表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

テスとクリスタ

クリスタはトレーニングに精を出す。『テスとクリスタ』番外編

作者: 澳 加純 

このお話は『テスとクリスタ 第一話あたしの秘密とアナタの事情』の番外編ですが、本編を未読でも(たぶん)お楽しみいただけるようになっています。




登場人物紹介


✩テス…………カヌレ大学に通う奨学生。18歳。ごくごく普通の女の子だが『准A級(セミ-Aクラス)認定証(ライセンス)』を持つ超常能力者タレント。このお話の語り手。


✩クリスタ…………テスの幼馴染みで大親友。カヌレ大学生。18歳。テスとルームシェア中。長身のスタイルを活かし子供の頃からモデルの仕事もしているが、近年人気デザイナーに見出され人気に火がついた。テスが能力者タレントであることは知っている。



   挿絵(By みてみん)



人類が木星辺りまで生活圏を広げた遠未来。新興住宅地と化したアステロイドベルトの人工改造惑星レチェルを舞台に、テスの超常能力が巻き起こす騒動を描くSF友情&ラブコメディ。ですが、こちらはホームコメディ感覚でお楽しみください。







 バスルームからリビングに戻ったら、あたしの親友で新進人気モデルのクリスタは、トレーニングをしながらTVのニュースショーを観ていた。ううん、正確には音声を聞きながら筋トレに励んでいた、かな。


 床に敷いたヨガマットの上に、うつ伏せ姿勢。両手両足を肩幅に開いて、床と平行になるように肘とつま先の4点で身体を支え30秒。この間、頭と背中全体、腰、かかとが一直線になるように姿勢フォームはキープする。

 脊柱起立筋を鍛える「ノーマルプランク」というメニューを実践中。

 簡単そうに見えるけど、正しい姿勢フォームをキープし続けるのは意外とハードなのよ。




   挿絵(By みてみん)


   


「クリスタ。バスルーム、先に使わせてもらったよ~」

「はいよ」


 返事をしながら、彼女はクルリと今度は仰向けの態勢に。両手を足の方向に向かって床に着き、両手とかかとで前身を支えたまま、首元から足首までが一直線になるように腰を持ち上げ手そのまま静止。

 「リバースプランク」。これも脊柱起立筋を鍛えるメニューね。


 脊柱起立筋は、首から腰にかけて背骨の両側にある筋肉。

 モデルは姿勢の良さが命でしょ。背中がスッと伸びているだけで、カッコ良く見えるもんね。この筋肉を鍛えることで、美しい背中を作るんですって。

 はい。もちろん、このウンチクはクリスタの受け売りです。




   挿絵(By みてみん)




 さらに腹筋を鍛えるクランチとか、下半身に効果的なワイドスクワットだとか、足を伸ばしながら腸腰筋を鍛えるストレッチ……と、彼女の体幹トレーニングは続いていく。

 クリスタは「ジムでは器具も使用してもっと本格的なメニューを熟しているから、家ではストレッチ程度さね」なんて軽~く言うけど、あたしには充分本格的なトレーニングに見えているよぉ。


 ついでに聴覚はTVから流れるニュースショーの音声を拾い、脳内は情報収集というトレーニング(!?)をしているの。

 あん、そんなことが出来るのかって? 出来るわよ、クリスタですもん。


「ねぇクリスタ。すごいニュースやっているわよ。惑星パステリで大きな車両脱線事故があったんだって。観て、あの映像。先頭車両が横倒しになっているわ」


 とあたしがTV画面を指さしても、彼女はリバースプランクの2セット目を続行したまま、


「でも、幸い死亡者は出なかったんだってね。怪我人52名も全員救出されて3ヵ所の病院に移送されたって、さっきキャスターが言っていたけど。事故の原因は何だったんだろうねぇ……」


