以前に、自分が情けなくなってラクジットは眉を寄せた。

 初めて来た場所で迷子になったうえに、注意力が散漫になっていたとはいえ、彼等に声をかけられるまで存在に気が付かないなんて。一人でいるときは周囲の気配に気を配る様にと、ヴァルンレッドから教えてもらったのに。


「いえ、大丈夫です。この先に連れがいます」


 顔を上げたラクジットに怯えの色など全くなく、毅然とした態度が気に入らなかったのか男達のラクジットを見る目が鋭くなる。

 一般人の範囲から出ない彼等に睨まれても、追ってきた騎士へヴァルンレッドが向けた悪魔のような殺気に比べたら、全く怖くない。


「連れの元へは行けないぜ、お嬢ちゃん」

「大人しくしてりゃ痛いことはしないって」

「きゃあっ」


 背後からスキンヘッドの男に肩を掴まれ、驚いて体を揺らしたラクジットの頭からかぶっていたフードがハラリと落ちる。


「銀髪?」


 スキンヘッドの男から驚きの声が上がる。

 フードから零れ落ちた銀髪を慌てて押さえるもすでに遅く、薄暗い路地でも燐光を放つ銀髪が男達の目に晒されてしまった。


 暴れるラクジットの肩を掴んだまま、スキンヘッドの男は興奮した様子で銀髪へと手を伸ばす。


「銀髪って事は、エルフか? いや、エルフでも見ない色だな。コイツはレアじゃねえか!」

「痛っ」


 乱暴に髪を一房引っ張られる痛みと、肩に男の指がギリギリと食い込む痛みでラクジットの目に涙が浮かぶ。


「エルフの髪って緑色じゃなかったか? コイツは獣人か?」

「まぁ、種族は何でもいいさ。このガキは良い商品になりそうだからな。久々の上玉だ、少女趣味の金持ち連中に高値で売れるな!」


 かぶっていたフードが外れて、露になったラクジットの容姿と長い銀髪に男達は色めき立った。


 イシュバーン王国は、初代国王である竜王が嫌ったため奴隷制度は無い。

 しかし、此処オディール国は人身売買が容認されている国だったと思い出して、ラクジットの顔から血の気が引いていく。


(この男達は人買いの一味なのね。いつから目を付けられていたの? 私、何で気が付かなかったの)


 オディール国へ入ってから、ヴァルンレッドとメリッサから「一人で行動しないように」と散々言われていた理由がやっと分かり、ラクジットは下唇を噛む。


「やだっ! 離してよっ!」

「くっ、暴れるなっ」


 両手をばたつかせて抵抗するラクジットに、背後から肩を押さえる男は舌打ちして両手の力を強める。


 引っ張られた髪が数本抜けるくらいの力で押さえられて、あまりの痛みでポロポロ涙が零れた。

 やっと囲っていた檻から逃げたのに、人買いに連れていかれるだなんて冗談じゃない。喰われる相手が、暗黒竜から変態爺に変わるだけとか、冗談でも嫌だ。


 何時も守ってくれるヴァルンレッドとメリッサは側には居ない。周囲には助けてくれそうな相手も居ない。

 自分の身を守れるのは自分だけだ。

 髪を引っ張られて後ろへ倒れかけながら、ラクジットは必死の抵抗として右手を前方へ突きだした。


「触らないで! このっ、ファイアーボール!」


 無詠唱で叫んだ力ある言葉と共に、右手のひらに魔力が集中していき巨大な火球と成る。火球は一直線に男達へ向かって放たれた。


 ドオーン!!


 放たれた巨大な火球は男達に逃げる間を与えることなく、驚愕の表情で飲み込まれていく彼らの悲鳴を掻き消すほどの爆発音が辺りに響き渡る。


「えっ!? うそっ! ごほっ」


 小さな火球が放たれる初期魔法レベルじゃない爆発が起こり、爆風で通路の壁が瓦解し吹き飛ぶ。

 石の壁が崩れ落ちて大量の砂埃が舞い上がった。


「ごほっごほっ!」


 砂埃で呼吸が出来なくなったラクジットは、口元を手で覆い盛大に咳き込んだ。


 砂埃で霞む視界の中、目の前の壁が大きく崩れるのが見えた。

 建物が崩れる衝撃と、これを起こしたのが自分だと言う恐怖から両足がすくんで動けない。


「きゃあ!」


 動かない足では崩落する石を避けられない。

 石の直撃は免れないと覚悟を決めて、体に力を入れたラクジットはギュッと目を閉じた。

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