 ほらね~。ちゃんと報道内容は把握しているでしょう。器用なことだわ。



 あ。クリスタがやっているトレーニングって、ムキムキマッチョになるためのメニューじゃないわよ。お洋服をきれいに着るための筋肉を作るためのもの。

 ほら。ファッションモデルのお仕事って、お洋服を魅せることでしょ。そのためには頭のてっぺんから足先までつながった、直線的なシルエットが理想なんだとか。


 クリスタが言うには、よ。

 ランウェイを歩くトップモデルたちの洗練されたスタイルは、その直線的なシルエットっていうのが重要なんだって。

 その「まっすぐなボディ」を作るのが骨格で、それを形成するために筋肉を鍛える必要性があるそうな。「モデル筋」とか言うらしいんだけど。


 高身長や、食べても太らない体質に恵まれた彼女だけど、こうした努力は欠かさない。お肌のコンディションや美ボディの維持には、ストイックなほど神経を使っているんだよ。

 トレーニングに、食事、生活習慣……。

 そう、美女は一朝一夕には作られない。のほほんとしたあたしには、到底真似できないほど努力をしているんだもん。何事も、頂点に立つのって大変なんだわぁ。


 あ。あ。あ。

 でもね。あたしも親友として、少しばかり、そのお手伝いをしているんだよ。

 食事管理と云うか、毎日の食事の献立を考えて準備しているのは、あたしよ。

 高タンパク低カロリー、スーパーフードも取り入れて。映えよく、飽きない、美味しい「モデル飯」作りがあたしのささやかなお手伝いなの。

 彼女が気持ち良くお仕事が出来るように生活環境を快適に整えてあげる。大好きなクリスタのためにあたしが出来ることって、それくらいですもの。


 まあ、その話は別の機会にネ。





 キッチンからミネラルウォーターのボトルを持ってリビングルームに戻ってきた頃、クリスタはもう一度プランクの姿勢を取っていた。

 あれ、でも背中を丸めているよ? 

 そのポジションのまま、腕を曲げずに小刻みに身体を押し上げている。




   挿絵(By みてみん)




「はれ? クリスタ、なにしてんの」

「セレイタスプッシュアップ。前鋸筋を鍛えるんだよ」


 なに、それ?


「前鋸筋ってのはさ、肋骨と肩甲骨をつなぐ筋肉なんだ。今度背中の開いたドレスを着るんでね。肩甲骨がくっきりと出たほうが美しいだろ」


 なるほど。ン。――って、ことは。


「じゃ、明日の撮影ってドレスなの!?」

「予定はコートやジャケット、ブラウスとかいろいろ含めて6着なんだけどさ。そのうちの1着がマーメイドラインのロングドレスだよ」


「きゃあ!すてき!!」


 そう。クリスタは明日から2日間、ハイエンドを扱う有名モード誌のグラビア撮影のスケジュールが入っているの。 

 だから食事も、彼女のリクエストで身体を引き締めるために糖質を抑えたたんぱく質メインのメニューにしたんだった。


「ああ。この間フッティングしたんだけど、すっごくクールなドレスなんだ。だから、あたしもそのドレスに負けないように、バッチリなバックスタイルを作っていかなきゃならないのさ」


 さっすが、プロフェッショナルね。

 某TV局の、人気ドキュメンタリー番組のテーマ曲が聞こえてきそう。

 

前鋸筋ここを鍛えると猫背の改善にも繋がるんだよ。おまえさん、最近猫背気味だろう。一緒にやらないかい」

「え……。あ、それは、遠慮しておく。ほ、ほら。もうシャワー浴びたもの。また汗をかくのも……」


 あたし、焦ってノーサインを出す。

 だって、クリスタには軽いトレーニングでも、あたしにとってはハードなの! 明日筋肉痛になったら困るでしょ。バイトのシフトが入っているんですもの。

 筋肉痛を堪えつつ、カフェの中を歩き回って笑顔で接客なんて器用なこと、あたしには無理!


「それより明日の撮影って、南の大陸のエルマだっけ? 出発は朝早いんでしょ。トレーニングも大事だけど、寝不足になったらお肌のコンディションに響くわ。クリスタも早くシャワーを浴びて休んだほうがいいんじゃない?」

「そうだねぇ。それじゃ、あとヒップリフトをやってから……」


 と、仰向けになると長い脚は両膝を立て、骨盤幅程度に開いた。両腕は体側にまっすぐ手のひらを下にしてマットの上に置く。息を吐きながら腰をゆっくりと持ち上げた。肩から膝が斜めに一直線になるように。そのまま1分間キープ。これを3セット。




   挿絵(By みてみん)




 簡単に見えるけど、あれ、内股に力を入れてお尻をキュッと堅くしているから、なかなかハードよ。慣れないと足がプルプルしてくるもん。


 よく知っている、って。そりゃあ、いつも見ているし。

 ああん、やり方じゃなくて、足がプルプルしてくるって事の方?


 えへへ。実は、昨日の晩、自室でこっそりクリスタの真似をしてやってみたの。あたしだって、スタイルは気にしているもん。


 けど、メチャ大変だったんだから!

 3セット目に入る頃には、姿勢を保つことすら苦労するんだから!


 なんでもドレスを着るには、背中もそうだけどヒップラインも重要なんですって。ボリューミーでキュッと持ち上がったヒップは、セクシーですものね。うんうん。

 だって自分じゃ見えないけど他人からはバッチリ観察されている部位よね、ヒップって。


 あたしも、ちょっと真面目にやっておいた方がいいかしら? 多少なりとも重力に反抗したい意志くらいは主張しとこうかしら。

 クリスタ並みとはいわないけど、やっぱり、ちょっとくらいはカッコいい方がいいじゃない?

 ねえ。



 なんてモヤモヤしている内に、クリスタの本日の自宅筋トレメニューは終了した。

 ジムにヨガやピラティス、自宅でもトレーニング。それにしても一流メゾンで活躍するトッププレイヤーって、ホントに大変だと思う。


「じゃ、シャワーに行ってくるわ!」


 男前な親友は額にうっすら汗を浮かべつつ、キリッとした笑顔でバスルームへと向かって行った。

 どーせそこでも、リフトアップのマッサージとかしているんでしょうね。尊敬します。


「ふやける前に上がるのよ~」

「はいよ~!」


 向こうの方から返事が聞こえた。





 ♡ ♡ ♡ ♡





 数日後。


 帰宅早々、クリスタがあたしの目の前に、例のモード誌をポンと出したの。自慢気に微笑むからピンときたわ。

 飛びつくようにそのA4版の雑誌をひろげ、ページをめくっていく。


「あった!」


 白いドレスだわ。それも膝までは身体にぴったりとフィットしつつ、裾が人魚の尾ひれのように優雅にひろがったメリハリのあるラインを描いた、マリエのようなドレス姿のクリスタがいた。


 背が高くて、ウェストがくびれていてバストとヒップがあるクリスタには、バッチリ似合っている。

 セクシーでエレガントで大人っぽくて、なんて素敵なの!!





   

   挿絵(By みてみん)

      イラスト:星影さき様



 



 思わず嬌声を上げちゃった。ライトブルーの瞳を大きく見開いたあたしの表情を観て、クリスタも満足げにうなずいている。



 やっぱりクリスタって、最高ッ!

 銀河中に大声で自慢したい大親友よ!!


 あたしの満面の笑顔を見て、クリスタも誇らしげに肩をそびやかしてみせたわ。













 でもね。

 その後、自分の部屋へ戻って、ベッドに横になる前にしみじみ考えちゃったのよ。




   挿絵(By みてみん)




 ああん、筋トレ……というか、運動ニガテなのよねぇ。その上、クリスタみたく真面目に継続させる自信が無いんだもん。


 どうしたものかしら、ねぇ?







ご来訪、ありがとうございます。


前々からモデルさんがどうやって美ボディを造り、そしてスタイルを維持するのか興味があったのです。よくジムに通う……とか聞きますが、彼女たちの肉体って、アスリートとはシルエットが違うじゃありませんか。もちろん、マッチョなボディビルダーのようなムキムキではありませんし。

どうして彼女たちは、トレーニングしてもあんなにスラッとしているのだろうか? という疑問がこのお話を書くきっかけでした。

――というか、「肉フェス2」に参加したくて、無理矢理こねくりだしたようなお話です。


星影様に描いていただいたイラストも、インスピレーションに一役買ってくださいました。そして掲載を許可くださり、誠にありがとうございました。感謝いたします。

(このイラストありきのお話ですから、許可がいただけなかったらどうなっていたことか……)


テスとクリスタの日常の一コマを楽しんでいただけたなら幸いです。



おまけ!




   挿絵(By みてみん)






ふたりが大活躍する本編はこちら。


『テスとクリスタ ~あたしの秘密とアナタの事情』

   https://ncode.syosetu.com/n5837di/   


『テスとクリスタ』シリーズ

   https://ncode.syosetu.com/s9390f/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] モデルさんのあの凄さは、こういう努力もあってのことなんですよねーーー! 美は簡単ではないということを教えてくれます。 冨永愛さんの本が好きで読んでますが、やはりこんな感じで日々トレーニン…
[良い点] せっかく図説があるんだし! と思ってやってみました >ノーマルプランク スタート時からプルプルして、みぞおちを中心に腹筋が緊張しまくります。 こ、これを30秒…Σ(゜A゜;) >リバー…
[良い点] なるほどね~。確かにモデルさんの筋肉はアスリートのそれとは違いますね。シュッとしているけども、しっかり筋肉が付いているイメージです。 体幹トレーニングはきついのが多いですね。ノーマルプラ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